メンヘラ!エリスちゃん
その後は滞りなく予定通りに進み、全探組本部にて宥さんを下ろしてから俺の家へと、香苗さんのスポーツカーは到着した。
家の前に停まる、目立つことこの上ない真っ赤なスポーツカーにご近所さんたちの目も釘付けだ。でも俺と香苗さんが出てくるなりあぁーなるほどぉー、みたいな納得感出しつつ生暖かい視線を向けるのを止めてほしい。
もはや近所にも例の宗教のことが広まってしまっているわけだね。怖ぁ……
「それでは公平くん、どうかしっかりと身体をお休めください」
「ありがとうございます、香苗さん」
そんな周囲の目も一切気にせず、ひたすら俺の身体を案じてくる香苗さんに笑顔で返す。俺が権能の使いすぎでダウンしてからこっち、宥さんと二人でめちゃくちゃ心配してくれてたなあ。
たしかに疲労感はすごかったし、今でも若干名残程度に脱力感はある。ただまあ、一晩寝ればすっかり元通りになってるだろう程度のものでしかないから命に別条はないのは間違いない。
予定的には次、ダンジョン探査をする日は明後日、8月1日になる。
無論それまでにSNSやらでお二人には回復した旨を、感謝とともに伝えるつもりではいるけれど。実際に元気な姿を見せて安心してもらえるように、ちゃんと栄養をつけて身体を休めて、疲れなんて吹き飛ばさないとな!
「山形さん、私らはこれから軽トラを返してまた、それぞれあなた方の護衛に回るよ」
「昨日もお伝えしましたけど、あなた方の行動や生活、日常を制限する意図はありませんので。どんどん当たり前の日々をお過ごしください、はっはっはー!」
スポーツカーの後ろに停車した軽トラの、窓からエリスさんと葵さんがそんなことを言って手を振ってくる。
彼女たちこそ大変だよなあ。探査に付き合ってもらって、帰りにまさかの翠川との戦闘があって、さらに一段落ついたら引き続き護衛任務に就くんだから。それが仕事だからって言っても、ハードワークであることは言うまでもない。
そうまでして俺たちの生活を護ろうとしてくださる、能力者犯罪捜査官のお二人へと俺もまた、手を振り返す。
と、エリスさんがおもむろに車から降り、俺のところに寄ってきた。なんだ?
「せっかくだし私の連絡先教えとくよ。えーと電話番号これ、メルアドに、表向きじゃないプライベート用のSNS、いわゆる裏垢ね」
「は、はあ。どうもって裏垢!? いやいやそれはまずくないですか!?」
いきなりいろいろメモ用紙に書いて、俺に渡してくる彼女。電話番号やらメルアドやらは分かるけど、SNSのアカウントに果ては裏垢まで書いてある。
裏垢……裏アカウント。表向き、対外用のアカウントとは別に個人用で登録しているアカウントのことだな。概ね表向きのアカウントではとてもじゃないけど言えないような本音を、暴露するために存在することがほとんどと聞く。
つまり今、渡された紙にはエリスさんの本音だのなんだのが、おそらくぶち撒かれているだろうアカウントも載っているってわけだ。
いや、そんなの渡されて俺にどうしろと。唖然としてアカウント名が書かれた紙を見ると、エリスさんは照れたように頭をかいて続けて言った。
「いやいや、これはあくまでエリスさんの超個人的な、特別仲良くなりたい人との連絡用かつ雑談用のアカウントだから。そんなに愚痴だのなんだのは零してないよ」
「そ、そうですか? いやでも、それにしたって」
「夜中たまにメンがヘラって、数時間おきに数十回くらいぶつぶつ投稿するくらいだねー、ハッハッハー」
「なおのこと駄目でしょう!?」
「そんなことしてるんですか!?」
まさかのメンヘラエリスさんである。香苗さんともども愕然とツッコむ。
普段元気そうにしている人ほど、ふとした拍子にひどく陰鬱になる傾向があるって聞かなくもない話だけど、エリスさんもそんな感じなんだな……何か悩み事でもあって、それで俺にもそういうのを共有してほしくて裏垢を教えてくるんだろうか?
だとしたら話くらいは聞けるけど、どんな悩みなんだろうか?
なんとなく、バグスキル《不老》の絡む問題もそれなりにはあると思うんだけど。出自自体が特殊なソフィアさんやヴァールと異なり、完全にある日突然、歳を取れない体になったみたいだし。
そのうち機会があれば、お話を聞かせてもらってみてもいいのかもしれない。
「師匠、裏垢でそんなことしてるんですねー」
のほほんとつぶやく葵さんだけど、この人あなたの師匠なんでしょう? もうちょっとメンタルケアを試みようとしてみてほしい。
というかなんで今、初めて聴きましたみたいな反応してるんだ? まさかエリスさん、愛弟子の葵さんにさえ教えてないのか裏垢の存在を。
「葵さんはご存知ないんですか、エリスさんの裏垢」
「そもそも今、初めてそんなのがあるって知ったくらいですよ。図に乗る時はとことん図に乗る、面の皮の化身みたいな人なのに中身は案外地雷系だったりするんですね、はっはっはー!」
「ハッハッハー、捩じ切るぞ。絶対こういう反応してくるのが分かるから、今まで内緒にしてたんだよね。ハッハッハー」
「怖ぁ……」
この師弟の、互いへの遠慮のなさはなんなの?
師匠を平然と面の皮の厚い地雷系女子呼ばわりする弟子と、それに対して即座に捩じ切るぞと即答する師匠と。
あまりに殺伐としたやりとりが人の家の前にて、繰り広げられていた。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
12/2に発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
・佐山の日常
・関口の昔日
・逢坂の不安
の、3種類となっております!
また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!
基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
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よろしくお願いいたします!




