親戚の相手をしつつお仕事しつつグレた師匠の相手もしつつ
大体20分ほど、食に集中して。
俺がバターチキンカレーとナンのセットを食べきる頃には、みんなも概ねそれぞれの食事を終わりかけているって感じだった。
「ぷはあ、おいしかった~。スープまで飲んでもあっさりした後味なのは、すごくいいねえ」
「ファファファ! やっぱ肉だねえ肉。年寄りほど精をつけなきゃならんしねえ」
「1kg、ペロッと行きましたねフランソワさん……あ、私もごちそうさまでしたー」
ちゃんぽんを、スープまで残さず平らげたエリスさん。なんと1kgのステーキを簡単に食べきったマリーさん。そしてラーメンを普通に食べ終えた葵さん。
この3人の中で一番の健啖家だったのがマリーさんってのは、やっぱりというべきなんだろうか。御年83歳になる今まで現役探査者でいられたのも、肉体強度以上にこの元気さが関わってるんだろうなあ。
やっぱり心の持ちようって大事で、体にも影響してくるからね。
「ごちそうさまでした。少し食べすぎたかもしれません、これは後で軽くダンジョン探査でもしたいところですね」
「いやあ、美味しかった! やはりビールはいつ呑んでも最高ですよ」
一方で香苗さんもまぜそば定食を完食していたし、ベナウィさんに至っては早い時点で小籠包もジーパイも食べ終えて、ひたすらビールをかっくらっていた始末だ。
追加で缶ビール頼むんだもの、ヤバイよこの人怖ぁ……ある意味健啖なんだけれども、程々のところにしてあとは夜、ご家族との夕食にて楽しんでいただけるとありがたい。
マリーさんがたまーに恨めしげな目をしてるのも怖いし!
ひとまず全員食べ終えて、これで完全にお昼ごはんは終了だ、ごちそうさまでした。
そしてこほん、と香苗さんが一つ咳払いをして、俺達に話し始めた。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。すぐ済みますから、しばしお付き合いください、皆さん」
「そこまで混雑してるわけじゃないけど、入れ代わり立ち代わりお客さんが出入りしてるからね、ここ。あんまり長時間、席を陣取るのも悪いか」
エリスさんの言う通り、フードコートは食べ終えたら早めに立ち去るのがマナーだ。現状、満員ってほどでもないしなんなら半分近くの席は空いてるけど……だからといってダラダラ居座るのも良くないしね。
その辺は香苗さんも重々承知みたいで、早めに終わらせるとの文言通りに簡潔に話していく。
「私が実家に帰省するのは3日後の8月6日から、8月10日までの5日間になります。本来であれば盆明けまでが慣例でしたが、今年は事情が事情につき5日に短縮しました」
「随分縮めたねえ。実質盆は不在じゃないか、それ。そんなに気を遣わずとも良かったんだけど……」
「ことは御堂本家の云々よりも重大ですからね。それに、公平くんのお盆のこともあります」
「俺?」
急に話を振られてビックリ。え、なんかあったっけ俺んちの盆。たしかに爺ちゃん婆ちゃんの家に行くことにはなってるけど……家、近くよ?
我が山形家の祖父母は、それぞれ父方が同じ県の北部、母方が別の県に住んでいる。父方のほうが比較的近くで、母方のほうが遠い場所にあるわけだね。
そんなだから盆だの正月だの、限られた長期休暇の度に両方の祖父母の家を訪ねるのはちょっと難しくて。盆には父方、正月には母方の家をそれぞれ訪ねるのが毎年のことになっているのだ。
つまり俺ちゃん、盆に関してはそこまで普段と変わらない生活なのだ。パパ上様のお車で片道1時間するかしないかってくらいのところだしね。
だから別に大掛かりな準備もなし、香苗さんももうちょい長く滞在してくれていてもいいんだけど……そう言うと香苗さんは、苦笑いして答えた。
「護衛の都合上、私も公平くんの近くにいたほうがいいでしょうから帰省の際も、付近に滞在させてもらいますし……その他諸々のスケジュールも考えた結果、そうなりました」
「そう、なんですか?」
「私も、S級探査者ともなればやることが微妙に増えていまして……直近で言えばやはり、S級探査者認定式についての事前取り決めやスピーチの原稿などですね。面倒なことこの上ありませんが、蔑ろにもできません」
その言葉に、思わず俺はなるほどと唸った。さすがにS級探査者になろうってわけだから、その辺絡めていろんな仕事とか義務は発生してくるよなぁ。
認定式だってたしか、8月25日だったっけ? もう一月きってるよ、修羅場じゃん。倶楽部の相手なんて本来、している場合じゃないはずなのだ彼女は。
それを押してなお、倶楽部とのあれこれについて協力的なのは……本人の善性もあるけどやはり、かつての師である青樹さんとの決着をつけたい思いがあるんだろう。
俺も、二人が腹を割って話せる場を設けたいと思ってるからね。そのためにはとにかく倶楽部を制圧し、青樹さんを無力化しないといけないな。
マリーさんがふうむと考え込み、やがて香苗さんに笑いかけた。
「そのスケジュールで行くと、最終日までには例の作戦決行だねえ。そういうことなら実家ゆっくり休むといいさね。あ、私も寄るかも知れんからよろしくね、御堂ちゃん」
「たしか、祖父とお知り合いでしたねマリーさん。ぜひともおいでください。一族総出でお出迎えさせていただきます」
淑やかに、まるで──っていうかそのものなんだけど──名家の令嬢のように折り目正しく一礼する香苗さん。マリーさんもそれを受け、優雅に礼を返す。
わあ、上流貴族っぽい。っていうかマリーさんもそういえば、香苗さんのひいお爺さんからの付き合いなんだったな、御堂家とは。
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