フレッシュ!な新人精霊知能
「バグ絡みの精霊知能って誰だったっけ? クロノジーテ? それかマシネ?」
「いや、そいつらはスキル製作担当だな。関係ないこともないが、担当部署は一応異なる」
まさかのスキルでの精霊知能を召喚、という流れになり。
とりあえず直近で急を要するだろう、翠川のバグスキル《座標変動》を没収できるよう、バグ担当の精霊知能を呼び出そうとした俺ちゃんなわけだけど……誰が担当してたかをすっかり忘れてしまっていた。
というか、そもそも覚えていたかも怪しい。なんせ俺はシステム側の存在の中でも特別、誰とも関わりがないままに今日まで来てしまった本物の一人ぼっちだからね。
たまに彼らの様子を見ていた際、なんとなく印象に残っていたモノたちの名前を挙げると即座にヴァールから否定が入ってしまった。
「あれ、そうだったか。となると誰だ?」
「ヌツェンという名の、最近になって生み出された精霊知能だ。オペレータがバグを引き起こし始めたことを受けての発生になるため、まだ100年も生きていない新米だな」
「ひ、100年やってまだ新米……」
スケールの大きい年齢マウントに葵さんがドン引きしている。まあ、システム側的には100年ってそんなに……だからね。仕方ないところはある。
しかしヌツェンとは、聞いたことのない名前だ。つまりはコマンドプロンプトが輪廻に乗り、転生し始めて以降に発生した新参の精霊知能ということか。
邪悪なる思念の襲撃の影響で、精霊知能たちもかなりの数が犠牲になったからなあ。穴埋め的に後任で発生したものもそれなりにいたはずだ。
その関係上システム領域において俺やワールドプロセッサは当然のこと、実はリーベやヴァールも最古参世代だったりするんだよね。別名ロートルともいうが。
ヌツェンとやらは大ダンジョン時代が到来してからの発生らしいし、たしかに相当新しい部類の子だな。そんな子がバグ関係のフィックスなりスキル作製なりを担当してくれているのか。
……緊張してきた。急にそんな、若い子を呼び出して大丈夫かな? 老害とか言われたらどうしよう。こわい。
「よ、呼ぶのは今度にしよっか」
「そろそろワタシも、あなたが何を考えているのか分かってきたなあ。最上位存在がおかしなことを気にしないでくれないか?」
「い、いやでも……」
「その自信のなさはなんなのだ、あなたは……」
呆れ返った顔をして俺を見てくるヴァールさん。
いやだって仕方ないじゃん。構図的に俺、いきなり新人を呼びつけて顎で使うお偉いさんっていうあからさまな嫌われ者なんだし。
しかもコマンドプロンプトなんて、500年ずっと隠れて隙を窺っていた陰キャの中の陰キャだ。
仮に普段から精霊知能たちに気さくに話しかけてたりして、コミュニケーションを図っていたとしたらワンチャンあったかもだけど……現実は話どころか存在そのものを隠し続けてきたわけだしもうどうしようもない。
「た、ため息とかつかれたらどうしよう。怖ぁ……」
「精霊知能があなたに対してそんな真似をするものか。ましてやまだまだひよっ子の新人だぞ、緊張して縮こまってしまう姿が今から目に浮かぶ」
「俺だって縮こまるだろうからお揃いだなあ……」
「ていうか山形くん、そういう立場のナニモノかなんですねえ……」
葵さんの、形容し難い困惑の視線も地味に痛い。いろいろ突っ込んだことを目の前で話しているけれど、たぶんそんなに理解はできてないことだろう。したところでどうという話でもないけど。
さておき。まあ、ウダウダ言っていてもしかたない。やるならやるで、さっさと用を済ませておかえりいただこう、そのヌツェンさんとやらには。
意を決して俺は、覚えたてのスキルを発動した。
「《風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》!」
「ラノベのタイトルみたいですねえ」
「ああ、昨今流行りらしいな。転移だの転生だのファンタジーだの異世界恋愛だのと、エリスがこの間熱弁していた」
「師匠、そういうの大好きっ子ですしねえ」
「くっ……き、来てくれ、精霊知能ヌツェン!」
よくまあ実際に声に出さなきゃいけない俺を前にしてそんなこと言えるよね、この人達! 別段からかっているわけではないんだろうけど、なんだかついつい顔が赤くなってしまう。
いやまあ俺もその手の小説好きだけど。異世界転移して云々ってのは探査者になる前、よくよく妄想していたけれども! ていうかエリスさん、割とガチでどっぷりハマってんじゃねーか!
追いつかないのでツッコミはそこそこにして諦めて、精霊知能が無事に召喚された感覚があるのでそちらを見る。
俺のすぐ前、半透明の女の子がいる。霊体化した精霊知能だ。紫の髪にツリ目がちの強気な印象の顔立ちをした、20代半ばくらいの女性。何故か軍服っぽい作業着を着て、俺の前で敬礼している。めちゃくちゃ真顔だ。
え、ヴァールやリーベより大人っぽいよ?
本当に100歳もいってない新人さんなの、この人?
戸惑う俺だったがしかし、すぐに彼女の様子がおかしいことに気づく。
何やら酷く緊張して震えている。顔もどこか青いし、具合が悪そうだ。
え? 何、なんかした俺?
「あ、あの……ぬ、ヌツェン、かな?」
『っ! は、はっ! お初にお目にかかります、コマンド……あっいえっ山形公平様っ!!』
恐る恐る声をかけると、ビクンと震えて彼女は敬礼したまま、早口で俺に応えた。
コマンドプロンプトではなく山形公平と言ってくれるあたり、俺の事情と現世での立ち位置を理解して協力してくれているみたいだ。それはありがたいんだけど……なんでそんなガッチガチ?
戸惑う俺。見ればヴァールは肩をすくめているし、葵さんは目を白黒させている。霊体を見るのも初めてだろうし、成り行きにもついていけてないだろうしな。
そして眼前の女性は、真っ青な顔をしてさらに続けるのだった。
『精霊知能、コードネーム・ヌツェンです! この度は私の担当する箇所につきまして、多大なるご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げますっ!! 申しわけ、ありませんでしたぁーっ!!』
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
書籍、電子書籍ともによろしくお願いいたしますー!
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
もしくは
PASH!ブックス公式Twitter(@pashbooks)
にて詳しい告知をさせていただいております。ぜひともご確認くださいませ!
よろしくお願いいたします!




