大変アレなマリアベールの肝臓
──微睡みから意識が浮上していく。ああ、眠っていたのが起きたんだなと、自分でも分かる程度の覚醒。
寝ぼけ眼を擦り、寝返りを打つ。すぐ目の前にスマホが置かれていたので、時刻を確認する。
「……2時間くらい、寝てたのか」
17時34分。家に帰って自室に入ったのが15時すぎのことなので、大体そのくらい眠っていたことになる。さすがに24時間寝ていて実は翌日の夕方でしたーってこともなく、至って日付は寝る前と同じだ。
変な時間に起きなくてよかった。うちの家族、起こすか起こさないかで言えば気を利かせて寝かせておいてくれるタイプの家だしな。
俺としてはやはり夜、みんなでご飯を食べてお風呂に入ってさっぱりしてから寝たい派だし。深夜目が覚めて一人、暗がりの中でご飯を食べてシャワーを浴びるってのはそれはそれで悪くはないけど、できるならいつも通りのルーティンで生活したいものだからね。
あくびをしつつ背筋を伸ばす。ボキボキッと関節やらが鳴る心地よさよ。疲れも今度こそ完全に取れたし、これで完全復活ってところかな。
と、ドアがノックされる。コンコンコン、という乾いた響きの後に声が聞こえてきた。
「公平さーん、まだ寝てますー……?」
「いや、今起きたよリーベ。おはよう、おかえり」
心なし控えめな声量で呼びかけてくるのは、寝る前には優子ちゃんとともに何処かへ出かけていたリーベだ。もう17時半ともなれば帰ってきてるよな、そりゃ。
まだ寝てるか、という発言からして、何度か俺が寝てる間にも訪ねてきたみたいだ。なんか用かな? と思いつつも返事をすれば、彼女は途端にドアを開け、一転していつもの騒がしさで満面の笑みとともに入室してきた。
「おっはよーごっざいまーっす! そしてそしてー、たっだっいっま〜っ!!」
「はいはい。帰ってたんだな。いつ頃?」
「16時頃ですねー。お母様から公平さんが珍しく疲れた感じで寝てるって聞きましてー、優子ちゃんともどもちょっぴり静かにしてましたー! 褒めて、褒めて!」
「そっかあ。偉いぞリーベ、よく騒がなかった」
「えっへへー!」
相変わらずのアホみたいなノリに多少乗っかりつつ、内心で母ちゃんに感謝する。
さすが親っていうか、やっぱり分かってくるものなんだな、息子のコンディションとかそういうの。母は強しというけど、いろんな意味で敵わないなあって思うよ。
俺がいると大体一日一度は部屋に襲撃をかましてくる、かわいいかわいいリーベちゃんとかわいいかわいい優子ちゃんも空気を読んで黙ってくれていたようだし。
おかげで俺はぐっすりと眠り、体力を完全に回復できたわけだね。感謝感謝だ。
「それで、何かあったんですかー? 普通の探査で公平さんがそんな消耗するなんて、ありえないことでしょうー?」
「いやいや、命懸けだし何があってもおかしくないけどさ……何かあったって言われたらいろいろあったよ。ここまで疲れたのも、その関係で権能を連続行使したからだしな」
「……本当に、何があったんですー?」
コマンドプロンプトとしての権能を使いまくったと、そう聞いてリーベもことが笑い話で済まないと感じたみたいだった。ベッドから身を起こす俺に近づいて、真剣な眼差しで見つめて問いかけてくる。
やはり精霊知能としては、俺がそこまでしなければならない何かがあったってなると気になるものだよな。特に隠す理由もないし、なんならアドバイスや意見だって聞きたい俺は一も二もなく、今日あったことについて説明していった。
「倶楽部幹部とダンジョン聖教の騎士団……昨日の今日ですごい進展ですねー。よからぬ人たちが捕まるのは、早いに越したことないですけどー……ちょっと目まぐるしい感じ、しますねー」
「同感。まあこちらも向こうも今回ばかりは、完全に偶然の遭遇だったから。こればっかりは運命というか、それこそ因果の為せる業ってやつだろうな」
翠川にしてもまったく、予想だにしなかったろう。転移した先のすぐ近くに、たまたま能力者犯罪捜査官を引き連れた俺や香苗さんが彷徨いていただなんて。
そしてそのまま戦って捕まったんだから、目を覚ましたらやつもやつで目を回すんじゃないかなあ。なんとなく反応が気になる。
「で、翠川との戦闘の際に権能を何度も使ってダウンした、とー。公平さん、無茶しすぎですよー……」
「仕方ないこととはいえ、気張りすぎたのは認めるよ。まあ、もう回復はしたんだけどな」
「一応リーベからも、再生能力を活性化させておきますよー? えいっ、《医療光粉》!」
翼を顕現させ、そこから癒やしの鱗粉を俺に向け放つリーベ。《医療光粉》、治療から解毒、解熱その他諸々の怪我や病にも対処できる、システム側用スキルの一種だ。
今回は俺の肉体の自然回復力というか、治癒力を強化してくれているらしい。涼やかでひんやりとした、それでいてどこか温かい気分になる鱗粉に、心身ともにリラックスしていくのが分かる。
ひとしきり、俺にスキルを使い終えてリーベは翼を引っ込めた。鱗粉もすでに空中に霧散している。
すっかり元通りになった部屋の中で、彼女はニッコリと笑った。
「これでよし、っと! マリーおばあちゃんの肝臓ほど手遅れじゃなければ、ちょっとやそっとの不調なら瞬く間に回復させてみせますよー!」
「ありがとな、リーベ……っていうかマリーさんの肝臓、そんなにアレなのか」
「アレでしたねー……」
遠い目をするリーベ。最近、マリーさんの肝臓の治療も行っているとはこないだ聞いたけど。
こいつがそこまで言うんだから、よっぽど手遅れだったんだろうなあ。それをどうにかしようってんだし、いろんな意味ですごいよね、どっちも。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
12/2に発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
・佐山の日常
・関口の昔日
・逢坂の不安
の、3種類となっております!
また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!
基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
もしくは
PASH!ブックス公式Twitter(@pashbooks)
をご確認くださいませ!
よろしくお願いいたします!




