夢みたいな目標を持つから、過激なことしかやらなくなるんですよ
「モンスターを操ったり意のままにするスキルなんて、この世にないはずです。一体どうやって?」
モンスターを使役する方法を確立したと思しき、恐るべき犯罪組織・倶楽部。
何よりもどうやってそんなことができるのか、あらゆる点で疑問に思うしかない俺はついついエリスさんに尋ねる。返ってきたのは、飄々としつつも難しげな表情と言葉だ。
「いやー、そこがまだ分からないんだよね。これまで入手した記録や資料を見るにやつら、"エサ"という名目で何かをかなりの量、どこかの組織と取り引きしているからそれを使ってるんじゃないかと思われるけど。詳しいことははっきりとは分かっていないんだ」
「エサ……? 餌ってことは、何かをモンスターに食わせて使役している可能性も」
「ありえる話だねえ。まあ、その辺は青樹や火野、翠川を締め上げて聞き出したいところだよ」
なるほど。モンスター使役のギミックについて調べる意味でも、青樹さん達三幹部を追うことは重要事項なわけか。
あるいはヴァールやリーベなら何か、思い当たる節があったりするだろうか? その辺、一度聞いてみてもいいかもね。
「不幸中の幸いというべきか、その手の支配されたモンスター達、通称スレイブモンスターはそこまで拡散していないだろうと予測できている。数十年にわたり密売されたスレイブモンスター達は大半が、私達や他の能力者犯罪捜査官達の手によって駆逐されたと見ていい」
「数を絞ってスレイブモンスターを売買していた、ということですか?」
スレイブモンスターが世界中の裏ルートに乗って、能力者ですらない組織や個人に売り飛ばされていた。考えただけでも背筋の凍る話だ。
単なる好事家相手ならまだいい。犯罪組織などが手にしたら、下手な重火器よりもなお脅威的な生物兵器として運用されてしまうことは火を見るより明らかなことだ。
もっともエリスさん曰く、そうした売買されたモンスター達はそのほとんどが討伐されたとのことだけれど。
どうも倶楽部側もそこまで多くバラ撒く真似はしていなかったってのが微妙に引っかかるところで、同じく疑問を抱いた香苗さんが質問をしていた。
葵さんがそれに対して答える。
「それもあるみたいですが、取り調べに応じた好事家の話だとそもそも、モンスターを一体手懐けるためにも手間がかかるんだとか。倶楽部の売人がぼやいていたそうです」
「別の犯罪組織から押収した資料にも似たような記録は残されていた。そこから捜査を進めた結果、年間20体前後が密輸ルートに流されていることが発覚したんだよ」
「過去20年で総計400体くらいですか。そう考えると、とんでもない数ですね……」
一年に20体前後という数を、多いと見るか少ないと見るかは人によって分かれると思う。ただ俺としては、そもそも1体だってそんなモンスターがいることを許容したくないので、相当な数だなと見るしかない。
まして倶楽部が最低でも20年は活動していることを考えると累計400体、人の意志によって操ってしまえるモンスターが世界中にばら撒かれたことになる。
思わず頭を抑えたくなる事実だ。額を指で押さえる俺に、エリスさんはまあまあと宥めるように言ってくれた。
「そこも、我々捜査官がこの10年で350体近く探し出して討伐しているから。だからまあ、やっぱり大半は仕留めているってことでそこはポジティブに捉えていきたいね」
「それに今回、ついに幹部格を3人も捕捉できましたから! 一気に倶楽部そのものを壊滅させるとまではいかないにしろ、うまく行けばスレイブモンスターの製造法から密輸ルートの摘発までトントン拍子にいきますよ!」
「……そう、ですね。そうあることを願います」
前向きに展望を語る葵さんにも励まされ、俺は笑い返した。そうだ、状況は断じて最悪じゃない。
誰も知らない闇の奥深くで蠢いていた陰謀を、捜し、暴き、そして立ち向かっているこの人達がいるんだ。能力者犯罪捜査官……人間は、自分達の闇にも負けない光を備えてくれている。
そのことがなんだか嬉しくて、俺は静かに頷いた。
「それじゃ気を取り直してもう一つお聞きしたいんですけど、倶楽部は何を目的にそんな、スレイブモンスターを売り捌く真似を? 青樹さんは時代を変えるとかなんとか言ってましたが」
「ああ、そこはね……まあ要するに真人類優生思想社会の実現だよ。あいつらはこの世を、探査者が支配する社会に変えたいんだ」
「たとえ力づくでも、ですね。そのための資金稼ぎにモンスターを密輸しているというのは、捜査上で明らかになっています」
「…………やはりですか」
青樹さんが幹部をしているんだから、半ば分かっていたけれど。実際に提示された答えはかなり重く、深刻なものだった。
真人類優生思想社会の実現。探査者がこの世の支配者階級として君臨し、能力者でない人々を従え、支配する世界の構築。それを、倶楽部は狙っているのか。
既存の社会に対して、民主的かつ合法的な手段でそうした目的を達成させるための働きかけ──たとえば選挙に出るとか、探査者の地位向上を訴える団体を立ち上げるとか──をすっ飛ばしての、いきなり裏社会での暗躍。
真人類優生思想は実際、世間一般的には異端な思想として認知されているからだろう。ハナから穏当な手段を諦め、極端に過激な手段によって理想の実現を目論んでいるのかもしれないな、倶楽部や青樹さんは。
「倶楽部は恐らく、自分達の戦力としてのスレイブモンスターを相当数、保持しているものと思われる。年間20体ってのはあくまで密輸ルートに流れる個体数であって、実際奴らが一年のうち、どれだけの数のモンスターをテイムできるかはさすがに不明瞭だからね」
「加えて密輸によって稼いだ資金で武装化を進め、時が来れば一斉蜂起を画策している……なんて可能性もあります。過去のモンスターハザードも大体、社会に対してモンスターをけしかけると同時に蜂起していましたから」
「つまり……第八次モンスターハザードの勃発。ということですね」
頷くエリスさんと葵さん。
これはまた、大事になってきたぞ……
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