ハーレム救世主、伝道師の実家に行くってよ
鉄板の上で油が踊る。肉と野菜が焼ける音と匂いが、鼻腔をくすぐり食欲を刺激する。
堪らないよね焼肉。こないだクラスのみんなと食べたお店での焼肉もいいけど、お家で食べるホットプレートでの焼肉も最高だ。
「フローリングの床がツルツルしたりするから、普段はあんまりしたくないんだけどねえ。ま、今日くらいは仕方ないでしょ」
と、食後の後始末が大変だというのを語るのはお母様である。聞けばやはり油だったり匂いだったり煙だったりが方々染み付いて、その対処が手間取るとのことだ。
だったらそこは任せてほしいと、俺は肉を食べながらも言った。
「後始末は俺がやるよ。アルコールシートで床拭いて、消臭剤撒くんでしょ?」
「あと壁や照明とか天井もね。え、いいの? 助かるけど」
「やるよやるよ。俺もそれくらい手伝うって」
壁とか照明、天井まで拭くってのは多少面倒だけど、俺ならその辺、最低限の道具でカバーできるからね。ほら、神魔終焉結界使えば空だって飛べるし。
いっそひと思いに因果改変しようかな? とか一瞬考えたけど、別に俺が動けば済むことを、そこまでする必要性はないしね。どうしようもない暑さ寒さをカットするのとはわけが違うのだ。
自力でできることは自力でやる。じゃないと俺はそのうち人間・山形公平じゃなくてシステム・コマンドプロンプトになっちゃいそうな気がするしね。
そんなわけで食後の後始末については俺ちゃん、人間としてきっちりやらせていただく所存だったりするのでした。
「じゃあリーベちゃん、お母様に代わって食器洗いとかしますよー! せっかくの優子ちゃんの誕生日、どうかご両親と3人で水入らずにご歓談くださいー」
リーベもリーベで、俺同様に母ちゃんの負担を減らそうと考えたみたいだった。後片付けを請け負い、両親と妹ちゃんを3人、寛がせたいらしい。
使えるものならなんでも使う母ちゃんも、さすがにリーベに対しては気遣いの心を見せる。ありがたいと言いたげな顔でしかし、裏腹の申しわけなさで応える。
「え? でも、油の処理とか面倒よ? さすがにそこは私が」
「大丈夫ですよー! その辺もバッチリできますからー! お母様にお教えいただいた家事のアレコレ、今こそご恩返しに披露する時ですともー! はい優子ちゃん、お肉にお野菜ですよー」
「ありがとう、リーベ姉ちゃん!」
しっかり焼けたお肉とお野菜を、優子ちゃんの皿にせっせとよそいつつもリーベが微笑む。
この子最近、母ちゃんから家事や料理を教わっていたみたいなんだけど……さすがは精霊知能、もうすでにほぼほぼ完全にマスターしたみたいなんだよ。
なんなら一部料理では母ちゃんよりうまいかもしれない時がある。
これまでアドミニストレータ計画の企画立案および進行調整にすべて割いていた分のリソースを、そのまま習い事に向けたんだからそうなるのも当然ではあるよね。
そんなだからすっかり我が家では、母ちゃんとリーベとで家事を二分する感じになっている。負担が事実上半減した、母ちゃん大喜びである。
これで優子ちゃんが似たような感じになれば言うことなしなんだけど……まあこの子に関してはね。根底に夏休みだしダラダラしてたいってのがあるから、イヤイヤ感はでちゃうしね。
まだまだ発展途上な有様だったりした。
「リーベちゃん……いい子だなあ! 母ちゃん、この子いい子だよう!!」
「もう酔ってるわねそのテンション……でもホント優しいわ〜リーベちゃん。公平にはもったいないくらいだわ」
「えっへへ〜そんな〜」
すっかりビール瓶をまる1本空けて、父ちゃんがハイテンションで感動を示す。焼肉相手だからかペースが早い、大丈夫かな?
母ちゃんも結局リーベに頼むみたいで、すごく嬉しそうにしている。でももったいないとかもったいなくないとかの話でもなくない?
瓶二本目を空けつつ、父ちゃんがそーだそーだと追従した。
「まったく公平め、最近美女に囲まれまくって羨ましいぞ!! ネットでハーレム救世主とか言われてるの父ちゃん、知ってるんだかんな!」
「何が羨ましいですって!?」
「ごめんなさぁい!!」
「ネットの書き込みを鵜呑みにしないでよ!」
なんて人だ! でも美女に囲まれているのは否定できないのがつらい。
最近だとアンジェさんとランレイさんが首都圏行ったけど、代わりとばかりにエリスさんと葵さんがやって来たし。近くにいる知り合いの美女の総数的には変わりがない。
これは言われても仕方ないと自分でも思うんだけど、別にマジでハーレムなんて築いているわけじゃないからね。
彼女達の名誉のためにも事実無根だという主張は続けていきたいところだ。
続けて父ちゃんが、肉を頬張り絡んでくる。
「そんでもって、今度アレだろ公平?」
「どれ?」
「御堂さんのご実家に数日、お泊りするんだろ? ネットの話がなくったってなんだそりゃ、とはなるぞ俺だって」
「ああ、それ……」
父ちゃんの、若干心配している感じの言葉。母ちゃんもどこか、こいつ大丈夫かよ的な目で俺を見てくる。
いや、そんな浮いた話でのことじゃないんだけどね。結局のところ倶楽部関係でのアレコレなわけだし、半ばお仕事なんだよこれも。
──そう。俺はあと数日したら、香苗さんの実家に寄らせてもらい、そこで何日か滞在するのだ。
御堂本家と親戚筋が集う、盆参りになんでか参加することになったわけだね。
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