今じゃ!嫉妬パワーを山形に!
そんなこんなでお昼ごはんも食べ、香苗さんから実家訪問に関してのスケジュールもある程度話してもらった。
今日のところはもう解散だね。マリーさんがベナウィさんを伴い、立ち上がる。
「ほら帰るよ酔っ払い。そんな酒臭いやつがいるかい、まったく真っ昼間っから……ご家族さんのところまで付き添ってやるから、大人しくついてくるんだよ」
「ビール数本でさすがに酔いなどしませんよ、はははは! まあ、ホテルには戻ろうかなと思っていましたが。というかマリアベール様もお帰りで?」
「まーね。ここ数日、あちこちいったりアレコレやったりしたからちょいと小休止さね」
どうやらアルコールを摂取したベナウィさんと一緒に、滞在されているホテルに帰るみたいだ。それはまあ、そうしたほうがいいんじゃないかなとは俺も思う。
酩酊こそしてないのは明らかだけど、少量でもアルコールを体内に取り込んだ以上はもう酔っ払いだからね……それにちょっぴりいつもよりかテンション高いから、まったく影響が及んでないってこともないだろうし。
となればそんな状態で町をうろつくのも、何かのトラブルになりかねない。
言い方は悪いかもだけど、早めに帰ってシャワーでも浴び、残る半日をご家族さんと楽しく団欒していてほしい気はするからね。
マリーさんもマリーさんで、ちょっと部屋で息抜きモードって感じみたいだ。
もっともこの人の場合、あちこち観光に行ったりリーベの治療を受けたり、はたまた風間さんに連絡をつけてくださったりしたりと結構忙しかったみたいだから、むしろお疲れ様ですって感じだ。
ていうか元気だなあ。ステーキ食べたりもそうだけど、見た目以上に動きが遥かに若いもの。
エリスさんが感心した様子でつぶやく。
「マリー、本当に今年で83? 見た目はまあおばあちゃんだけど、反面アクティブさがすごいよねえ」
「96でその見た目の先輩に、そんなこと言われましてもねえ……ファファファ。ま、若い頃に比べりゃいろいろ老いたが、それでもまだまだ盛んですよ私ゃ」
陽気に笑うマリーさんの姿は、俺の目から見ても生命力や活気に満ち溢れている。下手すると若い世代の俺達にもまして、バイタリティーってのがあるかもしれない。
御年83歳なんだものなあ、これで。若い頃はもっとすごかったってんだから、まったくどういう感じだったんだろうな、若い頃のマリーさん。
今日は俺も香苗さんも大人しく家に帰るつもりだ。
3日後に迫る香苗さんの御実家への訪問と、加えて一週間後に行われるだろう倶楽部制圧作戦に向けての、それぞれ個人的な準備とかもあるからね。
だからマリーさんとベナウィさんとは途中まで帰り道が一緒と言うことになる。
ちょうどいいし、少し尋ねてみようかな?
直接本人に訊くのは少し憚られたので、俺はエリスさんに質問した。
「若い頃のマリーさんって、どんな感じの方だったんですか? エリスさん」
「んー? そうだねー、一言でいうと狂犬?」
「…………え?」
呑気な口調にも声音にも、エリスさんから出る言葉としても、ましてやマリーさんを表現する言葉としても、いずれにせよ似つかわしくない単語。狂犬。
端的につぶやいた彼女を歩きながらキョトンと見つめる。エリスさんはすると、いきなり俺の腕に身体全体で抱きついてきて耳元で囁いてきた!
「だから、きょーけん」
「えっ、ちょっ。耳元!?」
「気に入らない相手にはそれが誰だろうと即座に噛み付いてたし、モンスター相手には高笑いしながら突っこんでたし。少なくとも第四次モンスターハザードの時、初めて会った時のマリアベール・フランソワちゃん18歳はそんな感じだったねーハッハッハー」
「そっちもアレですけどなんでこんな態勢!?」
「いやなんとなく。前に君に抱きしめられてから、なんだかぬくもりが恋しくてさー」
吐息がかかる。エリスさんの唐突なスキンシップだ!
っていうかここ、往来なんですが! 人の少ないフロアですけど、それでも往来なんですが!?
からかうようにニヤニヤ笑う彼女を慌てて引き剥がす。
こないだって……翠川と出くわした山中でのことか。抱きしめたってほどでもないしあくまで介抱のために抱き起こしたが正しいんだけど、どうやら彼女の中の何かに触れてしまったみたいだ。
小悪魔めいた笑みを浮かべているあたり、からかい的なものもあるんだろうけどね。それはともかく、気を取り直して応える。
「じ、18歳の頃のマリーさんがそんなだったってのは、たしかにヴァールからも聞いてますけど……正直、信じられない思いもあるんですよ。今のマリーさん、すごくお淑やかで素敵な方ですし」
「ですってさ」
「ファファファ……思い返すも恥ずかしいけど、事実だねえ公平ちゃん。あの頃はホント、意味もなくカッコつけのつもりで突っ張っちまって」
顔を赤くしてマリーさんが笑う。普段飄々としているこの人のこんな姿が見られるのは、なんだか珍しいな。
──と、不意に衝撃。エリスさんがさっき抱きついてきたのとは逆の腕に、今度は香苗さんが抱きついてきている。
何!? どしたの!?
「か、香苗さん……?」
「その、エリスさんが羨ましくてつい……」
頬を染めて伏し目がちに、恥じらいながらそうつぶやく香苗さんが、ものすごくかわいい。
こんなかわいい人の実家に今度俺、滞在するんだよな……なんだかドキドキしてくる、そんなピュアボーイ山形くんでした。
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