漢一匹、サウダーデ・風間!
「彼が、噂の山形公平殿ですか」
挨拶も一通りして、俺と香苗さんも卓袱台の前、空いてあった座布団に座らせてもらって一息ついた頃合い。
不意に修行僧の人がそんなことを言ってきた。この中では唯一、初対面になる人だね。
50代くらいの男性で、刈り込んだ頭に太い眉、鋭い瞳と引き締めた口元とどこか厳しさが漂う顔つきをしている。堀が深いし瞳が青いところを見ると、おそらく海外から来られた人だと思う。
何より特徴的なのは、その筋骨隆々の肉体だろう。修行着がパンパンに見えるほどの巨大な肉付きは、あきらかに肥満とかでなく筋肉によるものだということが分かる。鍛え抜かれたとはまさにこのことだろう、すごいマッスルさんだ。
全体的にいかつい見た目とは裏腹に、低く柔らかい声で俺について尋ねる彼に、ベナウィさんが答えた。
「ええ、そうです師匠。一月ほど前に私やマリアベール様とともに死闘を勝ち抜いた、かけがえのない戦友ですよ」
「はっきり言って麒麟児さね。現時点で普通に私より強いから、手合わせとか言い出したら恥かくよ。止めときな」
「なんと……! マリアベール先生がそう仰るほどとはすさまじい。巷で耳にする噂の数々、出鱈目ではないと言うことですね」
ナチュラルにハードルをえらいことにしてくれたマリーさんはさておいて、ベナウィさんの言葉に注目する。
師匠。今彼はそう言った。つまりこちらの修行僧の方はベナウィさんの師匠ということになる。なんならご当人はマリーさんのことを先生と呼んでいるから、マリーさんからしたら弟子ということになるね。
そんな人、ここ最近の流れからしたら一人しか思い当たらない。
こんなに早くお会いできるなんて思わなかったと内心、驚きながらも俺は尋ねた。
「あの、恐れ入りますがあなたは……もしかして」
「おっと! ここは俺から名乗らせてほしい。いつの日も、胸を張って己の名を名乗ることこそ我が身の誉れなれば」
おずおずと切り出した俺を、片手で制して男の人は微笑んだ。厳格だけど、どこか温かみのある眼差し。
決して怒ってるとかでなく覇気を醸し出す彼は、そして高らかに名乗りをあげた。綺麗に正座しての、見事な姿で。
「お初にお目にかかる! 我が名はクリストフ・カザマ・シルヴァ──人呼んで"サウダーデ・風間"!!」
「サウダーデ・風間さん……!」
「どうか遠慮なし、サウダーデと呼んでくれ山形殿。この度は俺の師匠・マリアベールさんと弟子・ベナウィが大変世話になった。感謝しているよ」
彼──サウダーデさんは、そして深く頭を下げた。俺へと感謝を示してきたのだ。
噂に聞いていた、この人がサウダーデさん。S級探査者の中でも、近接戦闘ならば最強との呼び声も高いそうだけど、それも頷ける筋肉っぷりだ。
エリスさんの隣、葵さんが瞳を輝かせて話す。
「これまでに数々のA級ダンジョンを踏破し、S級モンスターをも沈め、果ては能力者犯罪捜査官として数々の巨悪をその拳一つで殴り潰してきた大探査者! ネットのS級探査者強さ議論でも大体、トップ層に挙げられてますね!」
「過分な評価、痛み入るが早瀬さん……大探査者など持ち上げられてもらっては困る。マリアベール先生にからかわれてしまうよ」
「ファファファ! そんくらい謙虚にしてるなら何も言わんさね。あんた昔から真面目一辺倒だからねえ」
「60年も生きてまだ気の利いた口が利けない、無骨なだけの未熟者です。マリアベール先生の域にはなかなか、辿り着けそうにありません」
褒め殺しかと思うほどの称賛の数々。ミーハー気質らしい葵さんがこうまで興奮するんだ、マジで大探査者と呼ぶに値するお人なんだろうな。
御本人は至って真顔のまま、マリーさんの軽口に会釈していてその姿も風格がある。言動も謙虚で控えめながら、泰然自若とした威厳にあふれているし、なるほど真面目と称されるだけはあるなあ。
マリーさん、サウダーデさんの師弟の会話の一方、葵さんはサウダーデさんの話はさておき、師匠のエリスさんに続けて絡んでいく。
「ちなみに師匠は名前どころか影も形も認識されてませんよ。さすが界隈内でも都市伝説か、WSOのプロパガンダ用の架空の人物扱いされてるだけはありますねー」
「ハッハッハー。かくれんぼのプロと呼んでくれー」
そんなに。
探査者の中でも一際功績が大きくて強いとされているらしいサウダーデさんもすごいけど、このネット社会の中で完全に身を隠し切って一切、足取りを掴ませていないエリスさんも大概すごい。
ていうかプロパガンダ用の架空の人物だの都市伝説だの、ほとんど妖怪かおばけみたいな扱いじゃないかこの人。大体いつも呑気してて割とあけすけな言動をしがちな印象があるけど、トップシークレットなんだな。不老体質の希少性を考えれば当たり前だけども。
サウダーデさんがエリスさんを見、大きく頷いた。
感心というか、感銘を受けたように言う。
「実際、俺も噂では聞いていましたが……歳を取らないS級探査者が本当にいるとは。ネット発のデマくらいにしか思っていませんでした」
「そりゃーそうでしょ。ソフィアさんとかヴァールさん、マリーとか親しい連中には口止め頼んでたわけだし。むしろそれでも都市伝説として薄ぼんやり私の話が出てきたのが怖いよ。怖すぎ、まさしく怖ぁ……だよ。ね、山形さん!」
「ネットは怖いですからねえ……」
なんせ写真一枚から危うく位置を特定されかねないご時世だもの。都市伝説程度で済んでる方が不思議なくらいだ。
それを考えると、相当うまいことやってきてると思うんだけどなあ、エリスさん。
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