名前だけなら160話が初出の男
一週間以内に、各地の倶楽部拠点を目標に定めての大規模電撃作戦を展開することになった俺達。
詳しい内容や段取りについてはこの話し合いが終わった後、早急に各組織の責任者間で詰める予定だけど……どうあれ今ここにいる俺や香苗さんといった、現場で動くメンバーのさしあたっての役割はすでに決まっているみたいだ。
ヴァールが俺達を見回して言う。
「本命となる青樹の拠点については、おそらく突入メンバーはエリスと葵、山形公平が中心となるだろう。実際に幹部を取り押さえる能力者犯罪捜査官の二人と、やつらの能力を封印できる山形公平の存在は間違いなく本作戦の要だ」
「話を聞くに山形さんがいないと、青樹のすり抜け? らしいスキルなんて対処できるか怪しいですからね」
応えるエリスさんに、恐縮ながら俺も頷く。
実際に青樹さんなり火野と戦うお二人はもちろん、世界で唯一バグスキルを封印できる俺の存在も、対幹部戦においては重要なファクターだろう。
特に青樹さんの次元移動スキルは、そのまま相手するのはあまりにもこちらが不利だからね。向こうだけ好き放題にすり抜けできて、しかも攻撃する時だけ実体化されたら完全にワンサイドゲームだ。
火野老人の《玄武結界》も、まだ見ぬ鬼島とかいう幹部の強さも気にはなるけど……さしあたり視野に入れるべきは青樹さん、そしてスレイブモンスターの群れだろうな。
青樹さんはエリスさんと葵さんにお任せするとして、スレイブモンスター達を倒すための戦力も、今回は必要になる。
その辺を踏まえて、俺はヴァールに質問した。
「スレイブモンスター達は探査者で相手するんだろうけど、ってことは幹部対応組とスレイブモンスター対応組の、二手に分かれての両面作戦になるって認識でいいのか?」
「ああ、それでいい。仮に幹部とスレイブモンスターどもが一緒にいた場合でも、どうにか引き剥がしての戦いに持ち込みたい。乱戦になると、話がややこしくなるからな」
「捜査官でもない探査者に、モンスター以外を傷つけさせるわけにはいきませんからね。やむを得ない状況とてあり得ましょうが、基本的にはその方向で話を進めたいところです」
WSOトップのヴァールと、全探組トップの新川さん揃っての共通認識。
能力者犯罪捜査官ライセンスを持たない探査者を、万一でも犯罪能力者と交戦させるわけにはいかないという社会通念に則っての見解に、俺はなるほどと返した。
俺自身、捜査官ライセンスは持ってないからあくまで幹部達に対しては、バグスキルの封印という形での干渉しかしないつもりでいる。
法や秩序を無視して強引にことを進めるわけにはいかないし、したくもない。新しい時代を守ろうとしているのにそんなことをしては、本末転倒ってやつだからね。
「スレイブモンスター達の相手にはワタシとベナウィ・コーデリアを中心にした、大規模探査者パーティで臨むことになるとは思うが」
「大変な役目ですね。しっかりと勤めさせていただきましょう」
「…………拠点施設ともなればダンジョンとはわけが違うのだ。うっかりなどと言って建屋ごとすべてを消し飛ばすのは止めてくれよ?」
「いやーははは。信用ありませんねえ、私」
じっとりとした視線とともにヴァールから釘を差されたベナウィさん。誤魔化し笑いを浮かべて、頭を掻いていらっしゃるよ。
S級探査者である彼が、スレイブモンスターの相手をしてくれるのであれば心強いけれど、この人ダンジョンを更地にするプロだからなあ。
拠点も更地にしちゃいました、とかやられるとゾッとしないよ。
実際のところ俺は、彼がうっかり《極限極光魔法》でダンジョンをスッキリさせちゃった場面を肉眼で見たことはない。せいぜい部屋をスッキリさせたくらいなものか。
ただ動画配信サイトとかで、パーティの人が撮っていたのだろうそうした動画がばっちり投稿されていて、それを見たことならあるわけで。
それはもう、酷いのなんのって。
ノリノリのベナウィさんが、ダンジョン入って最初の部屋でスキルを発動したと思ったら、画面全体がホワイトアウトして。
3分ほどその状態が続いた後、光が収まった後には壁も何もあったもんじゃない大部屋になっていたんだから、堪ったもんじゃない。
普通、ダンジョンの道や壁ってそんなサクサク壊れたりしないんだけどね。さすがは極限魔法シリーズのスキルと言ったところか。
そんな有様な動画を見たもんだから、同じことを作戦行動中にうっかりやられでもしたら……と危惧するヴァールの気持ちは、ベナウィさんには悪いけど普通に分かっちゃうわけだ。
彼の隣、マリーさんがやれやれとため息を吐く。
次いでヴァールに対し、仕方ないとばかりに話しかけた。
「ヴァールさん。こいつの手綱を握れるやつを一人、近くに呼んでますんで。そいつも参加させてやってください」
「む? マリアベール、加勢を頼んでいたのか」
「公平ちゃんや御堂ちゃんに、危害を加えようとするアホタレども相手ですからねえ。頼れる味方は一人でも多いほうがいいと思って、声をかけといたんですさね。ファファファファ!」
そう言って大きく笑う彼女。そう言えばたしかに以前、頼れる仲間を呼ぶとかって仰ってたな、この人。
しかしベナウィさんの手綱を握るって、つまりはうっかりを防げる人ってことになる。そんな人いるんだ……いい人だけどそれはそれとしてうっかりやらかす、彼の悪癖を一体どうやって止めるのか。
気になって興味津々な様子の俺に気がついたのか、マリーさんはこっちを向いた。
ニヤリ、と不敵に笑って続けて言う。
「確実に、うっかりベナウィのうっかりを止められるよ公平ちゃん。なんせそいつぁ──こいつの師匠だからね。弟子の扱い方は誰より心得ている」
「……ベナウィさんの、師匠!?」
「そう。その名もサウダーデ・風間……芸名みたいなものなんだけどね。あいつも参加させとけば、スレイブモンスターだかなんだか知らんが、1000でも2000でも問題なしさね。ファファファ!」
豪快に笑うマリーさん。
サウダーデ・風間……ベナウィさんのお師匠さんが、この近辺にやって来ているのか!
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