忘れられがちですが!御堂香苗は名家の御令嬢でもあるのです!!
そうこうしているうちに香苗さんがやってきた。いつもの真っ赤なスポーツカーで、颯爽たるご登場である。
のどかな住宅街にこんなド派手な車でクールな美女が登場! なんて、初めは面食らう光景だったし家族はもちろん、ご近所の方々もなんとなし気圧されていた感があったけど……もう何度目かになるか分からないご登場だからね。
ある程度は日常の光景として周辺にも受け入れられていて、驚くような光景ではなくなっていたりするのだ。
この辺、うちの父ちゃんが近所の人達みんなと仲がいいのも大きい。コミュ力地味にすごいな、父ちゃん。あのサン・スーンさんとも未だにちょくちょく飲みに行ってるみたいだし。
と、ドアが開いて香苗さんが降りてきた。
今日は探査とかじゃないから私服で、ジーンズに白いシャツを胸元まで開けた、夏らしいカジュアルかつちょっとセクシーな着こなしだ。なんかいつものスーツ姿と違ってプライベート感があってすごくいい。
そんな彼女はすぐにこちらに来て、にこやかに挨拶してきた。
「おはようございます公平くん、それとご家族の皆様方。お待たせして大変申しわけありません」
「おはようございます。いえいえ、待ち合わせ時間より早いくらいじゃないですか」
こちらもにこやかに返す。別に待ってもないし、なんならお互い待ち合わせ時間より早いくらいだ。
うちの家族も次いで、朗らかに香苗さんを迎える。いくら有名人とはいえもう顔なじみもいいところだし、山形家一同リラックスした様子で彼女に挨拶する。
「おはよう香苗さん。こないだはうちの旦那と娘が世話になったわー」
「なんならいつもせがれが世話になってるねえ。こないだはどうも」
「おはようございます。先日はこちらこそ、大変お世話になりました、おじ様、おば様」
最近では香苗さんのほうも、我が家のみんなに打ち解けてくれたらしく父ちゃん母ちゃんのことをおじ様、おば様と呼んでいる。
いつまでも御尊父様だの御母堂様だのってのも堅苦しすぎるって思ってたし、何より他人行儀な感じがどこか壁を感じていたからね。こうも距離感が縮まったのはとても喜ばしいことだよ。
「香苗さん、おはようございます! 今日からしばらくうちの兄ちゃんのこと、よろしくおねがいしますね」
「公平さんのこと、頼みますねミッチー。たまに変な無茶する時がありますから、この人ー」
「優子ちゃん、リーベちゃん。ええ、お任せください。伝道師として探査者として、何より一人の人間として公平くんを支えてみせましょう」
優子ちゃんにリーベも続いて話す。話題はもっぱら俺のことだけど……最近はさすがにそんな無茶はしてないし!
なんなら無茶な伝道行為に勤しみ始めるのは香苗さんのほうで、それを止めたりしているくらいなんですけど! いやまあ、彼女にはいつもすぐそばで支えてもらってるってのは間違いない事実だけどさ。
ていうかむしろ、俺こそ今回の実家訪問では香苗さんを支えてあげたいんだよな。親戚づきあいとかでお疲れになるだろうし、きっと、倶楽部制圧作戦においては青樹さんとの対面も果たすだろうし。
頼むから、この人が傷つくようなことにならなければいいんだけどなあ。大事な人達にはいつだって幸せに、笑って生を謳歌していてほしい。
そう、願うばかりだ。
「……さて、そろそろ行きましょうか公平くん。それでは皆さん、数日間ではありますが大事な息子様をお預かりいたします」
「公平、本当に迷惑かけるんじゃないわよ!」
「うまいもん食ってこいよ!」
「お土産よろしくね!」
「着いたら連絡くださいねー!」
いよいよ出発する段になり、家族みんなに声をかけられる。まあそれぞれ言いたい放題なんだけど、これも仲のいい家族ってことの証だろう。
にこやかに返す。
「みんなも、怪我とか事故のないようにね! 一週間後には帰ってくるから! ──行ってきます!」
「シートベルトはつけてますね? ……それでは出発します」
みんなに手を振り、告げると同時に車が動き出す。これでしばらく、家族達とはお別れだ。
惜しむように小さくなるみんなを見やる。彼らも、小さくなっていっている俺達を見送り続けてくれていた。
なんか……旅立ちって感じだなあ。いや4日間だけだけど。
「期待と不安って感じですよ……いろいろ、ありそうですもんね」
「作戦についてはなんとも、ですが御堂本家においては公平くんにご不便はおかけしませんよ。どうか思いのまま、お過ごしいただければ嬉しいです」
しみじみと心中を吐露すれば、運転席の香苗さんは微笑んでそう言い、安心させようとしてくれる。
うん、まあぶっちゃけ御堂本家で4日も滞在することへの不安が大半だしね。そう言ってもらえるのはありがたいや。
何しろご家族さん達には一度、お会いしてるからまだいいとして、親戚ってのがどうにもおっかない気がしてならないからね。
話を聞くに、香苗さんに取り入ろうとしてるっぽいし。そんな人達の前に俺みたいなのがのこのこ現れたら一体、どうなってしまうのやら。
怖ぁ……
「親戚達も当然ですがまともな者ばかりです。ごく少数、面倒な者もいますが公平くんとはそもそも、会う機会も少ないとは思いますしね。仮にもしあったとしても……」
「し、しても?」
「……私の救世主に無体を働けばどうなるか、すでに本家の公式見解として通達してますからね。あまり時代錯誤なことにはなりませんよ、ふふ」
「そ……そ、うですか」
こわい。淑やかに笑う、香苗さんが変に怖い。
名家の令嬢としての一面を、二重の意味で垣間見た気分のする俺ちゃんでした。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
今年の更新は今回で最後になります。次回は1/1、0時に投稿いたしますー
今年は本編終了から書籍化、番外編を経ての第二部開始とドッタンバッタン大騒ぎでございました
お付き合いくださった読み手様方には大変お世話になり、まことありがとうございました
来年も毎日更新は続けて行きたく思いますので、なにとぞ、書籍版も含めてよろしくお願いいたします
それでは良いお年を
てんたくろーでした!




