きっと草葉の陰でエリスも喜んでいるよ……
崩落する大地──そう錯覚するほどの地震。
地面が崩れて木々は倒れ、さながら土砂崩れのような光景が俺の目の前に広がっていたく。開ける視界の先には、倶楽部の幹部である翠川。
やつが放ったスキル《震動》が、遠くにいる俺達すら巻き込む形で大地を揺るがせていたのだ。
「うわわわわっ!」
「《震動》!? くっ、こ、れが……!?」
「そんな、こんなことができるスキルなんですか!?」
突然襲った揺れにバランスを崩しかけつつも、香苗さんと宥さんの困惑の声に内心頷く。《震動》でここまでのことができるなんて、とんでもないことだ。
このスキルは本来、モンスターを内部から震動させて破壊する攻撃用のものだ。レアといえばレアだけど地味な効果と威力から、保持していたとしてもそれを自分の看板スキルみたいに扱う者はそういない、言ってしまうと地味めなスキルなわけだね。
それを、翠川はひたすら研鑽し続けたとでもいうのか? 範囲は狭めとはいえ大地をここまで揺らすなんて、正直システム側としても想定してないぞ、これは。
翠川を見る。《震動》により地面が崩壊したことで葵さんが離れたフーロイータを無造作に払い投げながら、やつは死に体ながらもどうにか立ち上がっていた。
「く、そ、た、れ……っ!!」
「《震動》なんて、こんな規模はおかしいでしょう……!?」
呻きつつも見るのは、やはり咄嗟に避難した葵さんだ。薙ぎ倒れていく木々を次々飛び移りながら、翠川の周囲を観察している。
同じく回避したエリスさん──こちらは確保した女性とともに、先の地震の範囲外へと退避している──が、葵さんに向けて叫ぶ。
「葵! フーロイータをそちらへやる、やつを逃がすな!」
「了解です師匠!」
言うやいなや、崩落に巻き込まれたフーロイータが、埋もれた土砂の中から勢いよく飛び出す。《念動力》を使ったサルベージだな。
そしてそれを葵さんめがけて飛ばす。ひとまず武器を彼女のところへ帰して仕切り直しってところか。しかし、翠川がどう動く?
男を見る。フラフラの重傷でありながらもやつは、一直線に戦意の眼差しを……葵さんじゃない、女のほうに向けている。
香苗さんの鋭い声が飛んだ。
「やつの狙いは葵さんでない、女です!」
「てめえだけは逃さねえ……」
それと同時、翠川は懐から銃を出した。かなりゴテゴテした装飾の大型銃。
葵さんも、飛びゆくフーロイータも完全に無視して、やつは女にその狙いを定めた!
「後顧の憂いってやつぁ、断たねえといけねえだろうがよぉ、なあ犬ゥ!!」
「っ!?」
「くたばりやがれっ!! 《振動》、バイブレーション・バレット!!」
どういうんだ。敵対していたのか、翠川と女は!?
ここに来てついに関係性が伺い知れたことはともかく、今は女性が危ない!
咄嗟に駆けようとする俺たち3人。しかしそれより先に、銃口が火を吹いて。
「──避けろっ、ぐうっ!?」
「っ!?」
「師匠っ!? くっ!」
エリスさんが女を庇い、代わりに撃たれるのを見る。葵さんの叫びが山の中に響いた。
腹部。弾けたように大穴が空き、彼女が後方に飛ばされていく。飛び散る肉片、吹き出す血。
「っ、いけない! 権能解除!」
「公平くん、彼女の元へ!」
「もちろん! 開け空間の扉!」
目を見開き、俺は即座に判断した──バグスキルの封印を解除し、ワームホールを開く。繋いだ地点はもちろん、エリスさんのいる場所だ。
「エリスさんっ!!」
「ぐ、うあ……!? と、咄嗟に弾は止めた……っ!」
転移し、彼女に駆け寄り抱き寄せる。傷を負った腹部周りの衣類を、失礼を承知の上で一部裂いてはだけさせて具合をたしかめる。
スキル《振動》を併用して、威力を底上げした銃弾を使用したらしい。内部から破裂したみたいに、外側に向け中身が弾けだしている。
レベル1000オーバーの探査者に、これほどの傷を負わせるなんて……《振動》と銃弾の相性がいいというのもあるにせよ、これは常人なら致命傷だ。
意識があり、あまつさえ呻いていられるエリスさんはレベルのおかげで身体能力か強化されているのと、自身のスキル《念動力》でとっさに弾丸を止めたからに過ぎない。
さすがの鍛え方と判断力だけど、このまま放置すれば確実に失血で死ぬだろう。
させるものか! 悩みも迷いもなく、俺は彼女の因果を改変した。
「《銃弾は不発したからエリスさんは傷を負っていない》」
「う、くっ…………え? あれ、ありゃ?」
パッと、そこにあったはずの傷が何事もなく消え去る。戸惑うエリスさんの表情も、それまでの苦悶や朦朧からは解放されている。
重傷だったのは間違いないが、そもそも存在しないことにしたのだ、俺が……発砲は不発に終わった、ということにして。
代わりに翠川の銃がたまたま、整備不良なりで状態が悪いことになったけどそれはどうでもいい。
葵さんがすぐに終わらせてくれるからな。
「っ!? テメェ、山形公へ────!?」
「《雷魔導》!!」
突如現れ、あまつさえエリスさんを癒やしてみせた俺を目の当たりにして翠川が驚き。
それを隙と見たか、矢継ぎ早に葵さんが再度の追撃を仕掛けた。《雷魔導》を纏ったフーロイータによる、超加速突撃殺法!
「雷槍技! プラズマチャージ・アクセルライトニングッ!!」
「し、ま──っ!?」
俺に気を取られて完全に油断していた翠川の、足元に大出力の稲妻を放つフーロイータが突き刺さり。その場一帯に、激しく迸る雷が放たれた。
モンスター相手にならば直接突き刺すのだろうけど、人間相手だから間接的に攻撃したのか。しかし、威力は絶大だ。
地面から遡る稲妻をもろに受け、翠川が短く呻いた。
「が、あ……」
「取りました……師匠の、仇ィっ!!」
今度こそ完全に気を失い、倒れ込む翠川を見やり。
葵さんは青い空を仰ぎ見て、凶弾に倒れたエリスさんへと言葉を投げかけるのだった。
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