山形優子、あともう少しで14歳!!
三幹部への俺やリーベの対応としては概ね、可能な範囲で周囲を警戒しつつ日常を過ごすし、襲ってきた時には俺の権能でバグスキルを封印してエリスさんと葵さんをサポートする、という方向となった。
後で捜査官のお二人にも伝えないとな……権能については説明が大変だけど、まあポエミースキルですって強弁すれば通るだろう。
名称から効果の想像がし辛いナチュラルステルスっぷりも案外役に立つ時が来るものなんだね。
はあーやれやれ、と抱きつくリーベを剥がして一人、ベッドに寝転び脱力する。まったく面倒な話になったもんだ。
いや、まあ普段の生活に変わりはないみたいだけどね。本当に大変なのはエリスさんと葵さん、それにヴァールやWSOの人達だ。決して俺や香苗さんのせいではないけど、なんだか申しわけない気分にはなるよね。
そう言えばマリーさんも、誰ぞかお知り合いを呼んでくださるって昨日、仰っていたなあ。誰だろう? あの人のことだし、本当に頼りになる凄腕を……それこそまたS級探査者を連れてきたっておかしくはない。
どんどんS級が結集しそうな予感に、ミーハー的ワクワクとことが大きくなり続けることへの気後れとを感じながらも。肺の空気をぜーんぶ外に吐き出す俺に、リーベが唐突に言った。
「そう言えば優子ちゃんのお誕生日、どうしますー?」
「へ?」
「8月2日でしょー? もうあと数日ですよー。物騒な話はそれはそれとして、日常のイベントも大切にしたいですしねー」
なんと。リーベの言葉にふと気づく。もう8月じゃん!
まあまあ濃厚なイベントがこの7月、目白押しだったからかそんなに時間の流れを早くには感じなかったけど。それでももう夏休みが残りたったの一ヶ月かよ〜。いやさそれより誕生日のことだよ。
我が愛しの妹、優子ちゃんの誕生日たる8月2日までもうあと、今日を入れて4日しかないじゃないか。もうそんな時期になるのかと、割とマジで驚く。
これは不覚だ、誕生日自体は覚えていたとはいえもう少し先のことだし〜みたいな感覚でいちゃったよ。危ない危ない、教えてくれたリーベには本気で感謝だ。
「い、イベントが例年に比べ多すぎて、時間感覚が微妙におかしくなってた……教えてくれてありがとう、リーベ」
「いえいえ〜! で、どうします誕生日プレゼント。略して誕プレ! 日頃の感謝の気持ち、気持ち!」
「誕プレなー、それなあ」
で、気づいたからにはやはり話に上がるのは誕プレについてだ。これがまた、去年までに比べていろいろと状況が変わったからなあ。
言うまでもない話だけど、去年の今頃俺は探査者ではなかった。非能力者であり一般人であり、なんなら受験勉強そっちのけで新作ゲームをアホみたいにやり込んでたら、お母上様にかつてなくキレられてベソをかいていたくらいだ。アホだ俺。
で、そんなだから妹ちゃんへの誕プレなんて本当にささやかなものしか渡してこなかった。
たしか去年はアロマのなんかあの、割り箸突っ立てる瓶みたいなやつで、一昨年はなんだっけ。えーとお菓子の詰め合わせとかだったと思う。
こんな適当な兄貴のいい加減な贈り物でも、なんやかや毎年笑顔で受け取ってくれた優子ちゃんの優しさは全精霊知能にも言いふらしてやりたいほどだ。天使より天使だぜ!
……まあ、そんな状況だった去年までですが。今年からは探査者になったこともあり、財政状況は潤うことこの上ないわけでして。
さすがにもうちょっとグレードアップした誕プレを、日頃の感謝とか、生まれてきてくれたことへの感謝を込めて用意してあげたいところではあるよね。
「ちなみにリーベは何を渡すつもりなんだ? プレゼント」
「かわいいかわいいリーベちゃんはー、ちょっとお高めのネックレスをご用意しましたー! これ、ナイショですよー?」
参考がてらリーベに尋ねてみたら、さすが女性同士と言うべきか、俺の頭には浮かんでなかった類の品が出てきた。
アクセサリーかあ。近頃の女の子は小学生からずいぶんときらびやかだし、そういうのもありなんだよな、たしかに。
でもネックレス以外のアクセサリーってなると、え、何があるかな。ティアラ? 王族かよ。イヤリングとか? それ以前にリーベと同じ方向性だとなんかこう、面白みはないよね。
となると……そうだ! 閃いた俺ちゃん! ガバッと身を起こしてリーベに言う。
「バッグだ! たしか優子、バッグを欲しがってたんだよ春頃に!」
「え? …………あー、ミハミハと初めて会った時ですねー」
そうそう、逢坂さんに初めて出会って、当時行方不明になっていた宥さん絡みで暴走してたのを宥めた帰りのことだ。
たしかにあの時優子ちゃんは、商店街にいい感じのバッグがあってそれが欲しい、みたいなことを言ってたんだよ。
つまりはそれをプレゼントすれば、誕生日の贈り物としては最高に近くなるんじゃないか? なんなら数ヶ月前のつぶやきを覚えていた兄の愛情深さも印象深くなり、妹ちゃんからの好感度もぐぐーん! とアップするのではなかろうか。
そうに違いない。いやそうでなくては。そうであろうよ!
「問題はそのバッグについて、俺はなんにも知らないってことなんだけどなー」
「そこはさりげな~くリーベちゃんが、聞いといてあげますよー! ふふ、欲しかったバッグを公平さんからプレゼントされるなんて……きっと優子ちゃん、すごーく嬉しがるとおもいますよー!」
すかさず助け舟を出してくれたリーベが、なんとも頼もしく見える。
彼女の頭を撫でて感謝を伝えつつも、俺は差し迫る優子ちゃんの誕生日に向け、勝利の確信を抱いていた。
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