エラーコアはどこから来たのか、やったのは何者か、翠川はどこへ行くのか
ダンジョンの周囲を魔方陣が取り囲み、青白い炎が放たれる。そして次から次へと、中から出てくるモンスターを即座に光の粒子に変えていく。
もはやスタンピードは無力化されたも同然だ。こないだのダンジョン探査でも披露した、複数のスキルの同時併用はこうした状況下において、無類の強さを誇っていた。
「本来であれば俺を中心として放たれる《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》を《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》の効果で遠隔地点にも発生させました。さらに持続時間も俺の体力が続く限りです」
「つまり、ダンジョンから一歩でも外に出たモンスターは即座に浄化されていくという、ある種の設置型トラップになったわけか。これならばスタンピードの恐れはないな。やれやれ、どうにかなったか……」
みんなへと、俺が何をしたのかを説明していくとまずヴァールが安心の吐息を出した。
この場の全員、生きた心地がしてなかったのはたしかだけど……彼女は統括理事という社会的な立場もあるからなおのこと、重責も大きく感じていたことだろう。
その隣ではエリスさんも、ふーやれやれって感じで自分で自分の肩を揉んでいる。いち早く駆けつけた葵さんにも笑いかけて、その労をねぎらっているね。
「いやー助かったよ葵。今回ばかりはヤバいと思った! まさか翠川がエラーダンジョンのコアなんてブツ、隠し持ってたなんてなあ」
「無事で何よりですけど、なんでそんなことに? 取り調べもそうですけど、そもそも危険物を持ってないかの検査くらいしてたでしょうに」
「ダンジョンコアなど、隠そうとして隠せるものではありません。隠し持っていたなんてありえるのですか、そもそも?」
葵さんと香苗さんの、立て続けの疑問。俺としても気になる話で、何がどうなってこうなったんだ一体? ってのはある。
それら質問に、ヴァールも困惑を隠しきれない様子で返していった。
「我々としても、事情がまるで分かっていないのだ。何しろ病室を訪れた矢先、翠川が窓から飛び降りたのだからな」
話を聞いていくと、事情聴取を行おうとしてヴァールとエリスさんが、翠川の病室を訪れた際に事態は起きたらしい。
なぜかエラーダンジョンのコアを手にしていた翠川が窓から飛び降り、今俺たちがいるこの駐車場にダンジョンを生成したのだ。
そしてやつはそのままダンジョン内に逃げ込み、そしてモンスターが溢れ出てきた。
それに対してヴァールとエリスさんが、近くにいた警備の探査者や刑事たちには周囲の市民の避難誘導を任せて自分達だけでスタンピード発生を食い止めようとしていたってのが、さっきまでの流れみたいだな。
「慌てて翠川を追ったらなんかダンジョンに逃げ込んでるしスタンピードは起きそうになってるしで、もうてんやわんやだよ。そもそもコアなんてどこから仕入れたのやらだし」
「最初から隠し持っていたとすれば、我々はまるで何も気づいていなかったことになる。さすがにそれは、なあ……」
ダンジョンコアは手のひらサイズ、まあまあ大きくて目立つ。隠し持つなんて芸当、普通に考えたらまずできないはずだ。
飲み込んで体内に、なんてこともサイズを考えたらまず不可能だしね。それなのに翠川はまんまとそれを隠し持ち、あまつさえ町の中でそれを使ってしまった。
ぶっちゃけめちゃくちゃな不祥事だ、WSOも警察も全探組も、赤っ恥どころの騒ぎじゃない。
その辺、ヴァールも忸怩たる思いがあるんだろう。悔しげに下を俯き、しかしハッキリとした口調で説明し始めた。
「身体チェックは入院時、しっかりと行っていた。やつの所持品はすべて警察預かりの上、体内に至るまで不審物がないか検査している」
「ましてやダンジョンコアならお前が気づかないはずないしな。現世で回収したコアを、ワールドプロセッサに送り届けてるのはお前なんだし」
「そうだ、そのとおりだ山形公平。無論、コアについての確認もワタシ自らが行った。万一どうやってか体内にあったとしても、《system:アセンション》で即座に抜き取りの上、システム領域へと返している」
「だよなあ……」
精霊知能としてのヴァールは、WSO統括理事という役割を担うと同時に一つ、極めて重大な役割も担っている。
踏破済みとして全探組に手渡され、WSOにまで集約されることになる世界中のダンジョンコアを、まとめてシステム領域にまで返却するのだ。
システム用デバッグスキル《system:アセンション》とは、使用済みコアを返却する際に用いるスキルのことだな。
そうした役割を担う点から見ても、ヴァールがダンジョンコアの存在に気づかない、なんてのはどう考えてもありえない話だ。
心底から不思議そうに、エリスさんの言葉が続いた。
「一般患者用の病棟とは別の棟に探査者用病棟はあるわけだけど……翠川が入院するにあたり警察と全探組のほうでも警備はしていた。正式な訓練を受けた警護探査者もそれなりに配置されていた。だのに揃って誰も、侵入した形跡もなかったって言うんだよ」
「外部からの侵入者が、翠川にエラーコアを渡した線も薄いんですか」
「そうそう、だから不思議なんだよねえ。まさか何もないところにいきなりエラーダンジョンのコアがニョキニョキって出てきたわけもないだろうに」
となると、通常であれば考えられるのは2つ。翠川がマジでどうやったか隠し持っていたか、内部に協力者がいたか、だ。
そのうち、翠川がコアを隠し持っていたってのはつまり、精霊知能の目さえも欺いたってことになるからさすがに考えづらい。
ただ……それ以外にも一つ、心当たりがあるんだよなあ、俺。
悩む一同に、おずおずと挙手をしつつも俺は、一つの可能性を提示するのだった。
「もしかしたらだけど……青樹さんのバグスキルなら、誰にも気づかれずに翠川に接触できたかもしれない」
すなわちそれは倶楽部幹部、そして香苗さんの師匠。
青樹佐智さんの持つバグスキルによる芸当なのではないか、という可能性である。
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