ぜったいあんぜんセカイ
まるで俺の称号をメッセンジャーか何かと勘違いしているかのような、システムさんによる不穏極まりない警告はさておくにしても。
とりあえずリッチは倒したし望月さんも、逢坂さんたちパーティも救出できたので俺たちはそのまま、ダンジョンを出た。
ダンジョンコアは確保していない。現状維持のまま、この後組合職員と警察による詳細な調査が行われる予定らしい。一通り検分を済ませてから、コアは回収されて俺と香苗さんの手に渡るそうな。
それは良いんだけど、とにかく本部に戻って広瀬さんに報告しないとなあ。
「山形公平様……絶対にまた、お会いしましょうね」
「えっ!? あ、はい?」
「私は、望月宥は。あなたに救われた者としてかならず、ご恩返しに伺いますから。必ず……必ず!」
救出され、病院へと搬送されようとしている望月さんが、俺に向けて熱っぽく叫ぶ。恩返して。健康な姿をご両親に見せてあげてくれれば、それ以上の恩返しなんてないよ。
逢坂さんパーティのみんなも、念の為病院へ運ばれる。一応精密検査して、異常がないか確認しないとだからな。
去り際、逢坂さんが深々と俺に一礼してきたのが印象的だった。良かったね、逢坂さん。
「それじゃあ、俺たちも行きましょうか」
「ですね。しかし……惜しいことをしました」
組合本部へと戻ろうかと、香苗さんに呼びかけるとなぜか、残念そうな声が返る。
なんぞ? と思って彼女を見ると、すごく、ものすごーく痛恨の表情で俺に向け、低い声で呻いてきた。
「スケルトンの群れをたった一人でなぎ倒す頼もしい姿。モンスターに乗っ取られた望月さんを悼み、涙する尊い姿。何よりあの、《風浄祓魔/邪業断滅》なるスキルを放ち彼女を救い抜いてみせた、神々しい御姿っ!! 緊急事態ゆえ仕方ないとは言え、カメラを持っていなかったことがあまりに惜しい、悔しいっ!!」
「ブレないっすね!」
「伝道師ですからっ!!」
沈痛な面持ちで相変わらず素っ頓狂なことを叫ぶ。分かってたけどこの人、ヤバぁ……
周りの組合の人とか探査者の人がドン引きしている。止めて止めて、俺にまで『あ、この子供が噂の。ふーん、御堂犯罪者じゃん』みたいな視線投げ掛けてくるの止めて!
いたたまれず、急ぎ車へ乗り込む。
助手席のシートにもたれかかると、そこでようやく気が抜けたみたいで俺、一気に脱力しちゃったよ。
ふい〜、と深く長い吐息。色々あったしヤバかったけど、助けられて良かったぁ〜。
「お疲れ様でした、公平くん」
「まだ終わってないんですけどね……厄介な話になってきましたよ」
「また何か、システムさん絡みで何かあったんですか?」
車を発進させながら香苗さんが聞いてくるのを、俺は少しだけ間を空けてから、広瀬さんに報告がてら言いますよ、と返すに留めた。ややこしい話すぎて、何回も説明したい話じゃない、とも。
実際、もうそろそろ俺の頭では処理が追い付かなくなってきている。あのリッチが邪悪なる思念判定を喰らうのは俺も納得行ったが、さりとて真の敵ってなんぞやって感じだし。
世界を壊し、時代を歪め、荒野に変えたナニモノか? いやいや恐いんですけど何そのラスボス、もしかして俺の真の敵ってそいつのこと言ってんの? 冗談きついよ〜。
システムさんはおろかリーベまで常ならぬ感じだし、これ、俺、本当にヤバいことに巻き込まれてない? 日常生活とかもう、送れないのかねえ。嫌だなぁ……
『あ、そこはご心配なく。前にも言いましたけど、公平さんにタイムリミットなんてものは事実上、ありませんよ』
うおっリーベ!?
何だいきなり、どうした、まだ何か不穏なフラグを立てに来たのか! しっしっ!
『酷いですよー! そりゃ、ちょっと脅すみたいになっちゃったのはシステムさん共々反省〜ですけど。状況が一つ、動いちゃったんですからそこは真面目にアナウンスしないとーですしー』
何だよ、状況が一つ動いたって……
リッチを倒したことが、そんなに大事なのかよ。
『システムさん曰くのまま、ですよ。あなたが邪悪なる思念を浄化したことを受け、今を創り出したモノは目覚めましたけど……だからと言って何かが早まることはありません。思う存分、こちらは準備ができるんですよ』
「何の準備なんだよぉ……」
「公平くん?」
思わず声を出してツッコんじゃったよ。運転している御堂さんが不思議そうに反応する。恥ずい。
マジでお前、リーベ、現出したら洗い浚い話せよ。謎ばっかり深まってんじゃないかよ。ミステリーやりたいんじゃないんだよこっちは、青春したいんだよ。分かれ、分かってくれ!
『もちろん、思う存分に青春を謳歌してください。私もシステムさんも、楽しく暮らす公平さんを見るのが楽しいんですし』
見てんじゃないよ怖ぁ!
あからさまに出歯亀してます宣言しやがってこいつ、システムさんもだ! お前ら、俺は人生を見世物にされてる男じゃないんだぞ!?
っていうか本当に大丈夫なの? 何かよくわからん魔王みたいなのが、俺に気付いて目覚めたんなら、攻めてきたりとかしないの?
『大丈夫ですよ。この時代はある種のセーフモード、こちらも向こうも等しく、誰にも何もできやしません。そして、ことこうした状況においては、私達こそが限りなく有利です。まあ、こうなる前に何とかできていたなら、それが一番だったんですけどねー』
忸怩たるものを声音に孕ませつつ、リーベはまたしても意味深なことを言う。
どこか後悔を滲ませるそんな彼女に、俺も、押し黙るしかなかった。
この話を投稿した時点で
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