伝道師による超高等テクニックを惜しみなく使っての逸品
ヴァールとの合流地点に選んだのは、今いるこの場所ではなく車を停めた山道の、ちょっとした空き地だ。
お疲れだろうエリスさんや葵さんには、車内で休んでもらいたいからね。あと話の次第によっては、そのまますぐ移動なんてこともあり得るし。
「というわけで車まで戻りましょう……そろそろいいですか、エリスさん?」
「まだもう少し。なんならお姫様抱っこして運んでくれてもいいよ」
「えぇ……?」
未だ俺に抱きかかえられて、本人もしがみついているエリスさんがそんな駄々をこねる。
なんか急に甘えたになってない? 人の温もりに弱いとは先程仰られていたけど、だからってこんなことある?
戸惑う俺が困ったように周囲に助けの視線を向けると、さすがは弟子というべきか葵さんが、助け舟を出してくれた。
「師匠、免疫なさすぎるでしょうピュアですか? いい加減迷惑すぎて嫌われちゃいますよそのあざとムーヴ」
「んん、嫌われるのはよくないね。あと私はピュアだよ。もうじき齢一世紀にもなろうに、ろくに交際経験もないしっと」
言いながら立ち上がるエリスさん。怪我を見るために失礼を承知で割いた服の下、シルクのような美しい肌が露出している。もちろん傷はない。
必要なことだったからやったとはいえ、さすがに罪悪感というか気まずさが募る。この崩壊した土地も含め、アフターフォローはしなきゃならないだろう。
俺は権能を使った。
「《俺は服を破ってないからエリスさんの服は破れていない》」
「おお?」
「そして、《翠川は震動を使ってないから土地は崩壊していない》と」
「こ、これは!?」
対象は2点、エリスさんの服と崩壊した一帯と。それぞれ現状に至った原因をキャンセルし、結果を改竄する。瞬間、即座に元通りになる彼女の服と山。
特に山の戻り方は異様で、荒れ果てたという表現がピッタリな状態だったのが、瞬きする間もなく豊かな自然へと巻き戻っているのだ。
何も知らない人たちからすればまさしく怪奇現象。ウィリアムズさんの驚愕の声が、蘇った山の中に響いた。
「なんですか、これは……す、スキル? でもこんな、ここまでのことをできるスキルなんて……《植物操作》?」
「さっきの空間転移といい、今のこれといい。山形くんってば本当になんでもできますね。やり方を教えてほしいくらいですよ、はっはっはー!」
「うーん惚れ惚れするよ。さすが山形さんだ、略してさす山」
「それやめてもらっていいですかねエリスさん」
飄々とした声色だから、なんだか茶化されてる気がするんですけど。エリスさんを止めつつ、俺はしかしウィリアムズさんや葵さんの言葉には反応しないほうがいいとあえて無視する。
能力者犯罪捜査官のお二人にはこの辺の、俺の権能についてはそういうポエミースキルがある、ってことでご理解いただいている。
薄々はそうでない、スキルとはまた別の超能力的なものだと勘付かれているかもしれないけど、下手に確認したらまさに藪蛇だ。必要だから使っているだけであって、使わないに越したことはない力なのは間違いないのだし……俺の正体を含めて本当のところを知る人は、なるべく増えないほうがいいのだ。
だからウィリアムズさんも込みで、あくまでこれは俺のスキルだと思っておいてもらう。
エリスさん葵さんはとやかく詮索してこないと思うし、ウィリアムズさんはあれだ、神谷さんにお願いすれば空間転移だのについては口を噤んでもらえると信じたい。
そういう話もしたいから、さっさと車に戻らないと、だね。
「…………っ」
「公平くん!?」
「公平様!!」
と、不意に目眩がして俺はその場にて膝をついた。すぐさま香苗さんと宥さんが駆け寄って、俺の身体を抱きしめてくる。やわらかい、天国かな?
なんて言ってる余裕がある程度には無事だけど、そこそこな疲労感が襲ってくる。立て続けの空間転移と怪我の対処、服の修復に山を元通りにするなど、これまでにない頻度で因果改変を行ったがゆえの、これは代償だった。
「す、すみません……ええと、力を使いすぎたみたいです。ちょっとしたら治りますから、みなさん先に行ってください」
「何を馬鹿なことを……! あなたを一人になんて、誰がさせるものですか!」
「こんなになるまで、お力を使われて……っ。どうかご自愛くださいませ、救世主様!」
「えぇ……?」
あまりの感極まりっぷりに、なんだろう俺はこれから死ぬのかな? って感じの表情になっちゃった。いくらなんでも大袈裟すぎる。
命に別条はなし、寿命を削った感覚もなし。本当にただただ権能を連続行使したがゆえの、酷い疲労感があるだけだ。
だからちょっとしたら治るってのは、まったくもって本当の話なんだけどなあ……伝道師と使徒にとっては何やら、死にゆく者が若人に向けて言う"先にいけ! "並のシチュエーションに思えているみたいだった。
「《光魔導》! プリズムコール・ストレッチャー!」
「!?」
「──即席の担架です。使徒宥と運搬させていただきますので、どうかこちらに寝そべりください」
唐突にスキルを使った香苗さん。何かと思えば俺のすぐ横、プリズムに煌めく担架が形成された。サッカーとかで負傷者を担ぎ出す、あのアレだ。
そしておもむろに寝そべり、香苗さんと宥さんに運ばれるように言われる。マジで? 《光魔導》で担架作っちゃったよ、この人……
「アッレェー? 《光魔導》で、担架なんて作れたっけぇ……?」
エリスさんの困惑の声が聞こえる。90歳を超える超大御所のこの人でも、さすがに類例に出くわしたことはないみたいだ。
なんか、すごいテクニックをすごく微妙な場面で見せつけられたなあ……複雑な思いを抱く俺だった。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
もうあと半月で発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
・佐山の日常
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の、3種類となっております!
また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!
基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
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