やっぱりハグ魔じゃないか(歓喜)
名前 翠川均 レベル502
称号 ガンマン
スキル
名称 振動
名称 銃技
名称 頑健
「……たしかに。間違いなく消えてるよ、《座標変動》」
余計なことを口にしない、という条件付きで翠川のステータスを拝見した俺。たしかにバグスキル《座標変動》が取り除かれていることを確認し、ホッと一息つく。
これで翠川は正真正銘、単なる一オペレータだ。いやまあ、探査者として登録していない能力者の割に、レベルが破格の高さなのは気になるけど……それにしたって対処できない程じゃないしね。
見事、仕事をこなしてくれたヌツェンに対して俺は感謝を告げる。
「ありがとうヌツェン。お陰でややこしい案件が一つ片付いたよ」
『は、はいっ!! ありがたきお言葉、至極光栄ですっ!!』
やはり堅苦しい所作で敬礼する彼女の、生真面目さがちょっと微笑ましい。気がきつそうな顔つきなんだけど、やけに下手というか弱気なんだよなあ。
そういうところ、やはり新人さんってことなんだろう。そのうち、もうちょい肩の力を抜いていけるといいよね。
『それでは私はこれにて失礼いたします! 本日はお呼びいただきまことにありがとうございました!!』
「こちらこそ、来てくれてありがとう。また有事の際には頼るかもだけど、お願いしてもいいかな?」
『もちろんです! 我々の力がお役に立てるのであれば、これほど光栄なことはありません! またいずれ、お会いしましょう────』
最後まで大仰というか、律儀で誠実な言葉を残して。精霊知能ヌツェンはそして、システム領域へと戻っていった。
今後、彼女には度々お越しいただくことになるだろう。主に火野と青樹さんのバグスキルを取り除くためにね。そしてせっかく受け取った精霊知能召喚スキルだ、あるいは他のことにも便利遣いしたっていいのかもしれない。
この辺はリーベも交えていろいろ、試してみるかな。
俺はそもそも精霊知能とあまり親しくないし、あいつを介さないとまともに話ができるかも怪しいしね。というか俺だけだと、なんかその、腫れ物扱いされそうな気がしてならないから怖いし。
そうして一段落。《座標変動》も消えて完全に普通の能力者となった翠川を、あとは警察に引き渡しの上で事情聴取してもらうだけだ。
つまるところ今回の俺の仕事はこれにて終了! ってことだねー。ふうと息を吐く。
葵さんが戸惑いがちに、ヌツェンのいた場所を見つめて複雑そうにつぶやく。
「ほ、本当に消えたんですね、スキル……なんか、ここ数日で私の中の常識とかが結構な割合、崩れちゃってますよ……」
「変な場面に居合わせたな、葵。とはいえ、こういった芸当ができるのは基本的にワタシや山形公平に連なるモノの中のごく一部だけだ。滅多なことでは絡んでこないだろうから、あまり気にするなとしか言いようがない」
「そんな頻繁に絡んでこられても困りますからね、はっはっはー! ……まあ、いい勉強をさせてもらったとしますよ」
次々と理解不能なことが起きて、混乱気味の葵さんがそれでも豪快に笑う。エリスさん譲りなのだろうか、柔軟に受け止めようとしてくれているみたいだ。
実際のところ、ヴァールが言うようにシステム側の案件に関わる機会なんてそうそうない。だから別に、これはこういうものということで適度にスルーしていただいて構わないんだけど……気になる人には気になるんだろうしね、俺の、いや私たち側の事情とか。
「山形くんがなんだか相当、すごい立場の人ってのは分かりました。昨日今日で何度お世話になったか分かりませんよ……本当は私や師匠がお世話するべきなのに」
「いや、そんなことは……お二人がいないと翠川とかどうにもなりませんでしたし」
自嘲気味にそんなことをつぶやく葵さんだけど、とんでもない話だ。そもそもこの師弟がいてこその俺の今回の動きなんだから、因果が逆なんだよね。
エリスさんと葵さんによる指揮のおかげで俺は、犯罪能力者を相手取るという初めてのケースにあっても冷静に動くことができた。仮に俺が単独で相手した場合、手も足りないし経験も足りないしで間違いなく対応が後手に回っていたことだろう。
それを思うとお世話になったのは俺のほうだ、確実に。
感謝と尊敬の意味も込めて、俺は葵さんへと向き直って言った。
「お二人がいてくださらなかったら、翠川には逃げられてましたしウィリアムズさんは殺されていた。スタンピードも町中で起きてしまっていたでしょう。お世話になった、なんてこっちの台詞ですよ」
「山形くん……」
「倶楽部との戦いは今後も続くが、ひとまず翠川の逃走や町中でのスタンピードを未然に防げたのは山形公平だけでない、葵やエリスの貢献も大変に大きい。あまり、自分を卑下してくれるな。お前たちは立派に勤めを果たしているさ」
「ヴァールさん……!」
ヴァールも同じく、能力者犯罪捜査官のお二人を称える。
まさしく言う通りで卑下する必要なんてどこにもないのだ。強くて賢くて頼りになる、素晴らしい人たちなんだから。
俺達の言葉に、葵さんは感動したように震え、涙目になる。
そして感極まったとばかりに俺たちをまとめて抱きしめて、大声で叫ぶのだった。
「ありがとうございます……! 二人とも、大好きですよはっはっはー!」
「うわわっ」
「だからと言って抱きつくな! 暑苦しい!」
前から葵さん、横にはヴァール! 柔らかくて暖かな感触が前から横から! 幸せだけど怖い!
この人やっぱり抱きつき癖あるんじゃないか! ありがとうございます!!
勢い任せに感謝を抱きながらも、テンパっちゃう俺ちゃんでした。
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