救世主と初代聖女。似通うところがないはずもなく……
どこぞの伝道師たちを彷彿とさせる有様も、少しすれば収まった。今回、神谷さんにお越しいただいた理由は決してエリスさんを崇めてもらうことではないからね。
というかエリスさんが乾いた笑いを浮かべて困っていた姿は、どこか見覚えがあるというか心当たりがある姿で、大変共感を覚えるものだ。
長生きされている分、俺よりはいなし方がずいぶんうまいからそこはちょっと羨ましいけど、似通う部分があるのは彼女も思っていたようだ。
さあ本題に入るぞと神谷さんやウィリアムズさんをとりなした途端、俺のほうにやってきて疲れた様子を見せ、小声でぼやいた。
「久々に相手すると疲れる……神谷くんというか歴代聖女ってのは、どうしてこうも私相手になると珍妙な反応を示すんだか……」
「歴代聖女、全員が今みたいになるんですか……!?」
「当代のシャルロットくんとはまだ面識がないから分からないけどね。二代目から先代のアンドヴァリくんまで、就任の際に面会してきた聖女はみんなこの調子さ」
どうも直系の二代目がいろいろ、あることないこと伝承しているみたいだねーなどとヒソヒソ話す。エリスさんはそうか、時代とか関係ないから代々の聖女たちとも今の姿のまま、面会してきたのか。
ダンジョン聖教を盛り立てたのは二代目聖女だってこの前、言ってたものなこの人。となるとその方がエリスさんの活躍について、今に至るまでずーっと聖教内に伝え続けてきたわけだな。
言うなれば生きた伝説そのものだ。そりゃ、神谷さんからしても頭が上がらないのも頷ける。
「そろそろそういうの、卒業してほしいんだけどね……っと。まあそれはいいや、とにかく話に入ろう。ずばり、翠川捕縛の件とそこなウィリアムズ嬢の身元確認と経緯の説明を、神谷くんにしていただきたい」
肩をすくめてやれやれと嘯きつつも、しかし今は仕事と切り替えてエリスさんは口火を切った。
今回、わざわざヴァールに神谷さんまで連れてきてもらったのは、主にウィリアムズさん関係についての説明だ。
ひいてはダンジョン聖教の動きや倶楽部との関係にまで繋がる部分の話となるため、先々代聖女という大変な立場にいる彼女本人から直接、お伺いすべきってわけだね。
まず1つ、とエリスさんは人差し指を立ててみんなに見せる。
「ウィリアムズ嬢の身元から聞かせてほしい。名前はオーロラ・ウィリアムズ。18歳、女、アメリカ出身のB級探査者。ダンジョン聖教騎士団に所属している。間違いないかな?」
「ええ、たしかに。ダンジョン聖教先々代聖女の名の下に保証します。彼女オーロラ・ウィリアムズはダンジョン聖教騎士団員に任ぜられています」
即答する神谷さん。やはり本当のことを言っていたのか、ウィリアムズさん。
となると翠川がバトルジャンキー……それも、スキルを持つ者同士の戦いに目がない迷惑な趣味を持つというのも本当なんだろうな。あの異様なタフネスやら辺り一帯を崩す《震動》の威力も、そうした無茶な趣味の中で培ったものなのだろう。
神谷さんは再度、深く頭を下げて俺たちに感謝を示した。
「窮地に陥っていた我が騎士ウィリアムズを、救っていただきありがとうございました、皆様。ましてやエリス様には、凶弾から庇ってさえいただき……」
「礼の一つさえ述べず逃げようとした無礼、深くお詫び申し上げます。我が罪の落とし前はこの後、裁きをお受けいたします……どうかそれをもって、我が身の非礼をお許しくださいませ」
「いやいや、罪とか罰とかいいってそんなの。勘弁してくれ、そんなことのために君を庇ったわけじゃないんだよこっちだってさあ」
呆れ返ってエリスさんが言う。せっかく助けたのに、なんか罪だの罰だのされようとしているウィリアムズさんにすっかり疲れた様子だ。
分かる。この手の人達ってやたら話を大きくしたがるんだよね。危ないところを助けた! 助けてくれてありがとう! で終わるところを、なんかよくわからない救世主のウンタラカンタラだのと言い出すから反応に困るんだ、とにかく。
かつてない親近感。現在進行系で困っているエリスさんには悪いが、この人とは仲よくやっていけそうな気がしてならない。
謎の感動を覚えていると、彼女はげっそりした様子で応える。
「とにかく身を隠そうとしたのも、つまるところ神谷くんから受けた任務とやらを優先したからだろう? 一応聖女って称号を持つ者として、何より助けた者として言うけどそれについては不問にするよ。はい、確定ね!」
「し、初代様……! ありがたいお言葉、至極光栄にございます!」
「ウィリアムズへの寛大なご処置、ありがとうございます初代様」
「初代初代うるさいよー。そんなことよりその、任務ってやつの詳細を聞きたいんだけど!」
いい加減話が進まないと、エリスさんが無理くり質問を投げかける。
そうなんだよ、こっちが主導するなり話題を転換したりしないと、なかなか話が前に進まないんだよね〜。我がことのように分かってしまう。
「というよりそもそも、ダンジョン聖教は何をどこまで掴んでいる? 翠川が倶楽部という組織に属しているくらいは知っているのか?」
「もちろん。その倶楽部という組織がどうやってかモンスターを使役できるようにし、それを世界中に密輸しているところまで把握しております」
つまり概ね、こちらが把握しているのと同程度の情報を、ダンジョン聖教側も握っているってことか。
まあ、ダンジョン聖教が翠川個人を狙うなんてよっぽどのことをやらかしてないとあり得ないし、倶楽部については間違いなく知っているとは予想できた話だ。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
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各書店様の特典はそれぞれ
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