子供からの印象:光ってビームを放つ変なおじちゃん
さっきの、ボーイッシュな感じの服装から一転。清楚でお淑やかでおとなしい、まさしく深窓の令嬢といった純白のワンピースを着こなす香苗さん。
夏の眩しい日差しにも負けない輝く姿に、俺も内心ドギマギだ。こないだの夜祭での浴衣姿もそうだけど、普段あまり見ない格好だと余計、新鮮さもあり素敵に思えるよね。
「今から私の家族にお会いしていただきたいのですが……大丈夫ですか? 公平くん」
「えっ! あ、はい! ……その、オーケーですし。あの、お似合いですその格好。すごく」
「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえるのが、私としては何より嬉しいですよ」
語彙力よわよわな俺ちゃんの、それでもなんとか伝えたくて絞り出したなけなしの賛辞を嬉しそうに受け取ってくれる。この人、本当に美人さんだなあ。
最近、ほんとにいろんなタイプの美女さん美少女さんとお会いする機会が多いもんだから麻痺しがちだけど、本当なら俺なんか遠くから見つめるくらいが精一杯な人たちなんだもんな。
折に触れて思い返しては今のこの、奇跡じみた状況に感慨深くなる。いやまあ、そもそも今こうして生きてること自体が本来あり得ないって奇跡ではあるんだけどね。
さておき、香苗さんに連れられて廊下を進む。これから香苗さんのご家族さん達に挨拶して、なんならエリスさんや葵さん達とも合流するのだ。マリーさんともお話したいしね。
来た道を戻……ってんのかこれ? 同じ光景が続く襖だらけの通路だし分かったもんじゃない。辛うじて中庭に出たからたぶん、別な道を進んでるとは思うんだけど。
「……うん? 子供?」
と、不意にその中庭で、子供が数人遊んでるのを見る。小さな、5歳位の男の子が3人と中学くらいの女の子が1人。姉弟みたいな仲のよさでボールを転がしている。
誰だ? 前来た時は見なかったから、たぶん親戚さんたと思うけど。
「香苗さん、あの子達は?」
「分家の子達ですね。朝からすでにいくつかの家が訪れているようです」
「なんとまあ」
さらっと出たよね、分家の子達って。なんかもう和風ファンタジーの世界観だ、僕にはついていけない。
ちなみに俺の家にも当然、親戚筋ってのはいるにはいるけど帰省の時ですら滅多に会わない。別に仲が悪いとかではないんだけど、なんでか自然とスケジュールが噛み合わないんだよね毎年。
ただ、いとこだのはとこだのがいるにはいたはずだ。あんまり覚えてないからほぼ他人っちゃ他人だけど、果たして今年はばったり出くわしたりするんだろうかね?
どっちでもいいんだけどもし会ったりしたら、常日頃美女に囲まれている俺に対して向けられる目が気になる。絶対よくない目だそうに決まってる。怖ぁ……
「どうされました? 公平くん」
「あ、いえ……まだ見ぬ針の筵に危険が危ないと申しますか……」
「?」
首を傾げつつ、香苗さんは俺の手を引き案内していく。
中庭を抜け、更に通路に。みごとな庭園の広がる縁側に出たら向かって右に曲がり、さらに進む。
感知しているオペレータ達の気配も次第に近づいてきている。もうじきだな。
というかさっきから、ちらほらとおそらく親戚だろう人達とすれ違うわけだけど。なんかみんなして香苗さんに手を引かれて歩く俺を見、ああ……とかあれが噂の……みたいにひそひそ話をしてくるんだよね。
概ね市街地で注目を浴びている時の周囲の人々と同じ反応だ。たぶんこの人達も見ちゃってるんだろうね、あの動画チャンネル。まあ、自分達の本家筋のご令嬢の乱心だもんな、見ないわけ無いか。
「"御堂本家の氷姫"があんな庶民に首ったけとは……」
「ですが彼、探査者業界の重鎮達と深い交流があるとかないとか……」
「ただの子供ではないか。マリアベール・フランソワは一体彼に何を見出したのだ?」
「聞くところによるとWSOのチェーホワ理事までも、山形公平に借りがあるらしいです」
「シャイニング! シャイニング! ビーム! ビーム!」
──などとまあ、聞こえてないと思って言いたい放題である。
ちなみに最後のは小さな子供がはしゃいでのセリフだ。これは非常に愛くるしくて微笑ましい。手を引く親御さんの視線はだいぶ怖かったけど、それも相殺される勢いだ。
はあ、とため息を吐き、香苗さんがぼやいた。
「まったく……少し金を持つとすぐにこうなるのでは、成金探査者一族と言われても反論のしようがありませんよ」
「ま、まあまあ。ていうか、"御堂本家の氷姫"?」
「私を揶揄しての異名ですよ。あなたに出会うまで、私は──いえ、この話は後にしましょう」
「は、はあ……」
微妙に気になるところで切らないでほしい。何、俺と出会ってあなたの何がどうなったの? せめて俺絡みの部分だけでも端的に教えてほしいんですけど。
すごく聞き返したくなる俺ではあったが、たしかにもう、推定マリーさん達の気配はすぐそこだ。今はみなさんへの挨拶を先にして、後で落ち着いた時に話を聞いたほうがいいだろう。
そしていよいよ襖の前、俺たちは立ち止まる。
この部屋に御堂家の皆さんと、マリーさん達が勢揃いということだろう。
「失礼いたします。御堂香苗、ただいま帰参いたしました」
「や、山形公平です。失礼しまーす……」
ひと声かけて襖を開ける。俺は香苗さんに続く形で、中へと入っていった。
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