※実際のところエリスはスレンダーな体型です
プリズムに煌めく担架に横たわり、香苗さんと宥さんにえっちらおっちら運び出される俺。
山道の下りだしバランスを崩して落ちたりしないか不安だったけど、むしろ異様なまでにバランス感覚のいい搬送っぷりで快適そのものだ。
「っていうか、どっちかというと翠川のほうをこういう風に運ぶべきなのでは……」
香苗さんの《光魔導》で生み出された担架は、さすがというべきかとてつもなく寝心地がいい。横になっただけでもぐっすりってなもんですよ。
ただまあ、そもそも俺がこれを使う必要あるのかって話ではあって。現在進行系で意識を失っている翠川をこそ、こういう担架なりで運ぶべきじゃないかなあと思ったりするのだ。
「我らが救世主と卑劣な犯罪者、どちらを優先すべきかなんて比較するまでもありませんね」
「銃で人を撃ってしまうような怖い人は、今みたいに能力者犯罪捜査官の人たちにお任せしたいところです」
「そ、そうですか……お世話になります」
それに対して我らが伝道師と使徒は即座に否やを返してきた。ずいぶんと心配させてしまっているのがその表情、声音から伺えるのでなんだか申しわけないなあ。
俺と翠川なら俺を優先するのは、これまでの流れというか経緯でも分かっていたことだし、すでに取り上げたとはいえ銃なんか持ち、あまつさえ平気で人にぶっ放すような輩を介抱するのが、躊躇われるのも頷ける。
そもそも今こうしてもらっているのが結局、お二人のご厚意によるものだから、俺がアレコレ指図していい部分じゃないんだよね~。
今回ばかりは分が悪く、何よりもなんだかんだ気遣ってもらっているのが嬉しくもあるし……ここはもう、お言葉に甘えちゃうかと俺は力を抜いて運ばれ続けるのだった。
ちなみにじゃあ、その翠川は今どうなっているかというと、ふよふよと空中を漂っている。エリスさんのスキル《念動力》によって動かされているわけだね。
人一人くらい難なく浮かせて運べるあたり、相当な練度の《念動力》だと感心する光景だ。宙に浮かすまでならともかく、それを動かすのはかなり精密かつ緻密な制御能力が必要だし。
「万一意識を取り戻したら葵、またビリビリの刑にしてあげなさい。今度は余計な隙を見せないようにね」
「はい! もう力加減も分かったので、秒でおねんねさせてやりますよ!」
翠川を運びながらも指示するエリスさん。先程、余裕からか決着してもないのに高笑いなどしてみせた弟子に釘さえ差している。
それを受けて葵さんは頼もしくも即答した。さすがに何度も電撃を浴びせたから、翠川の耐久力については把握しているみたいだな。
さっきみたいに何度も長いこと電撃で痛めつけるのは、普通に拷問風景だし。今度同じことをやるなら手短にお願いしたいところだね。
もっとも翠川の意識はそうそう戻らないとは思う。あれだけの電撃を食らってなお、意識を保っていたタフネスは称賛に値するけれど、さすがに意識を手放したらしばらくは眠りっぱなしだろう。
そこは承知の師弟が、それでも翠川の様子を警戒し続けながらもいろいろと話す。
葵さんの手にあるのは銃。翠川が所持していた、そして先程エリスさんに深手を負わせたものだ。いろいろ弄くりつつも、師匠に言う。
「翠川の銃、至って普通の銃火器ですね。詳しいところまでは分かりませんけど、モンスターの素材とか使ってるわけじゃなさそうです」
「ってことは、私の身体をあそこまで破壊したのはやっぱり《震動》を併用したからか。モンスターには効き目が悪いけど、人間相手だと一撃必殺級ってわけだな。いやあ、山形くんがいてくれなかったらあそこで死んでたかもしれない」
「本当、山形くん様々ですよ。私達にとっても救世主でしたね」
軽口でも救世主とか言わないほうがいいですよ葵さん、今俺を運んでいる人達の目がキランと光りましたし。
まーた伝道が始まるのか……と予感しつつも、けれど翠川の銃と弾について考える。
スキル《震動》を併用しての、震える弾丸。なるほどエリスさんの腹がぶち撒けられるわけだ。
山の一部さえ崩壊させる威力を、銃弾に纏わせて身体の中で展開させたのだ。これで即死してなかっただけ、幸運というべきなんだろう。
実際、さっき彼女が負った怪我は相当なものだった。致命的なものかは分からないけど、応急処置さえしないままだったら確実に出血多量で死んでしまっていただろう。
怪我そのものを、撃たれたという事実からなかったことにできる俺が傍にいて本当によかった。銃という武器が、やはり人間に対しては絶大な凶器であることを再認識させられつつもホッと息を吐く俺だ。
「むしろこんなもん喰らっといて即死せずに済んだのなんなんです? 普通はもっと、原型留めてないと思いますよこれ」
「レベルと鍛え方と潜ってきた修羅場の数が違うんだよね、ハッハッハー」
「なっるほどー! さすがはアラウンドハンドレッド略してアラハン! もうじき一世紀にもなる若作りは、面の皮だけでなく腹の皮まで厚くするものなんでしょうか!?」
「ハッハッハー、しばくぞ。誰の皮下脂肪が厚いって?」
「怖ぁ……」
葵さん、ちょくちょく師匠にライン超えの弄りかますよな……淡々と怒るエリスさんが怖い。
まあお互い本気で言い合ってるわけでなし、彼女たちなりの気心の知れたやり取りってこと、なんだろうか?
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
もうあと半月で発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
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基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
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作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
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