封印!バグスキルは封印です!
倶楽部についての説明や、スレイブモンスターについての話は一応して、情報共有ってところもしっかりできたと思う。
となれば次は、リーベにやってもらいたいことがある。俺は彼女に頼み込んだ。
「基本的に、倶楽部周りのアレコレは能力者犯罪捜査官のエリスさんと葵さんが解決してくれると思うし、俺や香苗さんはいつもどおりに過ごしていいって言われたけど……備えは必要だと思うんだよ。特に身の回りのガード的な」
「まあ、過激な手段に出られても困りますもんねー。それこそこの家に直接攻め込んでくる、なんてのも最悪ありえますし」
「そうさせないためにも、WSO側が地域一帯に網を張ってくれているみたいだけどな。で、だリーベ」
基本、倶楽部自体は密輸以外の犯罪らしきことはあまり、している形跡がない組織のようだけど。青樹さんというとんでもない爆弾がいるからな、いつどんな形で暴発するとも限らない。
そうなると万一を考えてやはり、こちら側でも自衛策は練っておきたいところなんだよね。その点について、リーベに話す。
「万一があったら困るし、リーベももしもの時、うちの家族を護ってくれないか? お前の《空間転移》と《防御結界》、そして《医療光粉》があれば、大概の危機にも対応できる」
ズバリ、家族を護ってやってほしいってことだ。
俺も、日常生活に支障をきたさない程度にはみんなの傍にいるつもりだけど……どうしたって用事はあるし、近くにいられない事情だって出てくるだろう。
だからそんな時、リーベが代わりにいてくれると大助かりなんだ。攻撃系や転移系スキルはもちろんのこと、防御や治療系スキルまで網羅している彼女は、こと防衛力に関しては世界でも屈指と言っていい。
邪悪なる思念本体クラスでもない限り、リーベによる護りは決して崩せないだろう。
そんな彼女が家族や近隣の人達を護ってくれるなら、こんなに頼もしい話もない。そう思い、今回こうして頼んでみるわけだね。
「俺も、権能を使ってでもこの日常は護りきるつもりだ。でもどうしても手が届かない時はきっとある。だから、そんな時のフォローをお願いしたいんだ。頼めるか?」
「そんなの……そんなの当たり前ですよー! 公平さんのご家族はもう、私にとっても家族も同然なんですしー! そんなこと頼むまでもない話ですよ、水臭いー!」
俺のこうした願いに、リーベはすぐさま頷いてくれた。興奮して紅潮した顔で、隣の俺に抱きついてくる。
今日はよく抱きつかれる日だなあ。柔らかくて暖かくて、リーベは心だけじゃなくて体も温かいなあなんてことを漠然と考えつつパニクる。続けざまの抱擁は陰キャの心臓に悪いんだけど!
内心の動揺は隠し、抱きついてきた彼女に優しく問いかける。
「ありがとな……どうした? いきなり抱きついて」
「え。いえなんとなくこう……久しぶりに公平さんに、パートナーとして頼られたって喜びとかー、私にとっても日常になったこの日々を、なんとしても守ってみせるぞっていう使命感とかー。あと、やっぱりさっき早瀬さん? に抱きつかれてニヤニヤしてた公平さんがイラッときたのでついー」
「ニヤニヤしてませんけど! そういうこと言うの止めてほしいんですけど!」
いい感じの雰囲気が一気に台無しだよ! こいつ、本当にオモシロマスコットだわ。改めてコント適性の高さに驚く俺。
ま、まあとにかく。これでリーベという鉄壁の加護も得られた。彼女がいる限り、あらゆる災厄は一切の害を成せなくなることだろう。
ふう、と息を吐いてひとまず安心する。あとは俺の知り合いや友人とかも心配っちゃ心配なんだけど……そこまで気にしだしてもどうにもならない。
WSOのエージェントさん達や能力者犯罪捜査官の方々にある程度おまかせして、俺は俺で、エリスさんや葵さんに協力できるよう、三幹部への対策を考えようか。
つまるところ、バグスキルの封殺についてだね。意見を求めがてら、リーベにアレコレ説明する。
「青樹さんと火野老人は明らかにバグスキルを持っていた。青樹さんは名称不明ながら自身の実体の座標をずらすスキルで、火野老人は《玄武結界》というバリアと目晦ましを併せたようなスキルだ……目晦ましでよく見えなかったけど、たぶんあのバリアがなんらかのバグを引き起こした結果だと思う」
「そんなポンポンと、よくバグばっかり引き起こせますよねー、公平さんも含めてですけどー」
「ウッ……お、俺のビームは置いといてもらえます?」
バグスキル周りの話になると俺もなあ、人のこと言えないからなあ。戦闘面では明らかに便利で有用なスキル《あまねく命の明日のために》だけど、取得した経緯は個人的にかなりのやらかしエピソードだ。
よくもまあバグばっかり起こすよなって話は俺にも効いちゃうので、リーベにその辺の話はちょっと控えてもらうとして。俺は気を取り直して話を続けた。
「加えて三幹部のうちの誰か、まあたぶん翠川な気はしてるけど、空間転移系スキル。これら3つのバグスキルをどうにかしないことには、エリスさんや葵さんでも相手取るのは厳しいだろう」
「実体がそこにないスキルに、謎のバリアスキルに、謎の転移スキルですかー……どれを取っても厄介ですねー」
ものの見事に防御あるいは逃走に長けたスキルばかりなのが、倶楽部という組織の性質を物語っている気がしなくもないけど……
とにかくこれらのスキルを自在に使う幹部達は、たとえ戦闘で追い詰めても容易に逃走してしまえるだろう。それではエリスさんも葵さんもジリ貧だ、消耗戦を強いられるも同然だからな。
そこで、俺は考えたのだ。
「幹部戦の際は俺が因果を改変し、バグスキルを一時封印するしかないかなーって」
「まあ……手っ取り早くも最適解でしょうねー。システム側にしても、まず相手を無力化しないことにはスキルの剥奪なり改竄なりも行えませんしねー」
お二人を支援し、かつ明確に幹部達の逃げの手を潰せる手段で彼女達をフォローする。加えて俺自身はスキルを使うわけでなく、探査者として人に危害を加えるわけでもない。
すなわちコマンドプロンプトとしての権能を使用することこそが、今回の俺の役割なのだろうってね。
リーベもそこは同じことを考えていたみたいだ。システム側の事情も交えつつ俺の提案を、そこはかとなく肯定してくれていた。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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