全自動モンスターぶっころトラップ
『聞こえているだろう山形公平、国道沿いの市民病院前だ! すまないが転移を頼む、このままでは市民に被害が及んでしまう!』
電話越し、どころか遠くから叫んでいるようなヴァールの声が、たしかに俺の耳にも届いてくる。
おそらくは戦闘中なのだろう。翠川が隠し持っていたというダンジョンコア、それもエラーダンジョンコアを用いての人為的なスタンピードを防ぐべく、必死に瀬戸際で食い止めているのだということが俺にも分かる。
言うまでもなく緊急事態だ。俺は即座に結界を発動した。
「神魔終焉結界!」
「彩雲三稜鏡!」
「フーロイータ! からの《雷魔導》!!」
人通りの多い往来だがそんなことは関係なく、俺たちは臨戦態勢を整える。神魔終焉結界の蒼いコートを纏う俺に、彩雲三稜鏡を羽織る香苗さん。
そして対モンスター兵装AMW・フーロイータを取り出して、同時に《雷魔導》を発動する葵さん。雲一つない晴天のどこか上空から一筋の雷鳴が走り、彼女へと下った。三叉槍内蔵のスキルブーストジェネレータが稲妻を受け止めて、増幅し強大な力となるのだ。
「公平くん、準備万端です!」
「病院までの空間を開けてもらえれば先陣を切ります! 《雷魔導》雷槍技!!」
「了解です、今──開けます!」
矢継ぎ早に告げてくるお二人に、俺も問題なく応えて権能を使う。空間転移、座標は市民病院にセット!
開く別地点へのワームホール。ここを潜れば即座に、市民病院の前にまで辿り着ける。そこまで行けばすぐにヴァールとエリスさんにも合流できるだろう。
そして、まさに一番槍を葵さんが務める!
「────プラズマチャージ!! アクセルライトニングッ!!」
増幅された雷がフーロイータから放たれ、紫電となって彼女の全身を眩く照らす。強化された《雷魔導》のこの威力は、アンジェさんやランレイさんにも迫る威圧と迫力がある。
そのまま技を放ち、葵さんは一筋の光となってワームホールを突き抜けて行った。次いで俺と香苗さんもすぐ、後を追って市民病院へと転移する。
空間を繋げる穴を潜れば、俺も何度か来たことのある病院のすぐ真ん前だ。ワームホールを閉じつつ、瞬間的に周囲を確認する。
周囲に人影はない……けど、病院の中に大勢の人が避難しているのが見える。モンスターが施設内に入り込んでいる感覚はないから、なんとか最悪は免れているか。
ならばこのまま合流すべきと、俺と香苗さんはモンスターやスキル保持者の気配がするほうへと地面を蹴り、空高く飛んだ。
すでに葵さんは合流しているんだろう、3つのオペレータの気配と、現世に現れては即座に消えていくモンスターたちの気配。
それらが示すところに、俺は呻いた。
「エラーダンジョンを意図的に生成して、スタンピードを町の中で起こそうとしているのか。なんてことを……!」
どうにか防げているもののこの状況は、完全にスタンピードが起きる寸前だ。翠川め……絶対に許されないことに手を染めたな。
仮にヴァールやエリスさんがいない状況でこれが発生していた場合、まず真っ先に狙われるのは罪なき一般市民だ。ましてやここは病院のすぐ傍、体の調子が悪い人達が間違いなく大勢、犠牲になってしまうことは容易に想像がつく。
あまりにも悪辣だ。卑劣な蛮行という表現ですら生温い、まさしく外道の手口。
そもそもどうやってダンジョンコアを隠し持っていたのか、身体チェックには引っかからなかったのか? などといった疑問は尽きないが、まず何よりも先に翠川の悪意への怒りが今、俺の中にはあった。
「──いました! ヴァール、エリスさん、葵さん!!」
空高く飛んで俯瞰してみれば、どこで何が行われているのかは具に分かる。たった3人でスタンピードを食い止めんとする探査者達の姿とて、もちろん例外じゃなかった。
駐車場のすぐ近く、ダンジョンの入り口がありそこからモンスターが湧いて出ている。それをヴァールが《鎖法》の鎖で巻き取り貫き、エリスさんが《念動力》のナイフで打ち抜き、葵さんがフーロイータと《雷魔導》で薙ぎ払っていた。
間に合った! ここからは俺たちも参戦だ、香苗さんとともに急降下する!
「合流後、彩雲三稜鏡にて周囲の保護を行います!」
「頼みます! 俺は結界で、モンスターたちを一網打尽に!!」
短くやり取りして段取りを済ませ、俺達は戦士達のすぐ近くに着地した。そのまま即座に次の行動へ移る。
香苗さんが彩雲三稜鏡を振るった。クレセントゴーレムの素材でできたマントが細かい粒子となって分散し、ダンジョンの入り口を起点として四方10mほどをカーテン状に囲む。
簡易ながら、侵入も脱出もさせないバリアの構築だ。これでひとまずは周辺市民の安全はある程度、担保された。
とはいえ、そもそもスタンピード自体がもうこれで終わりなんだけどな! 俺はスキルを発動した。
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》! 全員、ダンジョン周辺から離れて!」
「っ!!」
攻勢結界。ダンジョンとそこから這い出るモンスターたちを基点に、俺の攻撃を自在に伝導させる特殊な空間を形成する。
同時にヴァール達3人に避難を呼びかければ、彼女らはとっさのことながら即時退避をしてくれた。助かる……敵味方の識別はできるにしても、巻き込んでしまうのはちょっとね。
そして、これなら問題はない。
攻勢結界の中においてのみ、半永久的に続くよう設定して──俺は自身が持つ、モンスター浄化用スキルを併用した。
「《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》!!」
瞬間、青白い炎が結界内を埋め尽くす。
ダンジョンから出てくるモンスターを全自動で浄化し、輪廻へと返す即興のトラップが完成したのだ。
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