専門用語を当たり前のように駆使する人ってなんかカッコよく見えるよね
『あら、エリスちゃんどうしたの? え、ヴァール? ……倶楽部の幹部を捕まえた!? ちょ、ちょっと待ってね今ヴァールと代わるから────む? ん、電話? 何? 翠川を? それは本当か?』
「正しく一人二役感ありますね、ハッハッハー。いかにも先程、翠川をとっ捕まえちゃったりなんかしちゃいましたよ」
いきなりの電話に驚いた様子のソフィアさんだったが、エリスさんが事情を説明するだにヴァールへと交代。改めて事態を把握することになった。
偶然、俺の感知圏内に能力者が二人転移してきた。調べてみると倶楽部幹部の翠川だったので、現場に踏み込みこれを捕縛。
もう片割れの能力者が自身のことを、ダンジョン聖教騎士団の騎士と名乗るものであり神谷美穂からの任を受けていると主張している。
「つきましては神谷くんともども、ヴァールさんに現場にお越し願いたいわけですよ。翠川をさっさと警察に引き渡したいですし、ウィリアムズと名乗る女の身元を神谷くんに確認してほしいですし」
『経緯は理解した。いきなり大した進展だな……正直、こないだの今回で驚いている』
スピーカーモードのスマホから伝わる、ヴァールの声音は明らかに困惑している。"えっ、もう翠川殺ったの? "的な動揺が、見え隠れしているのだ、いや殺ってはないけども。
これについてはウィリアムズさん以外のこの場にいる、誰しもが同感だろう。倶楽部という組織やその幹部の存在が明るみになって数日、なんでもう三幹部のうち一人を確保できちゃってるんだか。
たまたま俺の感知圏内に転移してきたってだけでこれである。翠川からしたら堪ったものじゃないだろうけど、あるいはこれも因果というやつか。
これまで悪いことをしてきた、そのツケが溜まりに溜まった末、こうした場面で偶然の命取りに遭遇するんだろうな。人生いいことも悪いことも、まったく平等でないにしろそれなりにそれぞれ起こるものである。
しみじみしていると、エリスさんがヴァールに返答していた。
「私もです。ただまあ、山形さんがいなければそのままスルーしていたでしょうから。大体彼のおかげですね」
「いえ、結局エリスさんと葵さんのおかげで彼を捕らえられたわけですから。微力ながらお手伝いできて光栄ですよ、ありがとうございました」
『あなたらしい物言いだな……ありがとう。早速の協力、心から感謝する』
「うんうん。私からも改めてありがとうね山形さん。怪我の件もあるし、君は恩人だよ」
やたらめったら感謝されてしまい、ありがたいやら恐縮するやら。せっかくのお言葉なので頂戴するけれど、俺としては翠川を捕らえきってくれた能力者犯罪捜査官のお二人にこそ、感謝の念を伝えたいところだ。
フーロイータを用いて翠川を追い詰めた葵さんも、文字通り体を張ってウィリアムズさんを凶弾から護ったエリスさんも、とても立派に捜査官としての務めを果たされたと思うしね。
『さて……それでは神谷を連れてそちらへ転移する。神谷に事情を説明し準備をしてからになるため、都合30分ほどかかるが大丈夫か?』
「構いませんよー。ええと合流地点の座標については、山形さんから説明してくれるみたいです」
「システム領域内の座標か現世の緯度経度か、どっちに設定してる? そっちに合わせて教えるけど」
話を振られてヴァールに問う。
空間転移系スキルは本来、システム領域内の座標を変動させることで移動できる仕組みなわけなんだけど……使用者側の設定で現世の緯度経度でも扱うことができたりするんだよね、実は。
システム側の座標ってのは何かというと、現世のみならずシステム領域、概念領域などの各次元すべてに対応している座標数値のことだ。
ツリー構造になっているそれぞれの次元の位置まで細かく特定して、ひとっ飛びできちゃったりする。
反面、現世内を行ったり来たりするってだけの話だと、やはり現世で用いられている緯度経度を使うほうが移動しやすい。縦軸と横軸を動かすだけだからね。
今回の場合、使用者は受肉して150年経つヴァールだ。となると現世で世界共通規格として用いられている緯度と経度のほうをメインに使っている可能性もある。
その辺はこちら側でフレキシブルに対応させてもらおう。そう思っての質問に、電話の向こうのヴァールは即答した。
「システム領域での座標で頼む。緯度経度設定は簡略化しすぎていて性に合わないのだ。有事の際にシステム領域座標について失念していたりしても困るからな」
「おお、真面目。わかったよ、えーと……言うぞ? 3E、69──」
『3E:69:B2──』
どうやらシステム側の座標のほうがありがたいらしい。というわけで口頭で話していく。
パッと聞く限りではわけわからん英数字をひたすら口走る俺と、スマホの向こうでやたらうむうむ返事するヴァールの様子は、傍から見ればさぞかし奇妙なものに見えたろう。
「救世主様の専門用語──! メモメモメモり、メモメモメモり」
「救世主様言語がついに、現世にて一部披露されたのですね……! どうにかして纏め、信者たちに発表できないものでしょうか!?」
俺の発言、つまりはシステム領域の座標を事細かにメモしていく香苗さんと、何やら発表するとかなんとか言ってる宥さん。相変わらずの光景ではあるんだけれど、たぶんメモしたところで意味ないと思う。
あくまでシステム領域で用いられる文字の羅列にすぎないのだから、それをそのまま現世にてどうのこうの引き合いに出したってしょうがない。
国語の授業でおもむろにソースコードを黒板に書き出すようなものだ。ジャンルが違うし言語も違う。
分からない人には最後まで分からないだろうし、分かってる人からしてもそれはそれでよそでやれって言うだけだろう。
「──67にEAっと。こんだけだな」
『──C7:67:EA。ふむ……承知した。この地点に30分ほどしてから、神谷とともに転移しよう』
「分かった。悪いな、急な話で」
『何を言う。むしろよくぞやってくれたよ、エリスも葵も含めてな……では、準備をするぞ』
電話越しの柔らかい声が、俺たちを褒めると同時に通話が切れた。
これであと30分ほどしたら、教えた地点にヴァールと神谷さんが転移してくるはずだ。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
もうあと半月で発売されます
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の特典についてご報告いたします!
各書店様の特典はそれぞれ
・佐山の日常
・関口の昔日
・逢坂の不安
の、3種類となっております!
また電子書籍特典はマリアベール視点からみた山形についてを描いた前日譚になっています!
基本山形視点の本編なため、他キャラ視点での話が読めるのは概ね特典関係ばかりですので、興味がお有りの方はぜひぜひ、お求めくださいませー
現在サイン本、書籍版、電子書籍版の予約も行っておりますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
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