モンスター不人気投票、堂々の殿堂入り(公式)
WSO、警察、全探組、そしてダンジョン聖教。倶楽部取締に向けての協力関係が構築される形で、話はひとまずまとまった。
軽トラックの荷台にて未だ、意識を失った状態の翠川に左手を翳し、ヴァールはスキルを発動する。
「《鎖法》、鉄鎖束縛」
顕現した鎖が、緩やかに翠川を拘束していく。万一にも何かの拍子に意識を取り戻さないように、ゆっくりと衝撃の少ない丁寧さでやつを、縛っていく。
数分かけて翠川を、簀巻きみたいにしてから彼女はさらに、俺たちに向けて言ってきた。
「倶楽部幹部・翠川の身柄については以後私が預かる。すぐさま警察に引き渡し、怪我の程度にもよるが数日は入院させることになるだろう。意識を取り戻し次第、行われるだろう事情聴取にはワタシも立ち会うがな」
「それは、分かったけど……大丈夫か? 意識を取り戻したら翠川は、すぐにバグスキルを使って逃げ出すんじゃ」
翠川を警察に引き渡すべく、身柄を預かろうというヴァールに異論はない。むしろ危険人物なんだし、早いところおまわりさんたちに確保してほしいなって思う。
だが、やはりここで気になるのが翠川のバグスキル《座標変動》だ。空間転移系スキルを持つ以上、意識を取り戻した時点でやつはそれを行使するだろう。そして発動してしまえば最後、防ぐ手立ては基本的になくなる。
事実上、転移系スキル保持者はどこにいても野放し同然なのだ。だから仮に牢屋に押し込んでも、すぐに逃げられてしまうのは想像に難くない。
その辺、何か対策はあるのか。不安から問いかけるとヴァールは、不敵に笑って俺に答えた。
「問題ない。対犯罪能力者用の、スキルの使用を封じる拘束具がある。バグスキルとてスキルの一種だ、問題なく封じ込めよう」
「スキルの使用を封じる拘束具……あー、なんかテレビで見たことあるな。犯罪能力者用の刑務所のドキュメンタリーで」
言われて思い起こす。結構昔にテレビ番組でやってたんだけど、罪を犯して服役することになった能力者たちが入所する、専用の刑務所があるのだ。
そこで刑期を務める人たちはみな、何やら首輪と腕輪を装着していたはずだ。たしかそれをつけることでスキルの発動と効果を無効にするという、対能力者用拘束封印具なんだとか。
ヴァールが肩をすくめて続ける。
「犯罪能力者という者たちの中には、捕まった後もスキルを用いて暴れる輩も多いからな。そうした情勢を鑑み、捕縛後にスキルを封印する拘束具の着用は必須となっている」
「た、大変だなあ」
「特に翠川の場合、《座標変動》のみならず異常な威力の《震動》まであるのだろう? 万一病院を崩落でもさせてしまったら一大事だ。何がなんでも発動はさせられない」
たしかに……厄介なのは逃走用スキルだけじゃないもんな、翠川は。山肌を一部、崩落させるほどに鍛え上げられた《震動》もまた、決して侮る訳にはいかない。
探査者用病院にもしものことがあれば、医療従事者の方々や入院されている一般の探査者たちにも危害が及ぶ、まさしく大惨事に直結する。
それを考えると、拘束具はないと間違いなく困るものではあるわけだね。
「能力者犯罪捜査官にもそれ、一人一個は最低でもほしいんですがね、ヴァールさん」
「今回だって手錠でもあれば、もっとスムーズに翠川を捕縛できたんですけどねえ」
一方で、エリスさんと葵さんは拘束具について自分達もほしいと声を揃えて主張する。
今回なんかいい例で、仮にどちらか一人でも拘束具を持っていたならもっと、事態はスマートに現状に持っていけたはずなのだ。奇襲して拘束具をつけてしまえば、その時点でわざわざ戦うまでもなくなるわけだからね。
とはいえ、拘束具を捜査官たちにまで行き渡らせるのも中々、課題が多いようだ。
ヴァールが苦い顔をしつつも、二人に返事する。
「無論、分かってはいるのだが……特定モンスターの素材を用いる関係上、需要は常にあれど供給が不安定にならざるを得なくてな」
「たしか……A級モンスターのスキルキャンセラーが落とす、スキルキャンセリングストーンでしたか。そんなに不足してるんですか」
「現状では、世界各国の能力者刑務所に行き渡らせるので精一杯なほどにな。次いで配布すべき各国の警察にすら、モノが不足しているという状況が続いているのだ」
「それは……私らには回ってこないわけですねえ」
事情を知り、納得しつつも渋々といった感じの捜査官師弟。モンスターの素材が絡むと知り、不足気味なのも仕方ないと諦め顔だ。
A級モンスターもたくさんいるから、毎回必ずその、スキルキャンセラーとやらが出てくるわけでもないだろうからなあ。しかも出てきたところで、素材を落とすかどうかは運任せという地獄っぷりだ。
そりゃ足りないよな……ヴァールが渋い顔をするのも頷けるよ。
香苗さんが、何やら思い当たる節があるのか宥さんと俺に言ってくる。
「スキルキャンセラーですか、何度か戦ったことがありますね。スキルを封印する波動を放つ、探査者の天敵のような輩です」
「え……そ、それって勝てないのでは?」
「特筆すべきはスキルを封印してくるというギミックだけで、強さ自体はさほどではないんですよ。使徒宥でもどうにか倒せる程度でしょう。とはいえ他のA級モンスターと出てくると、大変なことになりますが」
「怖ぁ……」
スキルを封じてくるやつと一緒に、普通のA級モンスターが出てくるパターンまであるのか。それは怖いよ……
特に俺なんてそんな状況になったら、本来の力の10分の1も出せなくなりそうだ。コマンドプロンプトとして覚醒してなかったら、その時点で無理筋だったかもしれないね。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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