開き直った山形は無敵よ!!ある意味!!
御堂一族の皆さんの前に立った俺に向け、一斉に視線が集まってくる。
先程のエリスさん以上に好奇と困惑と期待、羨望や嫉妬、好意から嫌悪すら混ざる感情の数々は、まるでカンバスに多種多様な絵の具をぶちまけたような混沌具合だ。
一族の姫、そして当代きっての出世頭であるところの香苗さんが、思いっきり暴走してからの俺の名乗りである。
どうあれ好意的な目ばかりではないだろうとは思っていたけれど、これはさすがに想定以上のカオスさだ。
未だ、葵さんに抱きしめられて介抱されているエリスさんがボソッとつぶやいた。
「公平さん、大変だなあ……私だったらもうとっくの昔に失神してるよ」
「師匠にこんな視線、向けられてたらさしもの葵さんも断じて黙ってませんけど……それを考えると山形くん、一人でこれを乗り切らなきゃいけないんですね。なんせ私ポジションなのってたぶん、今この状況を作り出した伝道師さんですし」
すっかり他人事である。まあ実際他人事なんだけどさ、つらい。
ていうか薄々分かってた話だけど、葵さんめちゃくちゃエリスさんのこと大好きだな? こないだの翠川相手の時にも垣間見せてたけど、師匠に対して抱く感情がだいぶ重い気がしてならない。
エリスさんもまだダメージが残っているのかなされるがままだし、俺が地獄を味わっている横で何をしているのかね君達と盛大に言いたいところである。
「ううむ……御堂香苗という方はこれまた、強烈な御仁ですなあ、先生」
「私が初めて会った頃はこんなんじゃなく、まさしく氷の姫君って感じだったんだがねえ。公平ちゃんって救世主に出会ったことで、押さえつけていたものがまとめて爆裂したみたいだよ。ま、若いっていいことさねファファファ〜」
「このくらいの個性がなければS級の中では埋没してしまいそうですから、これはこれでアリだと思いますよ? ミスター・公平にはなんというか、かける言葉が"大人になったら飲みに行きましょう"くらいしか思いつきませんが」
「お前はいつでもそれしか言わんだろう、ベナウィ」
サウダーデさん達もボソボソと話しているけど、概ね香苗さんに対しては苦笑いしかできないらしい。強烈な御仁とはまた、オブラートに包んだ言い方をされたね。
冷静に、さっきの話も踏まえていろいろ振り返っているようすのマリーさんだけど、最終的に投げやりな感じに笑って楽しそうにこちらを見るのは止めていただきたい。
というか、これくらいしないと個性的な意味で埋没しちゃうってどういうことだよS級探査者。前から小耳に挟んでいただけでも大概だったけど、いよいよおかしいよこの人達。
うちの伝道師ほどあらゆる意味で個性的な人もそうそういないと俺には思えるし、いてもらっても困るんだけれど。やはり世界は広い、探査者は奥深いということなんだろうか怖ぁ……
遠い目をしつつも、さすがにだんまりを決め込むわけにもいかないしそろそろ現実とも向き合う。
隣にはキラキラした瞳で無垢に微笑む香苗さん、近くには微笑ましそうにそんな娘を見ている一族本家の方々。前にはガン見してくる分家の皆さん。
緊張で変な笑いが出そうになるので、称号効果の瞑想で強制的に精神状態をリセット。マジで便利なんですけどこれ、ダントツで日常に役立つ称号効果かもしれない。
意を決して、俺はみなさんへと挨拶を述べた。
「はじめまして皆さん……今しがたご紹介に預かりました探査者の山形公平と申します。いつも、御堂香苗さんにはお世話になっております」
「シャイニング! シャイニング山形だよおかーさん!」
「ピカってなるのピカーって! それでね、空に飛んでね、なんかピカーってするの!」
「し、静かにして? ね? あと人を指差しちゃ駄目よ」
「えぇ……?」
当たり障りなく切り出したのだが、分家筋の中、幼い子供達が何やら騒ぎ出した。
どうやら例のシャイニング動画を見たらしく、俺を指差してシャイニングだ山形だピカーッ光るだとあれこれ言っては、お母さんにメッてされている。
こんな小さな子達にまで、見られてるんだなシャイニング山形……つぶらな瞳が光り輝いていることに、少なからず衝撃を受ける。
あるいは特撮のヒーローか何かのように思っているのかもしれない。たぶん春先のスタンピードの動画を言ってるんだろうけど、天高く飛んで狼人間に空中コブラツイストを決めた姿って、たしかに特撮チックではある絵面だったからね。
とはいえ、こんなある意味、ウケてしまっているとは……
「光って! 光ってー! シャイニング、ピカピカーっ!」
「…………あー。は、はは。これは、仕方ない、かな」
無邪気にそんなシャイニング山形を求めてくれる幼子に、なんだか毒気を抜かれた気分で俺は笑った。
そうだな。こんな小さな子達がファンでいてくれているのなら、道化のようなシャイニング山形ってのも、強ち価値や意味があるのかもしれない。
『おいおい……お人好しだねえ、君も』
心を震わせる。アルマがため息混じりに言うけど、子供達の無垢な眼差しが、俺を求めてくれているのならば。
たとえ大人の皆さんにドン引きされようと構わない。これからの時代を担う若者達に、思う存分シャイニングしてあげることにするか────
「! 救世主様が、お光に!!」
「先生……本当に光るのですな、おもむろに」
「公平ちゃん、サービスいいねえ。ま、子供へのファンサービスも人気者の仕事のうちだしね」
「生シャイニング見ちゃった……あ、なんか落ち着く……」
「はっはっはー! マジで光ってる、感激ー!」
伝道師はじめ、探査者のみなさんも。
「光ってる……!」
「こ、この光……なんて温かく、そして優しい」
「…………シャイニング山形、か」
「……シャイニング、かっこいー」
「光った、光った!」
「落ち着きなさい! ……いえ、なんだか落ち着いてくるのね、私のほうが……」
一族のみなさんも、子供も大人も関係なく。
みんなが俺のシャイニングを目にし、照らされて落ち着きを得。
「……本日より四日間、皆様にはお世話になります。なにとぞよろしくお願いいたします!」
その機に乗じて俺は、とりあえず最後まで自己紹介をやり遂げたのだった。
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