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女子のちくちく言葉は男子にとってはざくざく言葉

 ヴァールも翠川を連れて警察署にまで転移したので、これですっかり一段落だ。いつも通りのダンジョン探査が、なんだか大変なことになっちゃったなあ。

 とはいえ用事はもうないし、あとは帰ってのんびりするだけだ。今からだと家に着く頃にはもう夕方になるから、ちょうどいいと言えばちょうどいい塩梅のタイムスケジュールではあるね。

 

「やーお疲れ様だったねみんな。とくに山形さんには、こっちのことで大変なお力添えをいただいちゃって。感謝感激雨あられとはこのことだよ、うん」

「いえいえ。できることをしたまでですから」

 

 背筋を伸ばしてエリスさんが、すっかりオフモードって感じで労をねぎらってくる。言いながらも周囲の警戒は変わらず続けているようで、時折あたりを細かく見回している姿はさすが大御所探査者さんだ。

 大変なお力添えなどと言われるけど、実際のところは空間転移とエリスさんの治療を行っただけだし、そこまでのものでもない。やっぱり能力者犯罪捜査官さんってすごいんだなーなんて、呑気して見学させてもらっていたほどだし。

 

「ふわぁぁあ。ふう、一件落着ですかね今日のところは。いやまあ、まさかの青樹なり火野なりが仕掛けてきて倶楽部おかわりヘイお待ち! なんてこと、あるかもですけど」

 

 エリスさんの隣では、葵さんが大きく口を開けてあくびをしている。緊張の糸が切れ、ようやくリラックスできているんだろう。この人はこの人で翠川を事実上、一人で倒しきったわけだし大変だったろう。

 それでも万一の襲撃があるかもって気にしているあたり、やはり捜査官として油断は見せていないのが立派だ。エリスさんも満足そうに笑いながら、弟子に応える。

 

「一応、警戒はしときなよ葵。たぶん翠川捕縛とデータ流出を受けて、他の構成員やら幹部やらも混乱するとは思うし、しばらくは仕掛けてこないかもだけど……そう油断したところをつけ狙ってきそうじゃん? あの爺さん」

「ああ、たしかにしつこそうですもんね、あの人」

「80年前の戦いを、未だに根に持ってるんだからねえ。しつこいなんてレベルじゃないよ、まったく」

 

 火野と明確に因縁のあるエリスさんがぼやく。彼女からしてみれば、もう完全に時の流れに埋没した話の登場人物が今さら、リベンジを仕掛けてきたわけだからね。しつこいとか以前に何、まだ生きてたの? ってなっても不思議じゃない。

 まさしく化けて出るならぬ老けて出る、って感じの火野老人。葵さんは帰り支度としてフーロイータを軽トラの荷台に括り付けながらも、エリスさんに提案した。

 

「ていうか師匠、火野の相手はお願いしますよ? 因縁の相手なんでしょ?」

「向こうからはそうだろうけど、私からしてみれば別に……やだなあ、あの爺さんのお相手なんて。葵に投げたいなあ」

「私だって嫌ですよ、あんな拗らせ系老人。80年は年季入りすぎで怖いですし、普通に」

「だよねえ。あーあ、どっか関係ないところで勝手にやらかして勝手にとっ捕まってくれてないかなあ。キモいどころでなくキショいし、80年とか」

 

 怖ぁ……一切遠慮のないちくちく言葉が今、この場にいない火野老人を襲っている。

 

 たしかに80年は長すぎるし、こないだの様子を見るにエリスさんに対して、何やら重すぎる感情を抱いてそうなのは間違いないんだけど。あまりに拗らせ系男子への風当たりのきつさになぜか俺が震える。

 たぶんあれだ。中学1年の頃に教室に入ろうとした矢先、先に中にいたクラスメイトの女子グループに山形って地味だし暗いよねーキャハハー! とか笑ってる声がドア越しに聞こえてきてしまった、あの時のショックがよみがえるんだな。

 

 いやまあ、本当のことなのでショックなんて受けるほうが筋違いかもしれないんだけど、それでもあの瞬間は心臓が凍りつくかと思った。

 隣で一緒に歩いていた桜井って子がフォローを入れてくれなければ、その場に崩れ落ちていたかもしれない。

 ありがとう桜井! 今どうしてるか知らんけど元気でやっていてくれよ桜井!

 

 しかし火野老人への、倶楽部幹部ながら哀れな……という同情は禁じ得ない。青樹さんもだけど、一方通行な想いって傍から見てると辛いよなあ。

 対象となっているエリスさんや香苗さんからしてみれば勘弁してくれってなもんだろうし、残念ながら当然って話でもあるんだが。

 

「どうしました公平くん? ……まさか、やはりお疲れが取れていませんか!?」

「! そうですいけません、早くお家に戻って養生なさってくださいませ、公平様!」

「いえ大丈夫です! ちょっと心の古傷が疼いただけです……」

 

 いろいろ切ない気持ちになりつつ、心配してくれる香苗さんと宥さんに応える。うん、疲れてるから余計なことまでセンチメンタルに捉えちゃうってことにしとこう。

 というわけでもうこの場に用もないし、さっさと帰ろうかということで俺たちはそれぞれ車に乗った。全探組への報告は宥さんがしてくれるそうで、俺は香苗さんに家に送ってもらってそのまま解散、しっかり休んで体調を戻すということになる。

 

「それでは安全運転で、まずは全探組まで向かいます。そこで使徒宥を下ろしてそのまま公平くんを家まで送り届ける、と。護衛のお二人もそこまでついてきて、あとは仕事に戻るとのことですね」

「分かりました」

「それでは出発します」

 

 スポーツカーの後部座席にて、シートベルトをしっかりつけて。

 未だ少しばかり残る疲労感──変なことも思い出しちゃったゆえのメンタルダメージもある──を振り払うべく寛ぎながらも、俺は走り出す車の窓から外を眺めていた。

話中に出てくる桜井については書籍一巻の書き下ろしに出てくるそうですわよ奥様ダイマ

チェックしてもらってもいいかもしれませんわよお姉様ダイマ

ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー


【ご報告】

12/2に発売されます

「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」

2巻の特典についてご報告いたします!


各書店様の特典はそれぞれ

・佐山の日常

・関口の昔日

・逢坂の不安

の、3種類となっております!


また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!

基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー


現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、

作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)

もしくは

PASH!ブックス公式Twitter(@pashbooks)

をご確認くださいませ!

よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 老人介護の押し付け合い……
[一言] コマプロの力をもってしても癒えることのない心の古傷……
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