師匠と弟子と─師であり弟子でもある人─
異様に多趣味なエリスさんのSNSをほんの一部、本当に少しだけだけど教えてもらったところで、俺はこの部屋に探査者が近づいてくるのを感知していた。
気配は5つ、おそらくは香苗さん達とマリーさん達が揃って向かってるんだと思う。なんだろ、探査者だけでの会議かな?
「香苗さん達、こっち来てますね。マリーさんやサウダーデさん、ベナウィさんも一緒です」
「あ、そう? 用事が終わったら一応、軽くながらもみんなを集めて作戦周りの打ち合わせしよっかーって考えてたんだけど……向こうから来るなら好都合だね」
「ですねー」
元々、どこかのタイミングで会議めいたことは行う予定だったみたいだ。にしても示し合わせたようにみんな向かってくるあたり、なんだか仲いいねって感じはする。
たぶん、香苗さんと葵さんがそれぞれ俺とエリスさんのところに行きたくて、そこにマリーさん達が合流したって流れだろうけど。
いずれにせよ、のんきな話し合いの時間はそろそろ終わりってことらしかった。
「────失礼します。公平くん、エリスさん、おられますでしょうか」
「戻ってきました香苗さんと葵ちゃん、フランソワさん風間さんコーデリアさんもお揃いでーすはっはっはー!」
「はい、二人ともいますよー」
締め切った襖の向こう、やってきた5人の影が見える。
香苗さんと葵さんの声に俺が応えると、すぐに襖が開けられてそのまま5人、中に入ってきた。俺と葵さん以外の全員が現役、もしくは元S級という凄絶なメンバーだ。
エリスさんがひらひら手を振り、葵さんへと答える。
「おかえりー葵〜、それにみんなも。楽しかった? 親戚対応とお説教」
「香苗さん、大変そうでしたよ〜。いやーしんどいもんですねやたらゴマ擦ってくる親戚の相手っていうのも」
「いやはや、お見苦しいところをお見せしてしまいました。実際のところ、説教というより互いの近況報告がメインでしたがね。貴重な話を聞けましたよ……山形殿」
「え、あ、はい?」
急にサウダーデさんから名前を呼ばれ、ドキッとしつつ彼を見る。正直怖いんだよねこの人、風貌もさることながら初手ベナウィさん引きずってのお説教ってところでスパルタ感があるし。
ていうかなんだろう、俺もなんか言われちゃうのかなあ。心当たり……ないこともないかもだけど、怖いなあ。
「あ、あの……な、なんでございましょうか」
「…………ありがとう。話はベナウィから聞かせてもらった」
ビクビクしながらお伺いすると、思わぬ破顔。
巌のように険しい顔つきが、優しい笑みを浮かべてきた。テーブルの下座に座り、俺を見て頭を下げてくる。
そして彼は続けて、こう言うのだった。
「ベナウィの《メサイア・アドベント》……そしてマリアベール先生の《ディヴァイン・ディサイシヴ》。聞けばすべては君が背負う宿命を補佐するため、与えられたスキルだったとか」
「……決戦スキル。ええ、たしかに。お二人とこの場にいないシェン・フェイリンさんの《アルファオメガ・アーマゲドン》、そして香苗さんの」
「《究極結界封印術》。これら4つのスキルで、たしかに私達は救世主様の最終決戦に馳せ参じましたね」
ベナウィさんからある程度聞いたのだろう、俺と香苗さんの言葉にサウダーデさんは大きく、深く頷く。
決戦スキル……そうだよな。考えてみればこの人にとっては師匠と弟子の二人が揃って、使い道も何もしれたもんじゃない謎のスキルを持っていたんだ。その辺の話を聞き出すのは当然だし、縁者としてその資格だってあるだろう。
エリスさんと葵さんがちょっと目を白黒させて顔を見合わせているあたり、このお二人にはそこまで込み入った説明はされていないみたいだ。
まあ、ぶっちゃけ邪悪なる思念関係については部外者だからね。ヴァールがその辺のややこしい話を省いたのも分かる話だ。
「二人のスキルについては、俺も予てより気にはしていた。使いにくいだとか使わないほうがいいだとかですらない、そもそも使うことができないというスキル。ベナウィを弟子に取ったのも、正直なところマリアベール先生の事情をある程度、承知していたからというのもある」
「弟子入り直後、マリアベール様にお引き合わせいただきましたからねえ。あの時はご同類がいるなど夢にも思いませんでした」
「そうだねえ、私も驚いたよ。この堅物が突然弟子を取ったとか言って連れてきた子供が、まさか将太先輩や私と同じタイプのスキル持ってんだからさ」
しみじみ語るマリーさんとベナウィさん。お二人とも、長年詳細不明のスキルを抱えていたというところではシンパシーがあるんだろうな。
香苗さんは将太さんから、リンちゃんはヴァールからそれぞれ決戦スキルを継承していたわけなので、ちょっと事情が違うわけだし……本当に探査者になってからずっと、意味の分からないものを抱えていたってのはお二人だけになるね。
それに伴ういろんな苦悩を、知っているからだろう。
サウダーデさんは目を細めて、改めて俺に言うのだ。
「先生とベナウィが、そのスキルの謎を追い求めて生きてきたのを俺は知っている。どうにかしてやりたいと、方々知識人や教養人の元を訪ねもしたが……収穫はゼロだった記憶は苦いものだ」
「……そう、でしょうね」
「だから。そんな八方塞がりだった状況に光明をもたらしてくれた君に。スキルの真実とそして正しい使い時、使い道をもたらしてくれた君に、俺は心から感謝をしたい。その結果として大業を成し遂げたということへの、敬意も込めて」
師匠と弟子、二人の決戦スキル保持者に挟まれてそれぞれの苦悩を目にしてきた、弟子であり師匠である人。
どうにかしてやりたいのにどうにもできない、そんな懊悩をこの人も抱えていたんだ。だからこそ、すべてが明るみとなり果たすべき使命をも成し遂げた今、彼もまた、胸のつかえが下りたという形なのだろう。
「サウダーデさん……」
「先生とベナウィを救ってくれて、本当にありがとうございました……!! この御恩は生涯、いいや末代までも忘れることはない! 山形殿、あなたは俺にとっても救世主だ!」
熱く告げてくる彼の想いは、どこまでもマリーさんとベナウィさんへの思い遣りに満ちていた。
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