呼ばれる方にも呼ばれる方なりの呼ばれ方はあるんです
「まず、《召喚》から始めましょうか、アメさん」
「はい!」
俺の言葉に、元気よく頷くアメさん。目の前にはノートを広げ、手にはペン。俺が今から言うことを一言一句聞き逃すまいとしているのか、ものすごく真剣な表情で臨んでいる。
可哀想なくらい必死な面持ちに俺は微笑み、柔らかく彼女を宥めた。
「そう気負わずに……別に後で、どんなことでも質問してもらってもいいんです。大丈夫、ゆっくりいきましょう」
「で、ですけど先生の貴重なお時間をいただいてますのに……」
「そんなこと思わなくていいんですよ、アメさん。ガムちゃんもだけど、俺をそこまで気にする必要はありません。そんなことに気を遣って、分からないことを分からないまま黙っていられるほうがこっちとしては、気になるものですし」
どこまで分かっていて、どこまで分かっていないのか。この辺をしっかり把握しないと、教えるのも教えられるのも成立しないしね。
そのためにも教えられる側は遠慮なんかせずにどんどん質問とか、分かりません! とか言ってほしい。それは絶対に悪いことじゃないし、むしろいいことだ。
逆に教える側も、そういうやり取りがしやすい雰囲気や人間関係を作れるように努力しないといけないのは大変だけど……そこまで含めてものを教える、知識を広めることだとも思うからね。気をつけてしっかりやっていきたい。
「俺は今回、初めて人に対して何かを伝えさせてもらう立場になります。ですからそんな素人を助ける意味でも、どうぞお気遣いなく意見や質問をしてほしいんです」
「わ、わかりました……」
「アメ姉、そこら辺引っ込み思案だもんねー。ま、なんかあったら私も言うから。それセクハラですよとか」
「根も葉もないこと言うのは止めてね?」
アメさんほど内気な方も難しいけど、ガムちゃん並みにズケズケ物を言うのも難しい!
初っ端から人にものを教えるということの大変さを、朧気ながら感じつつも。俺はコホンと一つ咳払いしてから、いよいよ《召喚》について話していく。
「スキル《召喚》……ある特定の条件を満たすことで特殊な存在を呼び出す効果。一般的にはこのスキルによって呼び出す存在のことは"召喚獣"あるいは"召喚体"と呼ぶことが多いですね」
「先生は"概念存在"と仰っていますね。それはその、何かの原典があるのですか?」
前置き程度の基礎事項の確認だけど、アメさんはしっかりと質問をしてきてくれた。いい傾向だ、穏やかに笑いかける。
召喚系スキルによって呼び出したモノたちの総称は、WSOの定める規則によれば"召喚物"となっているんだけど……地域や人によっては"召喚獣"なり"召喚体"などとも呼ばれている。
まあ一種の方言みたいなものかな。それはそれでいいんだけど、俺はシステム側の本来の彼らの呼び名、概念存在と呼称しているからその辺が気になったみたいだ。まあ召喚のしの字もついてないからね、この呼び方。
俺は問題なく、アメさんの質問に答えた。
「召喚物、召喚体、召喚獣──これらの呼び方はあくまでWSOが定めたもの、ないしはそれに影響されて一部で変化したものでして。呼び出す側が勝手に決めた呼称でしかないんですよね」
「では、概念存在という呼び方は違うと?」
「呼び出される側のモノたちにも当然、自分達を総じて称するネーミングがあります。それが概念存在という呼び方なんですよ」
厳密にはシステム側が決めた呼び方なんだけどね。始原に生み出されたいくらかの存在がその呼称を受け入れ、後に生み出すあらゆるモノたちに浸透させたって流れだ。
これはどこの惑星においても同じで、当然言葉や発音は変われど基本的に概念存在と訳せるようになっている。システム側の思惑を根底に生み出されたモノたちだから、そこはしっかりと共通規格なんだね。
「神、悪魔、精霊、妖怪だの妖魔だの……まあいろいろといますが、基本的に彼らは自身のカテゴリは概念存在の中のそれぞれの種類として自認しています。その辺、地味に重要なので押さえとくといいかもですよ」
「重要って、なんでなんですパイセン?」
「そりゃ、呼び出したのが気位の高いモノだったりしたら、礼を失する原因になりかねないからね。中には偏屈なのもいるだろうし、人間側の呼び方である召喚物ってのは気に入らないってのもいると思うよ」
っていうかいるからね、そういう手合い。
コマンドプロンプトとしての知識があるので言えちゃうことだけど、概念存在としての自尊心を非常に拗らせた、いわゆる俺様系な感じのモノ達はやっぱりいたりするのだ。
創作にもよく挙がる例で言えば、やっぱり鬼とかヴァンパイアとかかな? 彼らは概念存在の中でも優秀な性能を持っているからか自惚れが強く、現世にも度々現れて人間の世を乱したりしてきた。なんなら、自分達が現世の支配者たらんとしたモノさえいたくらいだ。
まあそうなると概念存在の常というべきか、逆に力を合わせた人間たちに討伐され、伝承として後世に名を残すみたいなことがかなりの数、あったみたいだけれども。
「彼らのことを神や精霊、悪魔だのと種族単位で呼ぶ場合であれば、併せて概念存在という総称も覚えておくと損はないですよ。まあ、そんなところに拘るやつがそもそも人間の呼び声に応じるとも思えませんけど」
「そう、なんですね……!!」
「勉強になります、公平くん!」
「いや、本当に貴重な話ですよこれ……呼び出される側の事情なんて、どうやって知ったのかは気になりますけど……」
アメさん、ガムちゃんばかりか香苗さんに葵さんまでもがメモを取って、俺の話に聞き入っている。
《召喚》についてまともな文献一つ見つけるのにも苦労してるみたいだしなあ。この際だ、ちょっと踏み込んだところまで話してみてもいいかもしれない。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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