禁句『S級探査者の中で誰が一番強いの?』
「サウダーデ・風間……ポルトガルのS級探査者ですね。《炎魔導》を絡めた格闘戦技術のエキスパートと聞いています」
ベナウィさんの師匠、サウダーデ・風間さんをお呼びしていると聞いて驚きを隠せない俺に、香苗さんが彼についてざっくりながら教えてくれた。
《炎魔導》を絡めた格闘戦技術……近距離タイプのスタイルか。聞くからに戦闘能力が高そうだな。
ベナウィさんの師匠が風間さんで、大師匠がマリーさんになるから、つまりは風間さんはマリーさんの弟子という関係になる。
たしかマリーさん、世界中にお弟子さんがいらっしゃるって話を以前に聞いた覚えがあるし、そのうちの一人なんだろうな。
「サウダーデ……本名クリストフっていうんだが。あいつは私がたしかそう、40歳かそこらくらいの頃の弟子でね。母方が日本人だってこともあり、今ちょうど来日して東北のほうを巡ってるらしいのさ。だからちょうどいいってんで今回、呼び出したってわけさね」
「懐かしい名前だ、風間か……最後に会ったのは10年以上も前だったか。元気そうで何よりだ」
「ファファファ! 私だって連絡したの3年ぶりくらいですよ。事情を聞かせたらすぐに頷いたあたり、まだ一応私を師とは思ってくれてるみたいですがねえ」
どうやらヴァールも面識があったみたいで、どこか懐かしそうに目を細めている。まあ、マリーさんやベナウィさんとも知り合いだったみたいだし、間の風間さんとも知り合いなのは当然といえば当然か。
一方でエリスさんはあからさまになんか、ほへーって感じの間の抜けた顔をしている。話についていけなくて心ここにあらずって感じだけど、こちらは風間さんのこと、知らないのかな?
「師匠、師匠。サウダーデ・風間さんですって! 押しも押されもせぬ大探査者、S級探査者の中でも最強クラスとさえ言われる超大物じゃないですか!」
「そーなの? 名前は聞いたことあるけど、それ以外のことについては全然なんだよね正直」
「ああ……そもそも師匠ってば名ばかりS級で、他のS級探査者とは前から繋がりのある人以外、誰とも会ったことないんですっけ。もしかして幻の珍獣ですか? 写真撮らせてもらっていいですか?」
「ハッハッハー、一番いい角度を頼むよ」
どういう会話だよ。
ナチュラルに何かがズレているやり取りだけど、エリスさんと葵さんって一生こんな感じで漫才してそうだなあ。
ていうか風間さん、すごく強い人なんだな……S級探査者の中でも最強かもしれないって。マリーさんやエリスさんさえ押さえてトップかもしれないってことなんでしょ? ヤバぁ……
俺同様、エリスさん達の話を聞いていたみたいでベナウィさんが、少し離れた席の二人に話しかける。
「師匠はたしかに強いですねえ。総合的に見て最強、とはとても言えませんが、それでも近接戦だけに絞ればたしかに、猛者揃いのS級探査者の中でも特に上澄みかもしれません。これは弟子の贔屓目を抜きにしての話ですよ」
「ほらーやっぱりー! はっはっはー、アンテナ低いですねえ師匠!」
「はしゃぐんじゃないよ、ミーハーっ子め。一応エリスさんだってレベルだけなら上澄みなんだぞー」
弟子というより、同じS級探査者としての目線からしても、相当高い位置にいらっしゃるみたいだね、風間さん。
葵さんにからかわれてエリスさんがやはり、ぐでーっとした顔をしている。
レベルだけなら上澄みって言うけど、たぶんこの人もS級探査者でも最強格なんじゃないかと思うんだよなあ。
マリーさん以上のレベルは絶対に伊達じゃないだろう。老化もないままに80年近く戦い続けてきた経験からくる実力は、本気で戦うとなれば確実に最強に近い探査者なんじゃないかなって気すらしている。
その辺の強さ議論は切りがないしさておくにしても。
とにかく今回、青樹さんの拠点にいると思しきスレイブモンスターの群れを相手に、ベナウィさんと風間さんのS級探査者師弟コンビが参加してくれるようだ。
あのこれ、もうこれ勝ってない?
いくらA級だB級だがひしめくスレイブモンスターの群れであっても、S級探査者二人を相手に数で押し切れるなんて到底思えない。
最悪ベナウィさんがうっかりしたら、それだけでひとまずモンスターハザード阻止! ってなりかねないくらいだ。
ヴァールが満足げに頷き、一同に問いかけた。
「とにかく、そういうことであれば問題ないな。サウダーデの作戦参加を認めたい。新川理事、烏丸局長補、郷田局長、そして神谷司教……構わんな?」
「もちろんです」
「モンスターハザードを防ぐためならば、今はあらゆる力を尽くすべきでしょう」
権力者の方々が、風間さんの倶楽部拠点制圧作戦への参加を次々、認めていく。何よりも優先すべきはモンスターハザードの阻止、そして倶楽部拠点の制圧だ。
そのためならば外部からの協力者、しかもS級だなんて喉から手が出る程の人材だろうからね。
決まりだな。これでS級探査者がさらに一人、戦線に加わるってわけだ。
興奮した様子で葵さんが語りだす。
「師匠、ベナウィさんに……サウダーデ・風間さんに、御堂さん! すごっ、S級探査者が合計4人も! え、すごいメンバー!」
世界に200人くらいしかいないS級探査者が、今回の作戦では4人も参加することに、何やらハッスルしているみたいだ。うーんミーハー。
でもたしかに、S級探査者ったらすごい人達だものな。俺の場合身近な伝道師がそうだから麻痺してる節があるけど、本当ならもっとはしゃぐべきことなのかもしれないね。
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