なんだかんだ現代社会を満喫してるおばあちゃん
談笑しているうち、もうそろそろ1時間ほどが経過する。
俺とエリスさんは案外話が合うのか、探査に関わることやそれ以外のことでもあれこれ、話をしてすっかり意気投合していた。
「うーん、私としてはやっぱり作画はよくてナンボだと思うんだよね。ほら、視覚的にスタイリッシュだったりクールだったりするのって映像化における前提じゃん? そこを二の次ってしちゃうのはねー」
「もちろんそこは否定しませんけど、聴覚って部分も大事だと思うんですよね。作風に合った美しいBGMや挿入歌は、その作品の印象のみならず時として曲単体で人々の心に残りますし……そうなれば原典である作品も同時に、その名を残すことに繋がるんじゃないでしょうか」
「聴覚が大事なのはそれはそうだよねー。だから声優さんの演技ってところが作品の評価に直結しているところもあるわけだし」
「役者さんのおかげで映像作品ってもののクオリティは段階的に上がる場合も多いですからねー」
まさかこんな風に異性と、アニメ談義をして盛り上がる日が来るとは思いもしなかった。謎の感動! 山形くんオタクで良かった!
エリスさんが深夜アニメにドハマリしてるって以前、葵さんから聞いていたからね。話も弾むかと思って振ってみたらなんとまあこのとおり、丁々発止のやりとりである。
"アニメ作品において大事なのは作画が音響か"……という話でこんなに盛り上がれるなんてなあ。同好の士ができてまさかの俺ちゃん、大はしゃぎである。
それはエリスさんも同じだったみたいで、白磁のように美しい肌を朱に染め、照れ笑いを浮かべている。
「いやあハッハッハー、楽しいなあ公平さぁん。不老になってから今までこんな楽しいこと、なかった気がするよー」
「俺も楽しいです、すごく。いやでも、さすがに今までにもいろんな楽しいこと、おありだったでしょう?」
微妙に哀しいことを言い出したエリスさんだけど、さすがに今の会話くらいで人生一楽しかったとか言われると重いよね……
不老になってから、この人が俺には想像もできない苦労をされてきたのはなんとなく分かる。安易なことを言えないようなそうした経験を乗り越えてきて、今のエリスさんがあるのだということも。
だけど、楽しかったことだってあると信じたい。
そう思っての俺の言葉に、エリスさんはあっけらかんと答えた。
「楽しいこと、に分類されることはいくつもあったよねそりゃあ。なんなら葵に出会ってからこっち、毎日楽しいもの。あの子が楽しくしてくれている」
「明るくて元気で、楽しいですものね葵さん」
「そうそう。だけどまあ時折、ああいう子に疲れることもあるにはあってね。なんだろ……陽の光を浴びると温かいけど、度が過ぎると日焼けして皮がめくれる、みたいな? たまには日陰に入りたいんだよね、限定ピックアップSSRの水着エリスさんとしては」
「なんの話してます?」
ソシャゲもしてるのか、この人……限定とか水着とかSSRとか、俺にとってもいろんな意味で馴染み深い単語が出てきたことに顔がひきつる。
多趣味なのはさておくにせよ、言いたいことはなんとなく分かる。葵さん、とにかくいつでも明るくて元気だからね。傍にいると元気をもらえること請け合いなんだけど反面、四六時中近くにいると疲れてしまいそうなのは俺にも分かる。
っていうかまさに、リーベがその手合いだし。
今や山形家の一員でありかけがえのない相棒な彼女だけど、テンションの噛み合わなさにぶっちゃけ、相手していて疲れることもあったりするし。向こうもたぶん、たまに同じようなことを考えているんじゃないかなあ?
それでも一緒にいる関係を、やっぱり家族とか相棒って言うんだと思うけどさ。
俺とリーベの話はさておき、エリスさんは葵さんについて、続けて語った。
「とにかく。たまにあの子の明るさが面倒になる時があるんだけど、そういう時にふと考えるんだよね。同じくらいのテンションで、同じような趣味について話ができる友達が、いてくれたらいいのになって。ほら、葵とは趣味も違うし」
「それで、俺がお眼鏡にかなったと」
「なんか落ち着くんだよね、公平さんと話してると。遠い昔に亡くした、記憶も微かな人達を思い出すんだ。パパとか、ママとかさ。ああ、妹達なんてのもいたなあ」
「…………エリスさん」
どこか虚ろに天を仰ぐ彼女の、深い孤独感が伝わってくる。
老いることなく過ごしてきた78年。その間、彼女が失ってきたものは数えきれないということ、なのだろう。
なんでそんな大切な人達の面影を俺に見たのか、そこは知る由もないし踏み込むべきでないところだと思うけど……そういうことなら、俺としてはいくらでも付き合いたい思いだ。
「SNSとか、裏垢なんて持ってるくらいですし本垢とかも持ってますよね?」
「うん? そりゃまあね、現代のオタクとしてはスマホ持ってるなら当然の嗜みだし」
「表のほうも教えてくださいよ。たとえ遠く離れていても、ネットで今みたいな話をやり取りしましょう……裏垢でなく、広い世界で繋がり合う、友達として」
「!」
スマホを取り出してエリスさんにそう言うと、彼女は大きく目を見開いて驚いている。まあ、いきなり本垢教えてよって言われたらね。
とんだチャラ男ムーヴした感あるけど、誓って疚しさはない。別に、この人の孤独に寄り添いたいってだけでなく、こちらとしてもこういう話ができる友達は貴重なのだ。なんせ陰キャぼっちだからね。
というわけで、広げたいオタクの輪という感じで勢いのまま、柄にもないことを言ってみたわけなんだけど。
エリスさんはやがて微笑んで、同じくスマホを取り出してくれた。
「ありがとう、公平さん。そういうことならえーっとつぶやき系、写真投稿系、メッセージ系、ショートムービー系、日記系、動画系、生配信系、お絵描き系、小説投稿サイトなどなど、と……いろいろあるから一つずつ教えていくよ。登録してね?」
「せめて3分の1程度でお願いできます?」
限度があるだろ! さすがに!!
俺だってそんなにSNSに登録してないのを、この人めちゃくちゃやり込んでるよ。
怖ぁ……ハイテク96歳じゃん。
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