バトルジャンキーにも二種類ある。迷惑なやつとそうでないやつだ
車を停めた位置にまで戻ってきた。香苗さんの真っ赤なスポーツカーも葵さんのレンタル軽トラック、特に何もなく健在だ。
俺の目眩やら疲労感も収まってきた。担架にて運んでくれた香苗さんと宥さんに礼を言いつつも、俺はようやく一人で立ち上がった。
「ふう……ん、よし。楽になりました、本当に助かりました二人とも」
「本当ですか? 念のためです、後部座席で休んでいてください」
「そうですよ公平様っ。体調は治りかけた時が一番、危ないものなんですから!」
「そ、そうですか? でしたらまあ、お言葉に甘えます……」
過保護というか、心配しまくっているというか。とにかく休めそら休めと、車のドアを開けて後部座席を示すお二人。
もう大丈夫なんだけど、宥さんの言うように油断はよくない。何よりヴァールが来るまでの間、もうやることもなくみんな待機時間だし。
無理に外で待つ必要もないんならと、俺は言われるがままに後部座席にて引き続き休息を取ることにした。
スマホで時刻を確認する。14時前。もうあと20分くらいしたらヴァールと神谷さんが来るかな? それまで暇だしとスマホゲームを起動する。
こないだ結局課金しちゃったんだよね……そしてあえなく爆死してしまった。とてもかなしい。しかも年齢登録による課金上限にも引っかかっちゃって、今月はもう1円だって課金できないという。もう踏んだり蹴ったりな感じでしょんぼり気分だ。
「さておき、イベント周回はしないとなあ」
別にしなきゃいけないってわけでもないんだけど、日課と染み付いていると半ば義務みたいになっちゃうのよね、これが不思議と。
そんなわけで短い時間だが、浮いた時間でイベント周回という地味な地獄を繰り返していく俺である。一方で他の面々はというと、各々なりに暇潰しに興じていた。
「ところで伝道師香苗。先日、救世主様に弟子入りしたという二人の使徒候補についてなのですが」
「ええ、使徒宥。鹿児島天乃さんと新潟花夢さん……それぞれ救世主様より教えを授かるという、まさしく天恵を受けし者達。是が非にも、ともに信仰を志す新たなる使徒として迎え入れるべき者達と言えましょう」
「やはりそうなのですね! エリスさんもそうですが有望な方々が────」
「しかし焦ってはいけません。急いては事を仕損じると言いますから、ここは少しずつ忍び寄るように伝道の影を────」
香苗さんと宥さんは何やら、山のほうに寄っていってヒソヒソ話をしている。うっすら聞こえるんだけど、明らかに密談だろうそれを無理に聞き耳立てるのもよくない。
けれどついつい聞こえてきてしまった分から察するに、恐ろしい話だけれどこの方々、こないだ俺からいろいろ教わりたいって言ってきたアメさんやガムちゃんのことを、もう把握しているらしい。
エリスさんも含めて3人をターゲットに、何やら不穏なことを話していらっしゃる。
クワバラクワバラ。聞かないほうが少なくとも精神の安寧は保てそうだ。イベント周回をポチポチ進めながら、今度はエリスさんと葵さんを見る。
翠川を軽トラックの荷台に放り込んだお二人は、ウィリアムズさんに何やら質問を繰り返していた。能力者犯罪捜査官としての、取り調べのご様子だ。
「君の身元についての確認はヴァールさんと神谷くんが来てから改めて確認するとして……なんの任務を受けてどういう流れでこんなことになったんだい? ウィリアムズ嬢」
「……任務の内容については神谷様の許可を得てからお話します。経緯について今話せるとすれば、そうですね。運悪く翠川に見つかってしまい、やつの趣味に巻き込まれかけたという所でしょうか」
「趣味? え、もしかしてちょっとやらしめなやつですか?」
「人気のない山奥に女連れ込んで、って? あり得る話だけど葵、発想が物騒すぎてエリスさんは悲しいよ」
翠川の趣味とやらに巻き込まれかけた、と語るウィリアムズさんに、かなりアレなことを問いかける葵さん。
エリスさんがそんな愛弟子に白い目を向けているけど、正直俺も最初に二人を発見した時よもや逢引か!? なんて思っちゃったのであんまり言わないでほしい。俺に刺さるの。
当のウィリアムズさんは何やら想像しちゃったのか、若干頬を染めて不服そうに葵さんに答えた。
「断じて違いますし、仮にそのようなことであれば私は全力で抵抗しています。翠川の趣味とは、バトルです」
「はあ。バトル」
「やつはスキルを用いた者同士の戦いに目がないんです。モンスター相手でなく、スキルを持つ者相手に喧嘩を売りたがる輩なのですよ」
「あー……いるねたまに、そういうの」
エリスさんがげっそりした感じで言う。バトルに目がない、いわゆるバトルジャンキーってやつか、翠川は。
しかも対象がスキルを持つ者に限られている。対モンスター相手のバトルジャンキーって話なら、探査者にはそこそこいるしアンジェさんやランレイさんも、そんなきらいはあったけど……翠川はもう完全に、スキルの比べ合い競い合いに執着してるって感じみたいだな。
「私とも、戦って勝ってから始末するつもりでいたようです。自在に移動できる謎のスキル、《座標変動》がある時点で私に勝ち目がないのは明らかでした。ですからどうにか話で留めつつ逃げられないか、隙を探っていたところに──」
「私達が割って入ったってわけね。なるほど?」
バグスキル《座標変動》は紛れもなく翠川のみに与えられた一点物のスキルだ。効果も汎用性が高いし、戦闘でも上手く使えば凶悪な性能を誇るだろう。
それを踏まえて、最初から勝つことはできないと悟っていたウィリアムズさんを、結果的に助ける形で俺たちが仕掛けたって流れなわけか。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
もうあと半月で発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
・佐山の日常
・関口の昔日
・逢坂の不安
の、3種類となっております!
また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!
基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
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PASH!ブックス公式Twitter(@pashbooks)
をご確認くださいませ!
よろしくお願いいたします!




