トラウマ(笑)を乗り越えろ!
前に寄らせてもらった時も思ったんだけど、すごく大きい。一般的にイメージする豪邸そのものな規模の土地と日本家屋だ。
お庭にはテレビで見る日本庭園ばりのなんかいろいろもあったりするし、ぶっちゃけ一般ピーポーな生まれ育ちの山形くんからすれば、異世界も同然の光景なんだよねー。
香苗さんのご実家、御堂本家の敷地内。外から見た時の印象と違わぬ広さと豪華さのまさしく別世界に、二度目にも関わらず俺はタジタジである。
これで別枠で専用駐車場だの車庫だのまであるんだから大概だよね。いや本当、すごいよ香苗さんのご実家……
「とんでもないですね、相変わらず……」
「この近辺の、御堂家より古い格式と伝統をお持ちの家はもっとすごいですよ。近所付き合いもあり折りに触れ挨拶しに訪ねるのですが毎回、歴史というものの遠大さを実感しますね」
「そんなにですか……」
いやもう、言葉が出ないわ。
古都と呼ばれることで有名なだけはあり、この町のこの辺は由緒正しいお家も多いそうで。大ダンジョン時代が始まってから大成した御堂家はまだまだ新参、格としては下っ端だそうな。
正直その辺はもう恐ろしくてうっかり聞けたもんじゃないけど、香苗さんがご自身の家について話すことは珍しいからね。勉強がてら、耳を傾ける。
「家を継ぐのはいわゆる長男であるところの弟・光なのですが、今からもう様々な伝統行事に参加して勉強しています。大変そうですね」
光さん……香苗さんの弟さんで、俺も一度だけお会いしたことがある。姉の大ファンと聞いていたんだけど、実際のところは曽祖父の将太さんを尊敬し、その意志を継いだ姉を想う素敵な弟さんだったのを覚えているね。
そんな彼は長男という立場柄、次期御堂本家の当主としての将来が確約されているらしい。それ自体は傍から聞けばすごいなってなるんだけど、名家のご近所づきあいや各種行事に新参者として参加するのは、いかにも大変なことだと思う。
「香苗さんもそういうの、参加されたりするんですか?」
「探査者になる前はしていましたがそれ以降はまったく。"探査者は使命を果たすことを最優先とすべし"という家の方針もありますし、そもそもA級になったあたりから私も多忙になり、高校卒業と同時に家を出ましたからね」
「あー。長いことトップランカーでしたよね、たしか」
「ええ。すでに世間的にも私の名が知れ渡っていたこともあり、何より探査者最優先の家であることから家族もみな、私を快く送り出してくれました。感謝しかありませんね」
今から再会するだろう家族を思ってか、柔らかく微笑む香苗さん。
そう、彼女自身はというと、そもそも探査者として押しも押されもせぬS級探査者に若くして至った天才中の天才だ。
長らくA級トップランカーとして華々しくマスコミにも取り上げられていたことから、現代における探査者というイメージの一角を担うほどの存在である。いやまあ、最近はそうでもないけど。
そんなだから、彼女のご家族さんとしても家で深窓の令嬢でいてもらうよりも世界で活躍することを望むよね、そりゃあ。
こうした探査者優先の考え方をするご家庭なのは、やはり曽祖父の将太さんが今の御堂本家の初代的な立ち位置だからだろうなあ。
敷地内を歩き、やがて屋敷の玄関に辿り着く。中に5つ、探査者の気配があるのを察知して、たぶんエリスさんや葵さん、マリーさんだなと推測する。
残る2つの気配も近くにいるし、たぶんどなたかの知り合いの探査者とかだろう。なんにせよ皆さんお揃いってわけだね。
ここまで来ると家からこちらまでついてきてくれた護衛の方々も屋敷から離れていっている。お疲れ様でした。
なんにせよあとは中に入って合流して、そこから俺の数日間に及ぶ滞在生活が始まるのだ。ちょっと緊張。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ、お嬢様! 山形様も、ようこそおいでくださいました!!」
「お帰りなさいませ!! ようこそ、御堂本家へ!!」
「ひぇぇ……」
玄関に入ると、いつぞやと同じくずらりと割烹着姿の女中さん達が左右に並び、一斉に頭を下げて声を揃えて出迎えてくる。正面には執事服を着たお爺さんが。
前と同じだ。フラッシュバック的に苦い記憶が蘇り、思わず汗が吹き出る。
以前来た時もこんな感じで、香苗さんが呼ぶところのじいやさんと女中の皆様方が出迎えてきたのだ。
そうなると案の定、パンピービビリボーイ山形くんはその時点でもう、両足がガックガク震え出してしまったんだ。挙げ句、あのトラウマシャイニング山形インタビュー並の醜態をさらしてしまった。
苦い記憶が蘇るのをどうにか抑え込み、瞬間的に瞳を閉じて集中──瞑想。
メンタルを平常に戻して俺は、今度は同じ失敗をするまいと努めて、本当に努めて穏やかな笑みを浮かべ、挨拶する。
トチんなよ、俺!
「こ……こんにちは、みなさん。き、今日からしばらく、よろ、よろしくお願いいたします!」
……ちょっとどもったけどセーフ! セーフです!!
穏やかな笑みってのも若干引きつってる気がしないでもないけど、前の時より全然マシですから!
なんとか平静を装いながらも、たぶん前よりかはちゃんとした挨拶ができたっぽいことに内心、ガッツポーズする。
そんな雰囲気が漏れてたのだろうか? じいやさんは目を細めて、微笑ましそうに香苗さんへと言った。
「3ヶ月前に比べ、信じ難いほどの風格を纏っていらっしゃるのに……やはり所作は年相応でいらっしゃるのですな、山形様は」
「本当に高みにいる御方は、わざわざ己を誇示する必要などないということです。私もいつか、その境地に達することができればいいのですが」
「お嬢様ならば、必ずや成し遂げられます。じいめは信じておりますよ」
何やら褒められてる……んだろうか。そして香苗さん、俺はそんな大層な位置にはいません、勘弁してください。
前よりかは地獄でないものの、やはりどこか居た堪れなさは感じる俺ちゃんでした。
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