まったく最近の犯罪能力者ときたら
倒れ伏す翠川。完全に脱力してぐったりとするその姿には、意識らしいものは一切確認できない。完全に気絶しているみたいだった。
脇腹を大きく裂いてその上で戦闘して、最後には葵さんの《雷魔導》をもろに食らったのだ。意識を失って当然と言うか、そもそもまだ死んでないのが不思議なくらいだった。
「一体どれほどの年月、独力で鍛え続けてきたんだ? この男は──《フーロイータに刺されてないから翠川は傷を負ってもいない》し、《葵さんは耳を怪我してないから耳に傷を負っていない》」
「1年2年ではあるまい。おそらくは十数年から数十年、ひたすら戦いに明け暮れてきたのだろうな」
翠川が意識を飛ばし、空間転移を行えなくなった以上バグスキル封印はもう、必要ない。
すぐさま権能の行使を切り替えて俺は、瀕死の翠川の腹の傷をなかったことにし、治療を施した。加えて葵さんの耳の負傷をも癒やして元通りにする。
ただ、翠川についてはあくまでもフーロイータの傷だけだ。その後に食らった葵さんの《雷魔導》についてはそのままなので、どのみち攻撃を受けて意識を飛ばしたという因果は元のままだな。
「横っ腹を自分で掻っ捌いて、グロテスクなものを撒きながらそれでもなお、短時間の間ですけど私に2回も攻撃してきたんですもんねえ……っていうか本当、山形くんのそのスキルなんなんですか? インチキすぎません? 治療してもらった身で言うのもなんですけど」
「いやあ、ははは」
「山形公平はいろいろ特別だ。あまり深入りはしないことをオススメする」
俺の因果改変がいよいよ胡散臭いものに見えてきたのか、葵さんの視線が若干ジトーっとしている。
それを笑って誤魔化し、ヴァールにもフォローになってるんだかなってないんだか分からないようなフォローをしてもらいつつも、やはり視線は倒れ伏す翠川へと向かう。
とんでもない男だった。これまでに見たことのないレベルの、桁違いのバトルジャンキーだった。
最後だから楽しませろ、という言葉。そして心底楽しそうな笑い声からして、彼が完全に自身の趣味のため、この戦いを挑んだことが分かる。
……そこまでするものなのか? ここまで、してしまえるものなのか?
思えば過去、戦い大好き! みたいな方々とは何人かお会いしたことがある。リンちゃんとかアンジェさん、ランレイさんとかね。
だけど彼女達にはしっかりとした倫理観と良心があった。正義感に誇り、そして探査者としての使命感もだ。だからいくらバトルジャンキー的とはいっても、決してここまでの無茶な真似はしてこなかったように思う。
「スキル同士のぶつかり合い、能力者同士の戦いが、そんなにこの男にとっては魅力的だったのか……」
「そう、なのだろうな。ワタシやあなたからすれば決して、理解できない領分となるが」
つまりはそういうことなのだろう。オペレータとして得たスキルを、互いに用いた戦闘いや、殺し合い。
何が楽しいんだかまったく理解できないが翠川は、それに魅入られてしまいここまで至ったということなのだろうな。
「葵はどう思う? この男の戦闘趣味について。昨今の若い探査者の考え方は、残念ながらワタシには理解しづらいところも少なくない」
「いやいや、概ねお二人と同感ですよ私も。普通、自傷に及んでまで無謀な負け戦を仕掛けるなんてありえません。今の私と同じくらいかそれ以下の年代だと、リスクを負うのを避ける傾向にあるそうですからなおのことですよ」
「そうか……」
まあ、だろうな。ヴァールと葵さんのやり取りからなんとなく考える。
年代世代によらず、肉を切らせて骨を断つなんてのをマジで躊躇なくできる人は一握りだ。大体の人は肉を切らせるリスクなどそもそも背負いたくないし、そんなことをするくらいなら多少遠回りでもローリスクの選択をする。
俺だってそうだよ、痛い目に遭うなんてゴメンだしな。
その辺の感覚を一切無視して、とにかく自身の趣味であるスキルを使ったバトルを楽しむ。翠川はその辺、恐ろしいまでに欲望に直球だったと言える。
こんなのが、幹部をやっている組織なのかあ倶楽部……青樹さんは言わずもがな、火野老人とてこの調子だとどんなとんでもないことをしてくるか分かったもんじゃないよ。
「とにかく。再度倒したのだから、この男のパーソナリティ含め倶楽部の内実についてもスレイブモンスターについても、この後の事情聴取にて話を聞ければいい。また病院送りにするほどの傷ではなかろう、葵?」
「もちろんです。どうせ入院させてたらまた、青樹なりなんなりがインチキかまして来るんでしょうし。さっさと吐かせるだけ吐かせて、とっとと裁判にかけるのが一番ですしね」
「うむ、さすがだ」
葵さんの言葉に満足げに頷くヴァール。そりゃまあ、また病院送りってなったらまた、同じことが起きない保証がないもんな。
たまたまかどうか知らないがヴァールとエリスさんが居合わせたから、最低限の規模で済んだだけであって。普通はもっと大惨事になってもおかしくない事態だったしな。
それを考えるとさっさと聞くことを聞いて、後は牢屋に突っ込むってのは迅速かつ賢明だ。
ただ、それをするにしてもやはり不安はつきまとうんだけどね。
「《座標変動》がなあ」
「封印拘束具が万一壊された場合、その時点で逃亡成立だからな……」
そう、やつのバグスキル《座標変動》だ。
あれがある限り、翠川には常に逃亡のチャンスがあるのだ。どれだけ多重に拘束具をつけたとしても、そこのところの不安は絶対について回るというのが悔しいけれど、実際のところだ。
────と。そんな時。
不意に脳裏に声が響いた。
『あなたはスキルを獲得しました』
「は?」
「どうした、山形公平」
「いや、今なんか、スキルを獲得したって声が」
突然のスキル獲得に惑う。
なんだコレ、なんでこのタイミング?
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