戦慄!これが噂の伝道師!!
いろんな意味で仲睦まじい師弟関係は置いといて、ダンジョン探査を進めていく。
普段はスキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》の都合で一人で探査する俺なわけだけど、今回は宥さんと連携するコンビの形でモンスターとの戦闘に臨んでいた。
「ぎゃおおおおおおっ!」
「っ! 受けて──崩して飛ばす!」
B級モンスター・クライノドン──赤ん坊が泣き喚いているようにも聞こえる叫びをあげる、2mくらいのプテラノドンだ──の突進を、宥さんは真っ向から、右手で構えた大盾で受け止めた。
ただし瞬間的にだ。すぐさま盾の角度を変えて受け流し、敵の体勢を崩す。そしてすかさず左手の剣をクライノドンの翼に押し当て、身体全体で押しのけるように吹き飛ばす。
「公平様! よろしくおねがいします!」
「ナイスです、宥さん──!」
「ふぎゃあああああああ!?」
飛ばした先にて待ち構えるのは俺。宥さんが防御し、俺の攻撃にまで繋げてくれた、見事な動きだ。
これには応えないわけにはいかないだろう。体勢を崩したままこちらにやってくるモンスターにタイミングを合わせ、その首に腕を回してロックする。なんか久々だな、これを使うの!
腕で固めたクライノドンの首を起点に、思い切り体全体を持ち上げる!
「クライベイビー・ブレーンバスター!!」
「おぎゃああああああ!?」
泣き虫翼竜を、脳天から地面に叩きつける。垂直落下式ブレーンバスター、対クライノドンバージョンだ!
ダンジョン内に響く大きな振動、轟音。モンスター自身の重量もかなりのものだし、叩きつけた俺の力も相まって今の技はまさしく、一撃必殺級の威力を持つ。
「お、ぎゃ──」
「輪廻へ還るがいい……いつかまた、産声をあげる時のために」
当然のように粒子となって消えていくクライノドン。その魂が輪廻に還っていくのをコマンドプロンプトとしての感覚で把握しながらも、ひとまずこの部屋のモンスターもこれで片づいたなと息を吐く。
これでこのダンジョンの5部屋目、2階層目を攻略した。全部で9階層、38部屋もあるためまだまだ序盤だな。でも時間的には探査開始からまだ30分程度なので、相当速いペースなんじゃないだろうか?
やっぱりソロでやるより、誰かしらと組むほうが時間効率はよくなるんだなーと、改めて感じ入る俺ちゃん。
加えて今回は分かりやすく俺が攻撃役で宥さんが防御から連携の起点役だからね。明確に仕事が分担できているのでお互いやりやすいったらない。
喜色満面に駆け寄ってくる宥さんとハイタッチして、俺は彼女に労いの言葉をかけた。
「やりましたね、宥さん。タイミングバッチリなパリィでした、最高です!」
「公平様の存在あってこそです! あなた様以上に安心して敵を任せられる方なんて、この世にいませんもの!」
「そ、そうですか……それは、光栄です?」
探査者としての感想を、狂信者としての言葉で述べてくるから反応に困る。要するに俺相手だとやりやすいってことなんだろうけど、頻繁に救世主を讃える言葉で修飾してくるんだものなあ。
まあ、そこも今や宥さんの味といえば味だろう。戦闘中はさすがに探査者としてガチな仕事ぶりを発揮してくれるし、このくらいの迂遠な言い回しは全然気にしない。気にしないったら気にしない。
「お疲れさまですお二人とも。非常に安定した連携ができていますね」
「うーん、お見事! 望月さんはともかく山形さんはもう、C級のレベルじゃないねえ。なんでモンスター相手にブレンバスターかましたのかは、ちょっと謎だけど」
戦闘を見学していた香苗さんとエリスさんが、葵さんを伴ってこっちにやってくる。香苗さんは言わずもがな、ビデオカメラを回し続けているね。こっちもいつも通りすぎるよ。
S級探査者であるお二人からしても今の俺たちの戦い、連携の完成度は満足に足るものだったらしい。もっとも俺のプロレス技には首を傾げているあたり、エリスさんからしたら俺の戦闘スタイルは理解し難いのだろう。
ぶっちゃけプロレス技については、俺が好きなのとなんとなく出しやすいから出せるなら出してるって感じだからね。
特にダブルアーム・スープレックスは狙えるなら狙ってる節は正直ある。語感も技の体勢も派手でカッコよくて好きなんだよ、アレ。
「っていうか私より強いですよね山形くん。それで例の《風がどうたら荒野がなんたら》ってスキルは発動してないんですよね? え、ヤバ……」
引き攣った顔で俺に対してドン引き気味なのが葵さんだ。思っていた以上に強かった、ということなら光栄というか、ありがたい評ではあるんだけど……何もそんな引かなくてもって気はする。
そして《風さえ吹かない荒野を行くよ》ですしおすし。一応俺のスキルだしそこはツッコんどこうかなーって思った矢先、俺より先にツッコミを入れた方がいた。
「《風さえ吹かない荒野を行くよ》ですよ葵さんそこは救世主山形公平様を語る上で決して外してはいけない基本中の基本にして奥義の中の奥義ともいうべき知識です記念すべき救世主様のファーストスキルにして偉大かつ尊さに満ち溢れた世界救済の戦いの幕開けともなった究極のスキルとも言えましょう効果もソロ戦闘時全能力10倍というこれまでのありとあらゆるスキルを凌駕するまさしくこの世の救い主にのみ許された最高のスキルなのですおわかりですか《風さえ吹かない荒野を行くよ》です葵さん知らないものは仕方ないとして今この時より覚えておくことを伝道師としてはお勧めしたいところであります一緒に復唱しましょうか《風さえ吹かない荒野を行くよ》、ハイ」
そうだね、伝道師だね。
葵さん相手にも躊躇なく句読点を飛ばして伝道を始めた彼女に一同唖然。エリスさんまでえっ!? みたいな顔をしている。
いわんや直撃を食らった葵さんの動揺ぶりたるや。
「へ!? え、か、《風さえ吹かない荒野を行くよ》……?」
「ハイ、もう一度。リピートアフターミー《風さえ吹かない荒野を行くよ》」
「か、《風さえ吹かない荒野を行くよ》! ひええ〜、で、伝道してきてるー!?」
「これが噂の伝道師かあ。葵、ドンマイ! 人のスキルの名前忘れた君が失礼だからね、仕方ないよネ!」
ダンジョン内に悲鳴が響く。
師匠にも薄ら笑いで梯子を外され、哀れ葵さんは今後すっかり俺のスキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》を諳んじることができるようになったのでした。
南無。
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