食レポさんが二人いる食卓
フードコートは案の定というべきか、人が多くはあったけど混雑してるってほどではなかった。
つまりは俺達6人が座るだけの席はあったし、各種お店に注文してもある程度、スムーズに料理を用意してもらえる程度の混み具合だったわけだね。
これはありがたいと思いつつ6人席を陣取って各自注文へ。最初に女性陣4人に注文しに行ってもらって、戻ってきたら次は俺とベナウィさんの野郎コンビで注文しに行く。
「どこの店のなんの料理にしようかなー」
「ミスター・公平はお若い。なんなら複数のお店を堪能してもいいのでは? 私はもちろんビールも売っているお店一直線ですが」
「ははは……」
なんかもう、飯食いに来たってか酒飲みに来ただけなおじさんと化しているS級探査者、ベナウィ・コーデリアさんはさておくとして。女性陣が注文から戻ってきたのでついで俺達が向かう。
結局、悩んだけどインドチックなカレー店にしてみることにした。ナンが美味しそうに思えたからね。
夏だからこそちょっと辛めに決めてみたい、こないだの探査者イベントで食べた激辛ラーメン以降辛口もいいな……ってなってる俺ちゃんは、そんなこんなでカレー店で注文する。
ちなみにベナウィさんは台湾料理店だ。ビールが売ってるからという以上の理由がなさそうなのはもはや、さすがとすら言っていいだろう。
「ったくアル中め……昼間っから泥酔なんて承知しないからね」
「いやー、そこまで見境なしではないと思いますよ私。これでも一応S級探査者ですからね。はははは!」
「アル中ってワードが、まさかあのマリーの口から聞ける日が来るなんてねえ。長生きするもんだよハッハッハー」
「茶化さんでくださいよ、先輩……ああやれやれ、この歳になって後輩気分たぁ堪んないねえ」
ぼやくマリーさんだが、その顔はどこか楽しそうだ。一切歳を取らずにいるエリスさんを眩しそうに、懐かしそうに見ているあたり、もしかしたら彼女を通じて何か別の、昔日を思い出しているのかもしれない。
そうこうしているうちに各人の注文した料理ができたみたいで、準備ができたらアラームがなる番号札が次々鳴って、みんな順番に料理を受け取ってきた。
もちろん俺とベナウィさんもだ。女性陣より少し遅れた形になるけどようやくみんなでお昼ごはんだね。
「それじゃ、いただきまーす」
『カレーは山形家でもたまにやるけど、ナンは珍しいね……ほほう? これはこれはぁ』
アルマさんが脳内でニタニタ笑ってそうな声を上げる。相変わらず飯時になるとうるさいんだよなあこいつ、お陰で飽きないんだけどさ。
さておき実食。深めの銀の器になみなみと入ってらっしゃるはバターチキンカレー。スパイシーな香りが食欲を刺激するぜ〜。
そして何よりナンだ、ナン。なんか予想の倍は大きくてまずはそこにビックリする。トレイから大幅にはみ出していてすっごいゴージャスだ。これは嬉しい!
さっそく手でちぎってカレーをつけて食べる。外側がカリッとしつつも内側はモチモチなよく焼けたナンに、辛めのカレーがよく合う。美味しい!
『んんー、辛さの中にもどこか甘さがある。これはナンだけじゃない、カレールーの甘みでもあるな。ナンの生地の甘さとカレーの辛さが、この甘みを介してがっちり握手してるイメージだ──辛さと甘さのまさにこれはハーモニー! ってやつだね』
えぇ……? なんだろう、グルメ漫画の審査員キャラみたいな講評やめてもらっていいですかアルマさん。
なんか日増しにノリが漫画チックになってきてるけど大丈夫かな? あんまり味覚以外に楽しいことがないもんだから、新しい扉開きかけてないか?
うるさいよ! と喚くアルマさんはさておいて、現実でも似たようなノリで何やらブツブツつぶやく人もいる。
食レポ聖女のエリスさんだ。うちの県で独自の発展を遂げたとかいう、お野菜マシマシのちゃんぽんを相手に小声で囁いていた。
「……うん。ちゃんぽんって初めて食べるけどいいね……もぐもぐ。ああ、野菜の甘味が体に沁みる。ずるずる……麺も、ラーメンよりはちょっと太めだ……」
「師匠、師匠。それはお一人の時にお願いします」
「う……なかなか癖だもんで、無意識なんだよねえ。ずずず……おー、スープの優しさと来たら。油っぽくなくて味まで透明感がある。お酢でもかけようかな?」
「本当に無意識でやってるっぽいねえ」
葵さんの制止に我に返るも、またすぐに囁き始める。完全に無意識みたいだな。
食レポ癖とはまた、面白いというかなんというか……ちゃんぽん食べたくなるからやめてほしいような、でも食欲がそそられるからもっとやってほしいような。
またいつかここに来た時は、今度はちゃんぽんにしよう。そう、食レポを聞いていて決心する俺である。
「いやあお昼から飲むビールは美味しい! 最高です!」
「本当に飲むのですね……まあ、たまに私もお昼からお酒を嗜むこともありますが」
「ほう! ですが今日は呑まれないご様子ですが」
すっかり上機嫌でビールを呷るベナウィさんに、香苗さんが呆れながらも話している。二人とも台湾料理店で注文したみたいだけど、香苗さんはまぜそば定食なのに対してベナウィさんはビールと小籠包と鶏の唐揚げっぽいやつだ。ジーパイだっけ。
とにかく飲みたい! 飲んでる! って感じのベナウィさんが、香苗さんにも飲まないの? 的な感じで聞いている。
まあ、今回はさすがに呑まないだろうね。だって一応ながら、この後に彼女から俺達に向けてお話があるし。
「さすがに当たり前のように昼から呑むなんてことはなかなか……それに食後、公平くんやエリスさん、葵さんに私の帰省についてのアレコレを説明しますから」
そう。御堂本家についてのお話だね。
このあと、数日後にしばらくご厄介になる香苗さんのご実家での催しについて、事前にご説明いただくのだ。
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