でも女の人侍らせてるのは本当ですよね?(真顔)
まさかの抱擁から、能力者犯罪捜査官としての矜持と使命感を見せてくれた葵さんが、照れたように手を振りながら去っていく。
どうやら少し離れたところから、俺の護衛を継続するみたいだな。
ちなみに彼女、俺の家のすぐ近くにあるアパートの一室を急遽、借り受けたらしい。元々はエリスさんと一緒に駅前のホテルに宿泊していたみたいなんだけど、俺と香苗さんの護衛のためにそれぞれの家の近くに居を移すのだとか。
その辺はWSOが手配してくれているみたいだ。何から何まで迅速だよな、ソフィアさんもヴァールも。それだけ大変な事態が起ころうとしているということなんだろうけど、素人目からはすごいなーくらいのものだわ。
ま、何はともあれ帰宅だ帰宅。
玄関を開けて中に入る。いつもの調子でただいまーと言おうとして、俺はしかし眼前の光景にしばし、固まった。
「じー」
「じー」
廊下の先、居間の入り口から顔だけ出してこちらを見てくる女の子達。言うまでもなく優子ちゃんとリーベだね。
口に出してじー、とか言っちゃうあたりおふざけの空気しか感じないけど、そうなるとノりたくなるのが山形家の血よ。一体なんのつもりなのかは分からないけど、次第によってはコント開始も辞さない構えだ。
「…………ただいま。何してんの? 優子、リーベ」
「人の家の前で抱き合っていたバカップルの片割れを見てる」
「かわいいかわいいリーベちゃんというかわいいかわいい愛妻がいるにも関わらず他の女に走った浮気者を見てますー。ああリーベちゃんたら不憫ーよよよー」
「見てたのかよ! あれは違う、そして誰がバカップルの片割れだ誰が愛妻だ!」
というわけで尋ねてみると思いの外、ボケ倒してきやがった。ツッコミが追いつかない!
家の前でいきなり抱きつかれてるんだから、見られててもそりゃあおかしくないよね。とはいえバカップルなんてのは言いがかりもいいところだし、愛妻がどうのなんて事実無根なわけだけれども。
とりあえず靴を脱いで家にあがり、洗面所へ。手洗いうがいはしっかりしないとね。
その間も優子ちゃんもリーベも近づいてくるんだけど、なぜだか壁から顔だけだしてこちらを見てくる。完全に面白がっているなあ。
「ほら、話は居間でするからどいたどいた」
「きゃ〜! 兄貴がイケメンみたいなこと言ってる〜!」
「キャ〜! 公平さんがプレイボーイに〜!」
ふざけきった黄色い声は完全スルー。っていうかイケメンとかプレイボーイって、それはだいぶ解釈ズレてません? というツッコミもひとまず置いて居間へ向かう。
今日は父ちゃんも母ちゃんも仕事に行っていて、家にいるのはこの二人しかいない。あとアイか。
ギャーギャー囃し立てる二人とともに居間へ入ると、アイはソファの上で丸まってテレビを見ている。その前のテーブルにコップやらお菓子やらが置いてあるあたり、みんなでお気に入りの番組でも見てたんだろう。
とりあえずリビングの椅子に座って落ち着く俺。優子ちゃんもリーベもニヤニヤしたままテーブル挟んで向かいの席に座った。君らニヤニヤしすぎじゃない?
「で? 今度はどこの誰引っ掛けてきたの」
「この近辺じゃ見ない顔でしたねー。見た感じミッチーモッチーと同年代くらいでしたけど、また使徒ですかー?」
「引っ掛けてないし使徒でもない。お前ら人のことをなんだと思ってんの?」
「ハーレム救世主」
「意外と気の多い素敵な公平さん!」
「とっても無害で普通な山形くんだよう!!」
どうしても女たらしの山形くんにしたいのだろうか、この子達は。はあ、とため息を吐いて説明する。
倶楽部だのなんだのの話を、探査者でない家族に聞かせていいものかどうかの判別は今、俺にはつかない。その辺は後でエリスさんと葵さんに聞くことにして、今はちょっとぼかして話そう。
青樹さんにつけ狙われている哀れな俺ちゃんって感じでちょっと本当のことを交えて話すとするか。リーベにだけ後で、本当のところを伝えておこう。
「えーと、かくかくしかじかすってんころりん。とまあこんな次第で」
「香苗さんの元師匠が、いい年こいてガッツリグレちゃって……」
「ミッチーをグレの道に引きずり込もうと画策して、余波で公平さんも睨まれている……」
「そうそう。で、さっきの早瀬葵さんはおまわりさんの人で、グレた青樹さんから俺を護るために護衛してくれてるんだよ」
話をあれこれコンパクトにまとめた結果、壮絶にデフォルメした感はあるけれど概ねこんな感じだろう、実際。
青樹さんはぶっちゃけ思想面で拗らせてグレたようなもんだし、弟子の香苗さんも巻き込もうとして結果、とばっちりが俺のところに来てるのも事実だ。
葵さんが能力者犯罪捜査官という、いわばおまわりさんなのも本当で、俺の護衛なのも本当。つまりは倶楽部関係を伏せるとマジでこういう構図になるんだよね。
わあ、すごく話が簡単になったよ!
「兄ちゃん、大変だねえ」
「ミッチーの師匠ってもう結構な大人じゃないんですかー? なのにそんなことになってるんですねー……」
「まあなー。年齢をどうこう言う気はあんまりないけど、それでもちょっとなあ」
リーベの呆れたような反応につい同意する。青樹さんにしろ火野老人にしろ翠川にしろ、もういい大人だろうに何してるんだよってのはあるよね。
モンスターの密輸とか馬鹿なことしてないで、早急に罪を償って青樹さんと翠川には社会復帰していただいて、火野老人には今からでも正しい形の余生を過ごしてもらいたいよなあ。
ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー
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