有名美人配信者達の中に挟まる男（最悪）
お昼ごはんも食べたしまた、ダンジョン探査を開始する。もうここまで来たらあと一息だ、おそらく昼過ぎにはこのダンジョンも探査が終わるだろう。
最奥に至るまで大体4時間くらいだろうか。B級ダンジョンの攻略にしてはまあそこそこって感じの時間経過で、帰りは空間転移を使うことを考えると、概ね13時頃には外に出られると思われた。
「C級2人での探査とは思えないスムーズさだね。息もぴったりで、連携もそこそこ噛み合っている」
「山形くんは言うまでもないとして、望月さんもC級どころでなく今後、上を目指せそうですね」
「そ、そうですか？ 光栄です。ありがとうございます」
エリスさんと葵さんからのお褒めの言葉をいただき、宥さんが恐縮しつつも照れたように微笑む。
清楚な立ち振る舞いだけど実際、彼女はこのダンジョンに出てくるB級モンスターたち相手に対して、一歩も引くことがないほどに洗練された立ち振る舞いを見せてるからね。
C級になったばかりだけれど、実力的にはもうB級探査者としても差し支えなさそうなほどだ。
パーティを組むにあたってこんなに頼れる人もそうそういないんじゃないかって、そのくらい彼女はあらゆる攻撃から俺や自身を護り、防ぎ、そして連携へと繋げてくれていた。
「実際、組んでいてすごくやりやすいですよ。群れならともかく、3体くらいまでの相手ならそれぞれに同時に対応して、敵の体勢を崩してこっちまで受け流してくれるから、俺もいろいろ動きやすい」
「惜しむらくは使徒宥だけでは敵を防げても、敵を倒せるだけの火力に乏しいという点ですが……それは今後の課題として。パーティの一員としてであればディフェンダーとして今の時点でも、どこでも活躍できるでしょうね」
俺や香苗さんも口々に、宥さんの戦闘スタイルについてコメントする。特に香苗さんは火力不足という、彼女の弱点にまで言及しているね。
たしかに防御こそピカイチだけど、その分攻撃って面については正直、これといった決め手に欠けるってのはある。今回の探査においても宥さんの役割は防御がメインで、攻撃となるの手にした剣で突き刺す程度のものでしかない。
言うなれば極端なまでのディフェンス特化。スキル《防御結界》の存在もあり、護る際には鉄壁だけれども攻めるには向いていないタイプの探査者と言えるだろう。
こういうとこ、弟子の逢坂さんが極めて偏ったステルス特化なことも併せて考えると、これはこれでよく似た師弟なのかもしれないなあと変に感心してしまう。
香苗さんの指摘には当然、自覚があるようで。宥さんは困ったように笑いながら、しかし真剣な声色で答えた。
「火力不足、決定打の欠如……まさしくそのとおりなんです、伝道師香苗。普段パーティを組んでいても、他のメンバーに比べてそうした部分で依存せざるを得ない場面は多々、あります」
「たしか、ドラゴン騒ぎの時点では攻撃関係のスキルを一つも持っていませんでしたね。今からでも《剣術》なり取得しようとしてもいいのでは？ 即座に強くなれるわけではありませんが、剣が得手であれば長期的に見て有用でしょう」
「そうですね……C級になった今、そろそろ苦手分野の克服を視野に入れるタイミングなのかもしれません」
考え込む宥さん。たしかに、剣で武装しているわけだし《剣術》は持っていても損はないかなと俺も思う。
あのスキルは剣技の習得速度に補正をかけてくれる。つまり何かしら流派や技術を修める際に学習効率がアップするという性能なわけだね。
たしか習得条件もそこまで難しくなく、探査者養成校では短期集中習得コースみたいなのが組まれていたはずだ。全探組の談話室に置かれていた、そういうパンフレットで見たし。
これまで完全に防御のプロフェッショナルとして活躍なさってきた宥さんも、そろそろ次のステップを踏んでもいい時期なのかもしれなかった。
「普段組みのパーティに持ち帰り、相談した上で決めようと思います。下手をするとパーティ内の役割が変わるかもしれませんから、そこは報連相をしっかりしませんと」
「宥さんのパーティ……って、普段動画配信の時に一緒に探査されている、女性探査者の方々ですよね？」
「はい！ 私のチャンネルをご覧頂いているなんて、とても光栄です公平様！」
ふと気になって、普段彼女が配信している動画チャンネルのメンバーについて尋ねると、めっちゃ嬉しそうに笑顔で言われた。
いやまあ、そこまで熱心なリスナーではないんだけどね。まあまあな頻度で紛れ込むアレな宗教動画で、なんかマズいこと言ったりしてないかたまに確認させてもらっているだけだし。
そんないろんな意味で有名配信者であらせられるところの宥さんだけど、ダンジョン探査動画においては概ね一定のメンバーとのみ、パーティを組んで撮影に臨んでいる。
彼女を入れて4人、いずれも女性だけだ。全員すごい美人さんたちで、ルックスの面で人気が出たって部分も大いにあると思う。
そうだ！ と宥さんが俺を見て、爛々とした瞳で言ってきた。
「今度、伝道師香苗のチャンネルと救世の光コラボレーションをするんです！ ぜひとも公平様もご参加いただけませんか？」
「…………えぇ？」
「私のチャンネルにも数多の信徒がいますもの！ パーティのみんなも一度お会いしたいと言っていますし、いい機会です！」
「えぇ……？」
突然炎上案件を振られてしまった。怖ぁ……
美人探査者パーティが売りのチャンネルに突然救世主気取りの男が乱入って、それ収拾つかなくなるやつじゃん。
絶対俺の悪評が更にひどいことになっちゃうよ。ヤバいってマジで！
「いい考えですね、使徒宥。私も協力させていただきましょう！」
「伝道師香苗！」
本家本元の狂信者まで動き始めた！ やめてよ！
完全に暴走し始めたいつものコンビに、俺はとにかくストップを呼びかけるばかりだった。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
本作
「攻略！大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の発売が決まりました！
2022年12月2日の発売となります！
WEB版から描写を増やしたりシーンを追加したりした、いわばフルアーマースキルがポエミーとなっておりますのでぜひぜひ、お求めいただけますようよろしくお願いいたします！
現在サイン本の予約開始してますので、
作者てんたくろーのTwitter（@tentacle_claw）
もしくは
PASH!ブックス公式Twitter（@pashbooks）
をご確認くださいませ！
よろしくお願いいたします！
