倶楽部幹部・翠川均の終焉
自身の身体を傷つけることさえ厭わない、まさしく肉を切らせて骨を断つ行動に出た翠川。
やつが葵さんに向けた銃口が火を吹き、そして銃弾は放たれた。スキル《振動》を併用しての、技の発動である。
「っく──!!」
「葵さん!!」
自身を狙う銃弾の、発射に先んじて葵さんは身を捩らせた。ごく一瞬、わずかながらの回避行動。ほんの少しばかりの動きに過ぎないそれが、しかし彼女の生死を分けた。
狙い通りで行けば間違いなく彼女の眉間を貫いていただろう弾丸が、ギリギリ耳を貫くだけに収まったのだ。
「ちいいっ!! 翠川っ!!」
「よく避けたァッ! 葵とやらァァァッ!!」
弾けた耳から血が噴き出すのも構わず、横に飛び退いて葵さんはフーロイータを構え直して即時反撃に出る。当然、それに対して翠川も銃を再度突きつける。
しかしそう何度も、奇をてらうやり方が通じるものか! 俺同様に駆け出して距離を詰めたヴァールが、横合いから銃口の射線上に《鎖法》の鎖を放った!
「《鎖法》鉄鎖乱舞!」
「な──」
まっすぐに銃と葵さんの間を、ヴァールの腕から放たれた鎖が一直線に走る。そして同時に、またしても翠川の銃から弾丸が放たれた。
爆発音とともに、殺意の塊が飛ぶ。今度も確実に殺すことを意図しての、葵さんの眉間を正確に狙い撃っている。
甲高い、金属同士が激しくぶつかる音。
間一髪、そんなタイミングだった。結果としてヴァールの鎖に銃弾が防がれて、葵さんへの攻撃はまたも防がれたのだ。
「────チェェェェッホワァァァァッ!!」
翠川がヴァールを見て、愕然とした様子でソフィアさんの名を叫んだ。なるほど事情を知らない者からすれば、姿形を共有している以上、彼女がソフィアさんに見えるわけだな。
しかしてその実態は違う──今の彼女は精霊知能ヴァール。長きに渡り大ダンジョン時代を支え護ってきた、ソフィア・チェーホワの影に潜む守護天使なのだ!
「が、あ……! モ、モンスターどもっ、鎖女を殺れぇッ! 俺の相手は、てめえだけだ葵ィィッ!!」
ヴァールの横槍に対して、翠川は血を吐き悶え苦しみながらも、スレイブモンスターへと指示を出す。
裂かれた腹からは血ばかりか、それ以外のモノさえ出てきていてあまりにグロテスクだ。痛みももはや死にかねない程だろうにこの男、そうまでして戦うことを選ぶのか。ある種、その執念には感嘆の念を禁じ得ない。
「フヘ、ヘハハ、ハハハハヒャァッ!!」
憎悪というよりも純粋なる戦意。それもどこか、心から楽しそうに笑いながら。
翠川は、この戦いを楽しんでいる。直感的にそう確信してしまえる、ある種無邪気な笑顔だ。しかして振るうのは相手を殺そうとする銃なのだから、やはりこの男は危険だとしか言えない。
「──《あまねく命の明日のために》! ビームよ、拡散して貫け!」
「ハ────?」
そんな男だからこそ、絶対ここで止めなければならない。
俺はすぐさま両手から拡散する性質のビームを放ち、周囲にいる5体のスレイブモンスターの体を貫き消滅させた。
《あまねく命の明日のために》、これもバグスキルの一種だが今回は問題なく使える。座標を改竄するスキルじゃないからな。
性質や威力を調節できる性質上、こうした限定状況下においては便利な攻撃法だ。実際に今、こうして5体同時に瞬殺できたわけだからね。
「な、な────!?」
まさか頼りのスレイブモンスターを、5体同時に瞬殺されるとは思いもしなかったのだろう。しかもそれをやったのが、まったくのノーマークだったこの俺なのだから余計に。
唖然として、もはや口から鮮血の泡を吹き出している翠川が見てくるのさえ無視して、俺はすぐさま葵さんに叫ぶ。
「葵さん、次で決めてください! 翠川の命が危ない!」
「分かりましたぁっ!!」
そろそろいい加減、翠川の意識を奪わなければ本当に死んでしまう。バグスキルを封じている間、他のことに因果改変はできないからな。
最悪、意識があろうと死なせないつもりではいるけど……そうなると今度はバグスキルが解禁されてしまうため、やつに逃げられかねない。
そこを考えるとやはり最良は、今すぐ敵を制圧して意識を奪い、その間に治療することなのだ。
だから、葵さんにすべてを託す。
翠川を倒して彼を救うことを。その命を助け、その悪を戒めることを。
能力者犯罪捜査官・早瀬葵という人に──!!
「《雷魔導》ッ!!」
「まさか、てめえが……!? やま、がた」
もはや意識も視界さえ朦朧としているだろうに、真っ青な顔でそれでも俺を睨みつける、鬼気迫る表情の翠川。
構わない、好きなだけ睨んでいてくれ。そうしている間に、あなたの犯罪者としてのあり方も終わるんだ。
「こう、へ──!!」
「──サンダー・ボルトブレイカーッ!!」
完全に俺に気を取られている隙に、葵さんの右腕から放たれる極太の雷。
轟音と閃光を伴う超エネルギーの雷が、一瞬で翠川を飲み込む。フーロイータを通していない分、威力は低いが今回の場合はそれがむしろ好都合だ。あくまで意識を奪うだけ、だからな。
数秒の音と光が突き抜けていって、いくばくかの放電の余韻を残して静かに収まっていく。
通り過ぎていった《雷魔導》の後に残るのは、たった一人。
「────」
完全に意識を失い、静かにその場に崩れ落ちる倶楽部幹部・翠川均の姿だけだった。
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