探査者だらけの会場にモンスターを放てッ
そこからのエリスさんの動きは迅速だった。すぐさま電話でソフィアさんに連絡して、俺が件の式典にゲストとして参加できるよう、手配したのだ。
俺と香苗さん、葵さんが見守るなか。全探組の談話室内でS級探査者であるエリスさんが、WSO統括理事のソフィアさんに電話してあれこれ話をしているわけだね。なかなか、よく考えると意味の分からない光景ではある。
「──立場なんてなんでもいいでしょう? 御堂さんの相方でも助手でも弟子でも、あるいは救世主でもなんたらいう新興宗教の象徴でも。当の御堂さん本人とあなたとマリーと、あとS級として私も名前を出して推せば捩じ込めますよ」
『う、うーん……そうねえ。全探組の方々や日本政府は嫌がりそうだけど、いけるかもしれないわね』
S級探査者認定式に俺を参加させるにあたり、その立場というか肩書は一番の問題だ。要人だけ集めて行う類の式典に、社会的には単なるC級探査者兼学生が混ざるってんだから、そりゃソフィアさんも若干渋り気味にもなるよね。
ただ、そこに関してはエリスさんが大分、押せ押せでアレコレ提案している。相当強気な姿勢で、ソフィアさんが懸念するところの全探組やら政府やらからの反発なんてどこ吹く風、どころか真っ向から叩き潰してやれってくらいの勢いで話を進めている。
「その辺は素直に倶楽部っていう、この国の探査者達の一部がやらかしてる見本みたいな連中について説明しとけばだんまり決め込みますよ。下手すると痛くもない腹を探られることになりかねないんですから、何も言えないでしょ」
『ら、乱暴ねえ』
「下手するとこの国の、全体とは言わずともいくらかの地域が危機に晒される可能性だってあるんですから。本音を言えばそんな式典なんて延期なり中止にさせればいいとまで思っているのを、譲歩しているのは我々能力者犯罪捜査官側だということはご理解いただきたいですね、向こう方にも」
「怖ぁ……」
「師匠、相変わらずドストレートにゴリ押しますねえ」
すさまじく強引な理論に、電話越しのソフィアさんも俺も香苗さんも、なんなら弟子の葵さんさえもちょっと引き気味だ。普段は飄々としているエリスさんだけど、交渉事になると相当強気に出る人なんだな。
ただまあ、彼女の言ってる理屈自体は真っ当なのだ。モンスターを率いての一斉蜂起を画策している疑いのある組織を前に、エリスさんの立場からすれば悠長に式典なんてやってるんじゃないよって思うのは分かる話だし。
なし崩し的に首都圏に行くことになりそうな俺だって、明らか場違いなのが分かっているのにそんな式典に出向かなきゃならないわけで。
本音を言えば倶楽部関係の話が落着するまで延期とか、してくれないかなあ……などとつい思ってしまうのは仕方のないところだと思う。
『うーん。まあ、分かりました。山形様にも関わることですから、なんとかそれで通してみせます。事情を説明しつつ御堂様のパートナーという形に落ち着けば、どうにか一人であれば参加も叶いましょう』
「助かります。これで万一、倶楽部が仕掛けてくるにしても、こちらも事前に迎撃準備を整えやすい」
結局、俺が絡んでいるからという忖度っぽい動機もあり、なんとかエリスさんの要求をほぼ完全に呑む形でソフィアさんは式典への参加についてを了承した。
交渉って、意気の強いほうが勝つんだなあ。ある種の真理を改めて見せつけられた気分だ。とはいえソフィアさんもこれだけは言わねばならないと、電話の向こうから少しばかりの圧力を滲ませてエリスさんへと言った。
『……式典の場で戦闘だけはしないように。会場には非能力者も多く、そのほとんどが国の要人です。絶対に、彼らを危険に晒してはいけません』
「もちろん。奴さんらには式典会場の土すら踏ませずご退場願いますとも、ハッハッハー」
『もう……信じていますよ、エリス・モリガナ』
それだけ告げて電話は切れたらしい。エリスさんがスマホをポケットにしまいながら、軽いノリの笑みを浮かべた。
さっきまでゴリ押し交渉を仕掛けていたとは思えないほど気の抜けた脱力した感じの笑顔だ。あまつさえピースサインなんて俺達に見せてくる。この人すごいな……
「はい。というわけで山形さんもめでたく御堂香苗氏S級探査者認定式に参加することが決まりましたー、イェ~イ」
「いぇ~い! おめでとーございまーす!」
「は、はあ。どうも……」
正直大して嬉しくもないというか、お偉いさん方の群れの中に一人、パンピーが放り込まれることが確定したわけなのでむしろつらい。
本当にことが解決するまで、俺と香苗さんを近場に置くつもりしてるのか。別に式典参加まではいいんじゃないかって思うんだけど、まあそこは後の祭りか。
遠い目をする俺に、エリスさんはくすくす笑って言った。
「いやあ、振り回す形になっちゃってごめんよ。でもま、仮に連中が首都圏に行く君らを追いかけてくるにしても、式典で何か起きるってことはないさ」
「あー。明らかに地雷ですもんねー。もしそのタイミングで襲ってきたりしたら、私お腹抱えて笑っちゃいますよ」
やけにリラックスした様子で、自信満々に断言するエリスさん。葵さんは理解しているのか、相変わらず軽い口調で反応している。
いや、むしろ要人だらけのパーティーって格好の標的だと思うんだけど、そこんとこどうなんだろう? 思わず尋ねる。
「ええと……その根拠は?」
「簡単簡単。式典は要人だらけで、当然SPだの警察だの護衛はわんさかいらっしゃる。WSOのガードマンに全探組の雇われ護衛探査者、ダンジョン聖教が誇る騎士団もいるし──」
「なんならS級探査者も、御堂さんと師匠を入れて少なくとも4人、現役がその場にいますしね。要するに探査者だらけで、そんなところにいくら自在に操れるモンスター連れて来たって返り討ち確定ってことですよ」
「あ、ああ〜……」
倶楽部が行動を起こすなら、おそらくモンスターで量を補って攻めてくるだろう。横の繋がりのほとんどない、愚連隊みたいな連中らしいからな。
となると、なるほどたしかに探査者が山と集まる会場なんて、いくらモンスターを突っ込んでも完全に返り討ちに遭って終わるだけだわな。
本日からまたお昼にも投稿します、よろしくお願いいたしますー
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