悪いことしてないけどなんか気圧される施設
翌日の朝9時。俺は香苗さんとエリスさん、葵さんと一緒に普段、行かないような場所に辿り着いていた。
その名も県警本部。泣く子も黙るし泣かせる子は黙らせる、天下無双の国家権力様の県本部施設である。
高く聳えるビルの、中にはおまわりさんがいっぱいいるのだ。それこそもしかしたら今も、いろんな悪いことした人達をこの中で取り締まったり尋問したりカツ丼食べたりしてるのかもしれない。
そう考えると居ても立っても居られない、緊張と恐怖が背筋を走る。別に疚しいことなんて一つだって無いのに、なんか怖いもんよこの建物の威容!
「怖ぁ……」
「なんでいきなり怖がってるのかな、山形さん? 何か疚しいことでもあるのかな、ハッハッハー。ちなみにエリスさんは両手足の指じゃ済まない程度にはあるよ、これ内緒ネ!」
「はっはっはー! そんな師匠に巻き込まれて葵さんも、両手の指くらいは疚しいところがありますねー! 何かあったらすぐに師匠の両手を差し出しますよ!」
「後ろ暗すぎませんかね、お二人とも」
恐ろしく闇を匂わせてくる、バレたらお縄待ったなしかもしれないオトボケ師弟のエリスさんと葵さん。そんなに疚しいことがあるってあなた方、一体何をしてきたんですかこれまで。
それに対して呆れた様子でツッコむのが香苗さんだ。この人にツッコミを入れさせるのって地味にすごい気がしなくもないけど、よく考えたら別にすごいわけでもない気がする。
そんなやり取りもそこそこに、エリスさんはいつもどおりの呑気な笑みを浮かべて言った。
「まーまー。今日のところは我々は捕まる側じゃなし、捕まえた側だから。なんならこれから楽しい楽しい話し合いだ、やったね山形さん! 刑事ドラマみたいな場面に出くわせるかもよ!」
「マニアックな喜び方してますね……ていうかもう、事情聴取は終わってるんですよね?」
「ああ、そこはもちろん。すっかり素直になったらしく、いろいろと喋ってくれたってヴァールさんが言ってたよ。どこぞの小娘の《雷魔導》を、さすがに3度目は喰らいたくないってぼやいてたんだってさ」
「つまりこの私、葵さんが締め上げた形になりますね! はっはっはー!」
葵さんが鼻高々とばかりに自分の功績を叫ぶの。そりゃそうだよね、《雷魔導》の直撃を2度も食らったんだし。いくらバトルジャンキーだからって言っても、3度目は勘弁してくれってなるのは分かるよ。
すっかり調子に乗ってる感じのある葵さんの、額に軽くデコピン。エリスさんがやれやれとばかりに、けれど顔は明らかに面白がっている様子で言う。
「まったくこの子は一体、翠川相手にどれだけブチギレたのやらねえ。師匠愛が強い弟子を持って何やら嬉しいやら照れくさいやらだよ、ハッハッハー」
「その話はもうしないってこないだ、お寿司屋さんで私ら誓いましたよね師匠! なんなら四次会でマリーさん立会いの下、聞いてもらいましたよね師匠!」
「いやー覚えがないなーハッハッハー。エリスさんベロンベロンのグデングデンだったしなあお酒入ってー。ハッハッハー、ハッハッハー」
「お酒苦手なくせしてカッコつけるから、もう!」
昨日、翠川相手にエリスさん絡みのことで激ぉこかました葵さんだけれど、どうも本人的には照れ隠しだろうけど話題にされたくない部分らしい。
あの後、本当に上機嫌のエリスさんに連れられて行ったのか、回らないタイプのお寿司屋さん。そしてそれ以降も夜の街に繰り出したんだな。よりにもよって、マリーさんまで巻き込んで。
当然のようにしこたま飲んだみたいだけど、その割にエリスさんはお酒が苦手なんだな。いやまあ、今回はそれを言い訳にしてしらばっくれているようにも見えるけれど。
葵さんやマリーさんもお酒、飲んだんだろうか? いやまさか、マリーさんはさすがに飲んではいないだろう。まだ肝臓の治療中なのに、そこまで無茶はしないはずだと信じたい。
「ま、そんな些事はさておいてだよ諸君。というわけで翠川の事情聴取を受けての会議がこれから行われるから、それに我々も立ち会わせてもらおうってわけさ」
「些事じゃないです私には! ……はあ、まあ、これについては後で話し合うとして。いいんですか? 山形くんや御堂さんまで立ち会わせて。私達だけならともかく、このお二人は部外者も同然でしょう」
葵さんが憤懣やる方ないとばかりに鼻息を荒くして、けれどすでに仕事モードに意識を切り替えたようでどこか拗ねたように師匠へと尋ねる。こういうところ、プロらしいスイッチのオンオフだね。
たしかに彼女の言うように、俺と香苗さんが会議に立ち会うってのはちょっとおかしな話だと思う。だって警察からしてみたら、能力者犯罪捜査官のお二人はともかくとして俺達二人は精々が被害者か当事者であって捜査関係者ではないだろうし。
その辺どうなんだろう?
俺や香苗さんも気になるところの質問に、エリスさんはにっこり笑って答えるのだった。
「ヴァールさんと話し合った末、お二人はどちらかといえばWSO側の捜査協力者として扱うことにしたよ。実際、翠川捕縛については山形さんの活躍なかりせば実現しなかったかもだし。御堂さんにもエラーダンジョンの隔離を手伝ってもらったからね。ほら、青樹特製とかいうあのマントで」
「彩雲三稜鏡です。青樹さん特製というのは止めてもらっていいですか? なんと言いますか、複雑な気持ちになりますので」
「ま、まあまあ……」
かなり本気目で嫌がる香苗さんを宥める。この人なんかもう、かなり真面目に青樹さんに嫌気が差してないか?
しかし、なるほどWSO側の協力者か。
まあそう言えなくもないだけの働きはしたつもりではあるし、そういう理屈で通せるんなら通るか。
エリスさんとヴァールによる機転というか、頓知っぽさにはちょっと脱帽だ。
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