束の間の日常も終わり、そして
さて、今日のレクチャーはこれにてお開きとなる。現在時刻は11時を少し回ったところ。10時前に集合したので実質、1時間程度の話し合いだったわけだね。
これを短いと見るか、あるいは長いと見るかは人によるとは思うけど。まあ知識の伝達だけだし、何より最初というのもあるから、ある程度は妥当じゃないかな? というのが俺の見解だ。
「次、いつにやるかはまたメッセージなりメールなりください。なるべくその日程に合わせるようにしますし」
「何から何まで、本当にありがとうございます先生!」
「あざっすパイセン、ともに覇王ロードを歩みましょうや!」
「嫌です……」
怖ぁ……ガムちゃんの覇王思想への傾倒が止まらない。なまじ具体的な目標として覇王忍者なる謎の概念が現れたことで、何やら彼女の中の何かが覚醒しちゃってる感じがある。
アメさんはアメさんでニコニコ顔だし。嬉しそうにしちゃって、歳上に対する言葉として適当かは分からないけど、なんかかわいい年下の女の子みたいだ。
「ガムちゃん、一緒に頑張りましょうね!」
「そうだね、アメ姉。目指せ、覇王召喚士! おー!」
「おー! ……って、えっ」
「えっ」
「えぇ……?」
テンションのままにアメさんまで覇王ロードに巻き込もうとしたね、今? そして微妙な反応が返ってきたことに、そこはかとなくショックを受けてるね?
残念ながら当たり前である、アメさんのどこにも覇王らしさはない。ひたすら清楚でおしとやかで心優しい、覇王というより天使か女神だ。
ちょっと残念そうなガムちゃんにはちょっと、生温い目を向けつつ。
俺は香苗さん、葵さんに呼びかけた。
「それじゃあそろそろ俺たちは、予定通りに動きましょうか」
「そうですね。ソフィアさんとの待ち合わせに、さすがに遅刻はまずいですし。伝道はまたいずれのこととして。行きましょう」
「師匠も遅刻には厳しいですしねえ。そのくせ自分は平気で寝坊するんですよ? こないだやっぱり中身は老婆なんですねーって言ったら怖かったです。はっはっはー!」
「言ったんですか、それ……」
とんでもない度胸というか、師匠相手に喧嘩を売ってるとしか思えない葵さんの爆笑。
この人のエリスさんへの言いたい放題っぷりすごいな……まあその分、エリスさんも大概負けてない感じは、短い付き合いながら見えてきてるけど。
とにかく、そんなわけで立ち上がる。午後からはソフィアさんとエリスさんに合流し、意識を取り戻したらしい翠川から聞き出しているだろう情報について話を聞かせてもらうのだ。
ちなみに合流場所は警察署の会議室となっている。なんでも俺たちと話した後、今度は警察やら全探組、ダンジョン聖教のお偉方と話をするのだとか。
いやはやさすがソフィアさん、お忙しいというかスケジュールがびっしりって感じだね。すごいや。
「というわけで、俺たちはこの辺で失礼します。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました! また次の機会もよろしくおねがいします、先生!」
「ありがとうございました、パイセン。頑張って目指します、覇王忍者」
「う、うん。頑張って……」
本気で目指してるんだろう、覇王忍者なるニンジャに熱意を燃やすガムちゃんにタジタジとしながらも。
俺と香苗さんと葵さんはそのまま、全探組の休憩室を後にした。そのまま施設の外へ出て、向かうは最寄りのローカル線の駅だ。
5つ程駅を跨いで下りる駅のすぐ近く、まさしく目と鼻の先に県警本部はあるからね。時間にして30分くらいで済むだろうか、かなり近場と言えた。
「途中、どこかでお昼でも食べましょうか」
「いいですね~。待ち合わせはお昼1時ですから、時間の余裕もありますしね」
快晴の空の下、のんびり歩く俺達3人。
例によって目も覚めるような美女を連れて歩く陰キャ山形くんに衆目の視線が刺さるけれど、最近では結構な割合が生温いというか、ああいつもの、的な色も含んでいるからそれはそれで複雑だ。
いやマジで近頃は、町中でも時折噂とかされてるんだよね俺。
大体があれが噂の救世主かあ〜とか、今日は御堂さんと一緒じゃないんだ〜みたいな感じで、コソコソ話なんだけどしっかり俺の聴覚には届いてきているのがつらい。
それにそうなってくると、あまりよくないタイプの人達に絡まれるんじゃないかとビクビクものではあるんだけれど……
そういう人達もさすがに探査者相手に絡んでいくのはしないみたいで、今のところはそれなりに平穏無事な日常を送らせてもらっていたりする。
「さすがシャイニング山形くん、みんなの視線を独り占めですねー」
「ふふふっ……救世主様の尊く素敵な御姿に、町の誰もが惹かれるのです。これぞまさしくカリスマというやつですね」
「はあ、カリスマ……」
葵さんと香苗さんの会話が嫌でも耳に入る。カリスマってなんだよ、俺の人生において一度だって一欠片だってそんなもん、俺自身が発揮できたためしないよ。
いいよなーカリスマ。俺もカリスマ探査者とか一回でも言われてみたーい、みたいなことを考えていると、不意に電話の着信音が鳴った。俺のじゃない。偶に聞く、香苗さんのスマホのでもない。
となると葵さんか。見れば彼女はすぐさまスマホを取りだし、応対していた。
「はいどーもー、葵でござーい。どうされました師匠?」
『葵、悪いが緊急事態だ。近くに山形さんがいると思うけど、どうにか国道沿いの市民病院まで転移して来てくれるよう頼めないかな』
『ちっ、きりのない……!』
いつになく堅い口調だが、どうやらエリスさんからの電話みたいだな。
微かに漏れる電話の向こうは、何やら騒がしいみたいだがどうしたんだろう? ヴァールの声もする。なんかすぐ来るようにも言ってるし。
まさかトラブルか?
香苗さんと顔を見合わせて立ち止まる俺の耳に、今度ははっきりとエリスさんの声が聞こえた。
『翠川がエラーダンジョンのコアを隠し持っていて、それを病院の敷地内で使いやがった。ぶっちゃけると今、スタンピードが起きかけている』
「…………ええええっ!?」
『今はまだ、どうにか私とヴァールさんで抑え込んでるけどそろそろまずい。とにかく一秒でも早く転移してくれないかな、山形さん』
人為的スタンピードが、病院の敷地内で起きている!?
予想を遥かに超えた事態に、俺は思わず大きく声を上げていた。
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