掃除屋が出張る案件
サウダーデさんのステータスの確認も済み、その強さが詳らかになったところで再度、エリスさんは話を進めた。
ベナウィさんとサウダーデさんの師弟コンビがメインとなってスレイブモンスター達を相手取る間、俺やエリスさん、葵さんについては本命である倶楽部幹部を倒しに行くことになる。
「近畿拠点管理者であるところの、青樹はまあ確定でいるだろうけど……火野、鬼島についてはいるかどうかは不透明だ。翠川によれば火野は東北、鬼島は関東の拠点を根城にしているそうだからね」
「幹部もそれぞれ分散している可能性があるってわけですか……大丈夫ですか? バグスキルが健在だと、下手すると打つ手がないかもしれませんけど」
基本的に敵戦力なんてものは、集合する前を狙っての各個撃破がセオリーなんだけど。こと今回に限っては、幹部達はなんとかひとまとまりでいてもらったほうが間違いなくこちらにとって有利になるのだ。
何しろやつらのバグスキルを封印できるのが俺しかいないわけだしね。たとえば火野の場合《玄武結界》なんてバグスキルを持っているみたいだけど、アレが健在である場合、現世の探査者達に攻めきれるかどうかは微妙なところだ。
エリスさんも当然、そこのところは懸念していたんだろう。うんうんと頷いてしかし、不敵に笑ってみせた。
「私もその辺、不安だったけどね。まあ国内のS級探査者を総動員してるみたいだし、ヴァールさんも対策を講じてくれているそうだから大丈夫だと思うよ」
「S級総動員はすごいですね……っていうか対策って、ヴァールが?」
「そうそう。えーっと、あの人のご同僚の、精霊知能? ってのを一時的に出向させて、バグスキル保持者の対処に当たらせるってさ。ヌツェン? とかいうのと、シャーリヒッタとかいうのと、ジゲルっていうのだって。公平さんに聞けば分かるって言ってたけど」
「…………マジか。シャーリヒッタまで動かすか、ワールドプロセッサ」
思いもしないシステム側からの介入に、俺は思わず唖然として言う。この場の一同、みんなの視線が俺に集中する。
香苗さんに至っては慣れた様子でメモとペンを取り出す始末だ。完全にシステム周りについて知識を取り入れる気満々だな、この人……まあ、別に構いやしないんだけど。
にしてもヌツェンにジゲルはともかく、シャーリヒッタかあ。
微妙な表情のまま、俺は簡単ながら説明した。
「ええと。たしかに彼らならバグスキルでもどうにかできますね。バグスキル切除・封印権限を持つヌツェンに」
「こないだの幽霊さんですよね。なんとかリムーバーとかってスキルを持つ」
「はい。ジゲルについては俺も、あまり知りませんけど……シャーリヒッタは正直、意外です」
言いながら内心、ワールドプロセッサがだいぶキレてるらしいことを察する。
シャーリヒッタを動かすなんて初めてのことじゃないか? 少なくとも私が領域にいた頃、あの子が本来の役割のために働いているところを見た覚えはないのだが。
ヌツェンはすでに先日、俺の新スキル《風よ、はるかなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》による召喚で現世に現れている。
そうでなくともバグ担当の彼女は今回の騒動に際し、システム側で一番当事者に近い精霊知能だ。出張ってくるのは当然だろう。
ジゲルについてはよく知らない。おそらくヌツェン同様、ここ100年以内に発生した精霊知能だと思われる。
とはいえこの局面で出向かせるからには、間違いなくバグスキル関係に対して優位性を持つ権限を付与されているものと考えられる。そこについては確実だと、俺も信じているんだけど……シャーリヒッタはなあ。
「著しく現世に混乱を齎した者への粛清執行役として、絶対的な権限を有するシャーリヒッタ。特異な立ち位置ですから、まず出張って来ない転ばぬ先の杖みたいな存在なんですが……」
「なんとも物々しいね。絶対権限って言うと、例えば?」
「あくまで執行対象と認定された者に対してのみですが、その者の行動や状態を段階的に操作できます。権限がすべて解除された時には、ステータスの剥奪すらも可能ですね」
精霊知能シャーリヒッタ。普段はシステム領域の最奥でワールドプロセッサのサポートをしている子だが、その存在が本来担当しているのはトラブルシューティングだ。つまるところ、処刑執行。言い換えれば掃除屋でもある。
この世界のシステムにさえ影響を及ぼしかねない重大事が起きた際、原因である物事に対しての絶対権限を引っ提げて顕現する。そしてあらゆる手を尽くして事態の解決を図ることで、世界そのものの秩序を護る役割を担っているのだ。
今回、彼女が派遣されたということはワールドプロセッサ直々に、倶楽部案件が世界のシステムそのものにも危機を及ぼす事態だと判断したということだ。
スレイブモンスター……だけでそこまで判断するものなのだろうか? バグスキルを加味してもまだ、シャーリヒッタを動かすには至らないように俺には思えるが。
何を見ている? ワールドプロセッサ。
──疑念に答えるかのように、俺のステータスが更新されるのを感じた。称号に変化あり、か。
確認は後にするとして、サウダーデさんが重々しくも口を開いた。
「まるで神のようなモノだな……ソフィア様やヴァール様のこともあり、ある程度そういうモノもいるとは思っていたが、それほどとは」
「基本的にヴァールやリーベが特例であり、精霊知能が現世に対し、一時的にでも顕現することはまずありません。だからこそ、今回の件はいろいろ厄介な何かがまだ、潜んでいるような気はしますね……」
「元より委員会がバックにいる連中だからねえ。何やらかしても不思議じゃないとは、たしかにヴァールさんも言ってたかあ」
あんまり悪さしないでほしいよねー、と軽いノリでうそぶくエリスさんだけど。
それに対して俺は、そこまで軽妙に返すこともできず、ただ沈黙とともに頷くばかりだった。
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