(自称)ピチピチロリロリエリスちゃん(96)
翌日、朝9時を過ぎた頃。俺は神魔終焉結界を着込んで午前中から、ダンジョン探査に乗り出していた。
いくら倶楽部に狙われているかもしれないと言っても俺は探査者だ、日々の仕事はしっかりとこなしていかないとね。
今回挑戦しているダンジョンはB級。メンバーはいつもの香苗さんとあと宥さんも。
加えて護衛のエリスさんと葵さんもいて、合計5人のパーティとなっていた。
「倶楽部、ですか……モンスターを自在に操り密輸するだなんて、恐ろしい人たちがこの近くに潜んでいるんですね……」
「かの組織の幹部、青樹は私と救世主山形公平様を狙っています。余人に矛先を向ける可能性も考えられますので、使徒宥もどうか、身辺にはお気をつけて」
「承知しました。お気遣いに感謝します、伝道師香苗」
宥さんがいるということで、注意喚起の意味も込めて彼女にも今、この近辺でよからぬ企みをしているらしい倶楽部について香苗さんが説明していた。
これはもちろんエリスさんや葵さんにも許可を得てのことだ。能力者犯罪捜査官のライセンスを持たない探査者でも、スキルを使っての防御や逃走は当然許されているわけだし、となると身近な脅威についても知っておいてもらったほうがいいだろうとのことだった。
ちなみにこうした、倶楽部の現在判明している情報については早速WSOから公開され、全探組施設においても張り紙がされていた。
未だ暴力沙汰を起こしていないことから、今は単なる密輸組織程度の扱いだけど……場合によっては、これが武装勢力に変わってしまうのだろう。
そうなる前に幹部たちを捉え、倶楽部のアジトを抑えてもらいたいところだけれど、こればかりは俺にもどうにもできないからね。
いっそ因果律操作で、三幹部全員今すぐ俺の目の前に現われろ! ってできないか考えもしたけれど。残念ながらそのレベルで生物の思考や行動、それに伴う周囲の因果をまとめて操ると負担がかかりすぎるため断念した。
昨日の昼、ためしに近くの小鳥を俺の頭にちょこんと乗るようにアレコレ因果を弄った結果、大変な疲労につきその30分ほどダウンしてしまったんだよね。
この分だとたぶん、青樹さん一人の思考や行動の因果を少し弄るだけでも、即座にぶっ倒れるだろう。神魔終焉結界があってなお、しばらくの昏睡と寿命が縮むのは免れまい。
さやかちゃん先生の飲んだ酒量を減らすのとはわけが違うのだ。
その命が、生まれついてから今に至るまでに培ってきた思考や思想を改竄することで"これから起こすこと"を改変するなんて行為は、未来や過去も含め莫大な因果を操ることになる。ほとんど世界改変に近い行為だ。
ゆえにコマンドプロンプトとしての心や魂はともかくとして人間・山形公平の身体では事実上、不可能に近いだろうというのを実感する羽目になってしまった。
というわけでやはり俺個人としては、今回の件についてできることなんて青樹さんの説得と、各種バグスキルの無効化をするくらいなものなのだった。
「いやー、まさか火野やら青樹やらのバグスキルを無効化できるなんてね! 薄っすら話には聞いていたけどシャイニング山形さん、本当にとんでもない力を持ってるんだねえ。なんともはや、すさまじい話だよ」
「あくまで限定的なものですけどね。短期決戦であれば、間違いなく奴らはスキルを使って逃げることはできません」
その、バグスキルの無効についても俺はすでにエリスさんたちに伝えている。それゆえか、えらく感心したエリスさんからお褒めの言葉を頂戴してしまった。うれしい。
まあ、実際一時的なものでしかないけどね。バグスキルってそもそも本来はスキルじゃないから、通常のスキルを無効化するのとはまた話が別だし。
神魔終焉結界込みで言えば、一般的な探査者であればたぶん全スキルを丸一日封印し続けたって、俺の身体は問題ないだろう。
だけどバグスキル相手となると神経を使う羽目になるので、そのスキル一つだけに集中する形で、精々一時間ほど無効化できれば御の字ってところか。仮に三幹部全員のバグスキルをまとめて無効化するとなると、さらに時間制限は短くなると予想される。
「──ですから、仮に戦闘になった場合、なるべく早期に決着をつけていただけるとそれが一番助かりますね」
「そこは無論のことまかせてほしい。不甲斐なくともエリスさんてば能力者犯罪捜査官、そしてS級探査者。伊達に御年96歳のピチピチロリババアやってないってところをご覧に入れよう」
「どこで覚えたんですそんな言葉!?」
自信満々に実力の程を伺わせてくれるのは頼もしいけど、一部ネット民にしか通じなさそうなオタク用語を平然と使うこの人の知識の広さはなんなんだろう?
たしかに、一見若いけど実年齢はお婆さんという点ではその、そういう属性に当て嵌まるかもしれないけど……胸を張って自称する人をリアルで初めて見た。謎な感動。
葵さんが笑ってそんな俺に応える。
「師匠、日本のオタクカルチャー好きですもんね。ネットでよく、そういうコミュニティのサイトにアクセスしてますし」
「おいおいプライバシーを平然とバラすなよ葵くん。この歳になると友人知人はみんな空の上、アニメや漫画は無聊の慰めになってくれるから好きってだけだよ、ハッハッハー」
「その結果ロリなんたらを自称するようになったわけですか! いよっ年齢詐称の若作り! 肉体年齢18歳で自称ロリは大分キツイぞ! はっはっはー!」
「ハッハッハー、しばくぞ」
「怖ぁ……」
師匠も弟子もドストレートで殴り合っている。言葉で。
呑気なんだか剣呑なんだか分からない、奇妙な師弟関係を見て俺は3歩くらい、彼女たちから距離を置いた。
初投稿から概ね一年経ちましたー
いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたしますー!
ブックマークと評価のほうも引き続き、よろしくお願いいたしますー
【ご報告】
本作
「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」
2巻の発売が決まりました!
2022年12月2日の発売となります!
WEB版から描写を増やしたりシーンを追加したりした、いわばフルアーマースキルがポエミーとなっておりますのでぜひぜひ、お求めいただけますようよろしくお願いいたします!
現在サイン本の予約開始してますので、
作者てんたくろーのTwitter(@tentacle_claw)
もしくは
PASH!ブックス公式Twitter(@pashbooks)
をご確認くださいませ!
よろしくお願いいたします!




