ウィリアムズの見たもの
神谷さんからの宣言を受けて、ウィリアムズさんは司祭服の内側から小さなノートを取り出した。どうやら例のメモリから現時点でも分かっていることを、メモしてこの場に持ち込んだようだ。
穏やかに微笑む先々代聖女とは裏腹に、こちらはひどく堅苦しく生真面目な表情だ。ハッキリ言って緊張しているし、身体が強張っている。
「それではっ。この数日で判明した、スレイブモンスターに関する事実を皆様に向け、お話させていただきますっ」
「肩の力を抜いてくれていいぞ、ウィリアムズ。それともう少し声量は通常で頼む」
「はっ……はいぃ……」
そんなだからあからさまに平静でない、大きな声で話し始めた彼女をヴァールがやんわりと宥める。それを受けてウィリアムズさんは、そこでようやく落ち着こうとして深呼吸していく。
なんだろう、既視感がある。こないだ召喚した新人精霊知能・ヌツェンのような不器用さだ。どちらもめちゃくちゃマジメそうって共通点があるし、受ける印象がどうしても似通うね。
というかいきなりお偉いさんたちの前で発表なんて、普通誰でもビビるよね……なんなら同じ状況に置かれたら俺、半泣きになってしまうかもしれない。
そう思うととてもじゃないけど他人事じゃない。どうか頑張って、負けないで! と心の中でつい、エールを送ってしまう。
「すー、はー。すー、はー。し、失礼しました、皆様」
「構わん。ゆっくり落ち着いて、時間をかけてでも伝えてほしい。これまで謎だったスレイブモンスターに纏わる、新たなる事実を」
「はい……!」
ようやく落ち着いてきたのか、平静を取り戻した様子で応えるウィリアムズさん。そうなればクールビューティー美人シスターさんって感じの雰囲気で、山中で翠川と見かけた頃の調子に戻っていく。
たぶん、素は静かめな人なんだろうな。そんな彼女は落ち着いたトーンで話し始める。ヴァールの言うとおりこれまで一切詳細が不明だった、スレイブモンスターについての情報を、である。
「まずは進捗状況についてご報告を。ダンジョン聖教国際情報局において暗号解読を行った結果、すでに半分ほどの解読が行われています」
「半分とは早いな。さすがは国際的宗教組織といったところか」
「情報局って……なんだかさっきの神谷くんといい、ずいぶん腹の黒そうな組織になったもんだよねえ、ハッハッハー」
思っていた以上に迅速に暗号解読を進めているらしいダンジョン聖教の騎士団に、ヴァールは感心の声を上げている。わずか3日程度で半分だものな、早すぎると俺も思うよ。
ただ、一方でエリスさんが苦笑いを浮かべてボソリと呟いているのも印象深い。
騎士団だの情報局だの、一宗教団体としては規模がガチすぎるダンジョン聖教。
その姿に、初代聖女ながらダンジョン聖教にはあまり関わりのないらしい彼女としては、さっき郷田さん相手に無理を通した神谷さんの姿と合わせていろいろと複雑な気持ちになるんだろうなあ。
俺も割と後々、他人事じゃないだけあって微妙な面持ちで見つめつつ、ウィリアムズさんの言葉に耳を傾ける。
「残る未解読部分につきましても近日中に明らかになりますが……現時点でもすでに驚くべき情報があります」
「と、言いますと?」
「まず一つ。日本国内のスレイブモンスターは今、一拠点ごとに約100体、保有されています」
いきなり落とされたまさしく爆弾。予想をいきなり大幅に超える話に、俺達は思わず全員、愕然として口を噤んだ。
約100体。それも各拠点ごとにということは、日本国内全体においては400体前後、スレイブモンスターを保有しているというのか、倶楽部は。
桁違いだ。
年間の密輸量に比して倍じゃないか。数だけで言えば春先に起きた、スタンピードで商店街を襲ったモンスターの総数さえも凌駕してしまう。
なぜ、そんなことになってるんだ……!?
「どうやら製造方法は完全に確立されているらしく、組織がこれまでに密輸してきたスレイブモンスターはその中での低品質な……いわば不良品のみだったようです」
「不良品って。今まで倒してきたスレイブモンスター、軒並みC級だったんだけど……」
「まさかBだのAだのって級の連中を、やつらは確保しているってことですか……?」
「……確たる証拠はありませんが、そう考えるべきかと」
数だけでなく質も、聞いていた話を遥かに超えて厄介らしい。金稼ぎのために海外に密輸していたのはあくまで弱いモンスター、確保しておくに及ばないモノたちだけだったっていうのか。
さすがにS級モンスターまではいないと思いたいところだけど……いずれにしても大変な事実だ。この場にいる誰もが予想だにしていなかった規模で、倶楽部という組織は戦力を保持していた。
だがさらに爆弾は投下される。
ウィリアムズさん自身さえも顔を青ざめさせながらも、さらに話を続けていった。
「さらに……これは実際に私がこの目で見てきた光景ですが。やつらはその保有戦力を隣県の拠点に集め、何やら動き出そうとさえしているように潜入時、思えました」
「なんだって……!?」
A級、あるいはB級モンスターを集めての蜂起。それを、奴らは隣県で準備しているというのか。
先日のスタンピードなど児戯と言わんばかりの戦乱の予感が、この場を支配していた。
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