無駄なことさえ楽しむ、それが風情
ダンジョン探査開始から概ね4時間。
俺と宥さんコンビによる戦闘とそれに対しての香苗さん、エリスさん、葵さんからのレビューと雑談を経て、ついに俺たちはダンジョンの最奥に辿り着いた。
薄暗い部屋の中央、薄緑に光るラインが何本も走る大黒柱に埋め込まれたコアを抜き取る。これであとは帰るだけだ……空間転移を使えばそれこそ一瞬なので、事実上この時点で探査完了も同然といえば同然だね。
「じゃ、帰りましょうか。空間よ、このダンジョンの出入り口へと繋がれ」
手を翳し、神魔終焉結界の機能を発動する。今いるこの場所と、ダンジョンの出入り口付近を繋げるワームホールを生成したのだ。
探査者には基本、与えられることのない空間系のスキルだ。因果に関与する効果のため、オペレータに与えるには危険すぎるからな。
穴の向こう、今回外へ出られる階段が見える。穴を通ればそのままあとは階段を上がれば外界なので、自分で言うのもなんだけどすごい便利だ、有用すぎる。
まあ、だからこそ悪用されるとなると恐ろしい事態が予想されるんだけどね。倶楽部三幹部のうち何者か、擬似ながら転移系スキルを使用したらしい輩を思う。
「こんな感じの事実上、どこにでもいけるスキルを敵も持っているとなると……厄介極まりない話ですね、これは」
「そう、ですね。何やら特別なスキルみたいですが、もしも探査者として正当に活動していればきっと、上級探査者として大成することも夢ではなかったでしょうに……」
沈痛な面持ちの宥さん。心優しいこの人は、倶楽部の三幹部たち対しても、道を過ってしまったことをまず惜しんでいる。
たしかにバグスキルとは言い方を変えれば、世界でその人にだけ贈られた特別なスキルとも言えなくはない。きっかけがひたすらシステム側の都合によるだけで、探査者にとっては基本、便利かつ有用なものであるのは間違いない。
そうしたスキルを、探査者としての活動の中で活かしてくれていたならば。そう、俺も残念に思う。
特に青樹さんについては香苗さんの師匠でもあるのだ、そうした思いはなおのことあった。
「せめて、法に則った活動に収まってくれていればよかったものを。なんで犯罪に走るのか」
「ま、そこは捕まえれば分かる話さ、山形さん、望月さん。御堂さんも」
「そしてこの国の法に則って罪償いすれば、改めて探査者として更生できる機会だってありますから。悲観のしすぎもよくないですよ、みなさん!」
エリスさんと葵さんが慰めるように言ってくれる。
能力者犯罪捜査官たちの言葉に、俺たちもまた希望は失うまいと頷いた。
ワームホールを抜けてダンジョンの出入り口に到達し、そのまま外へ出る。今回のダンジョンは俺の家から香苗さんの車で概ね一時間ほどのところにある、緑豊かな小山の奥まった場所にできていた。
香苗さんの自家用スポーツカーに俺と宥さんが。借りてきたレンタカーの軽トラに葵さんとエリスさんが二人で乗って、それぞれここまで来たわけだね。
ダンジョンの入り口近く、開けた場所に駐車しておいたそれら車のところまで戻る。香苗さんの真っ赤っかなスポーツカーは山奥でも当然のように目立つから、目印としても丁度いいよね。
で、その目立つスポーツカーの隣には葵さんたちの軽トラック。レンタカーだけあってピカピカの真っ白で、スポーツカー何するものぞと言わんばかりに晴れた陽射しを受けてキラキラ表面を光らせていた。
思わず葵さんに尋ねる。
「ええと、今さらですけどなんで軽トラなんです……?」
「え? いや、いいじゃないですか軽トラック。なんかこう、デザインが」
「は、はあ……」
軽トラを颯爽と操ってエリスさんとやってきた葵さんの、得意げな顔はしばらく忘れられないんじゃないかな、俺。
軽トラはたしかに便利だし、デザインも洗練されているところはあると思うけど……別に荷台を利用するでなし、普通に自家用車をレンタルしても問題なかったんじゃないかなあ。
香苗さん、宥さんとともに疑問符を浮かべる俺。どうも葵さんってば、独特でとらえどころのない人だ。
彼女の師匠であるエリスさんが、苦笑いして俺たちに話しかけてくる。
「いやー葵は小さい頃から自分なりの拘りってやつを、いろんな方面で持っていてね。風流と言ってもいいのかな? なんにつけ、面白い感性を持ってるんだよ」
「軽トラックでのんびり山道を行く。風情ですね! ロケーションによって見た目が映える車も変わりますから、今回の山奥ってシチュエーションには白色の軽トラックが一番なんです!」
「ほら、このとおり」
「な、なるほど?」
分かるような分からないような。要するに葵さん、今回のダンジョンが山奥にあるからあえて、白の軽トラを選んでレンタルしたのか。
うーむ? 芸術的な感性な気は若干するんだけど、いかんせん俺にはレベルが高すぎてちょっとよく理解できない。普通にダンジョン探査ってだけのつもりで臨んでいたから、道中さえ楽しもうという葵さんの考え方は新鮮だ。
遠足気分じゃないけど、遠くまで探査に行く時はもっと道中に目を配ってみてもいいのかもしれない。そこで新しい何かを発見できるなら、それはきっと無駄じゃないんだろう。
なんだか新しい世界を教えられたような気がしつつも、俺たちは車に乗って帰路についた。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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