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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
第二部・第八次モンスターハザード編

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昔はエレベーターに案内役の人がいたんじゃよ(隙自語)

 青樹佐智さん。倶楽部の幹部である彼女とこの間、初めて俺は相対した。

 残念ながら友好的とは言えない、むしろ敵対的なやり取りに終始してしまったわけだけど……彼女がその際に見せた謎の現象こそが、今回翠川がどうやってエラーダンジョンのコアを確保したのかの鍵なんじゃないか、と俺には思えるのだ。

 

「あの時……青樹さんはなんらかの方法によって自身の位置座標をズラしていた。その場にいるように見せかけて、実はそこにはいなかったんだ」

「言っていたな、時間と空間の間に身を潜めるバグスキルだったか? 現世空間より上の次元にいたのだったな」

「そう。翠川の《座標変動》が縦横の移動だとすれば、青樹さんのバグスキルは上下の移動だ」

 

 今、目に映る現世だけがこの世のすべてではもちろんない。いわば表層であるこの次元を一つめくれば、そこには空間や時間など、この世のありとあらゆる要素を司る次元が存在するのだ。

 そうした次元の層を、まるでミルフィーユのように積み重ねていった末、一番外側である最下層に現世が出力されているわけだね。

 

 で、青樹さんはおそらくその、ミルフィーユのように重なる次元をある程度行き来できるバグスキルを持っている。

 縦横の座標は変わらず、上下の階層に移動できると思われるのだ。その結果が先日、俺が捕まえようとしたらすり抜けてしまった彼女の、不可思議な現象の真実だった。

 

「俺や精霊知能が扱う正規の空間転移系スキルなら、縦横も上下も関係なくまとめて《空間転移》で自在に操作できる。けれど」

「青樹や翠川はなんらかのバグを引き起こした末に得た、イレギュラーなスキルだからな。それゆえに縦横しか、あるいは上下しか操作できない限定的な座標改竄効果になっているわけか」

「無制限だとシステム領域にまで辿り着けちゃうし、そこは当然だな」

 

 翠川の《座標変動》はあくまで現世内に留まるけれど、青樹さんのバグスキルが仮に前後を移動できるものであったとすれば、話は現世に留まらない。

 時間や空間、概念領域。さらにそこからはるか続く、様々なデータだけが格納されている次元。そして終いにはこの世界の中核と言える最上層部、システム領域にまで到達しかねないのだ。

 

 とはいえ、そうなるのを防ぐためのバグフィックスで、その結果生まれるのがバグスキルである。

 今の青樹さんでは現世に対して直下の次元、時間と空間の層の狭間にまでしかいけないものと予測できるんだけど……

 

「一つ上の次元に移動した時点で、現世に存在する物質なんて関係なくなりますからね。いわゆる"すり抜け"なんてことだってできてしまう」

「つまり……青樹さんはバグスキルを利用して壁や床、その他遮蔽物をすべてすり抜けて、翠川の元に辿り着いた、と?」

「元々隠し持っていたとか、内通者がいたとかよりは可能性が高いと思うんですよ、そっちのが。実際、一度彼女がすり抜け現象を起こしているのを見ましたからね、俺は」

 

 まあ即座に因果改変で座標のズレを是正して、強制的に無効化したんですけどね。

 逆に言えばそこまでのことをしない限り、青樹さんのすり抜けは基本的に妨害不可能な超絶インチキ能力だったりする。

 

 攻撃する際にだけ現世に移動すれば自分だけ攻撃できて、相手の攻撃はすり抜けるなんて芸当までできちゃうわけなのだ。戦闘時の厄介さで言えば翠川の比じゃない。

 そんなチートスキルを持つ可能性がある彼女であれば、誰にも何にも邪魔されずに入院中の翠川に接触し、エラーダンジョンのコアを手渡すくらいのことは造作もないだろうな。

 

 そうした俺の推論は、あくまで仮説だけどそれなりに説得力のある話として受け止められたようだ。自分達が節穴だっただの身内を疑うだのするよりは、前向きな仮説だからってのもあるんだろう。

 エリスさんがふうむと顎に手をやり、しかしとつぶやく。

 

「そうなると疑問なのは、なんで暫定青樹は翠川にコアを渡すだけに留めたのかってところだね。でもそこはもう、翠川をとっ捕まえて吐かせるしかないかな。ハッハッハー、聞くことが増えたよ」

「翠川にはスキル封印拘束具を取り付けたままだ。《座標変動》はじめスキルは使えないままだと思うが……逆に言えば拘束具が破壊でもされた時点でやつの逃走は防げまい。追うならば迅速に、だな」

 

 まだいくらか残る疑問は、さしあたり翠川を改めて捕縛することで解明できればいい。今の最優先は、あくまでやつの身柄の確保だ。

 そう判断してエリスさんとヴァールが、未だ俺のスキルによるトラップが仕掛けられているエラーダンジョンを見る。内部で飽和していたモンスターたちもあらかた片付いたが、もう出てくる様子はない。

 頃合いだな。ヴァールが続けて言った。

 

「ワタシと葵、そして万一の際にバグスキルを封じることのできる山形公平がダンジョンに突入する。エリスは御堂香苗を護衛しつつこの場を維持しろ、誰一人とて近づけさせるな」

「彩雲三稜鏡による周囲一帯のバリアは継続させます。万一犯罪能力者が攻めてきた場合には、捜査官ライセンスのあるエリスさんにお任せします」

「OK! 葵、今度こそ翠川を捕まえてくるんだ。やつのしでかしたことは、絶対に許してはいけない」

 

 俺と葵さんとヴァールの突入組と、香苗さんとエリスさんによる待機組とに分かれての段取り。

 さすがに全員で突入したら、その隙に何かをされる可能性もあるしな。倶楽部……やることの悪辣さは決して油断できない。

 

「任せてください、師匠! こんなことしたやつは、能力者犯罪捜査官として私が絶対に逃しません!!」

 

 エリスさんの檄を受け、力強く応える葵さん。

 そして俺たち3人は、エラーダンジョン内へと突入した。

ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー


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よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 隠密系スキルを妙な使い方したらバグが起きて、そんなバグスキルを得たんだろうか
[一言] バトルジャンキー翠川の悪癖が出た…というか、懇願か?自分が捕縛されたのは間違いなくあの二人が理由なのでリベンジしたいだろうし…。倶楽部側としても、こちら側の戦力は削って置きたいだろうし…(可…
[一言] 暫定青樹がスキル拘束具に触れて自分の所持品とみなした時点ですり抜けで外せるんじゃない?
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