6人いる!
香苗さんと組合本部を出て、急ぎ湖へと向かう。彼女の車で飛ばして30分、到着。
国内有数の広さを誇る、うちの県の目玉みたいな湖が広がる。ほとんど海だ。湖だけど。
のんびりしている余裕も今回はなく、急ぎ資料にて記載されているダンジョンへ向かう。既に組合の職員が何十人もいて、周囲を警戒しつつ封鎖状態を作っていた。
完全に緊迫した状況だ。職員の皆さんへの挨拶もそこそこに、さっそくダンジョン探査を開始する。
湖岸沿いにぽっかり空いた穴は不思議と波寄せる水を飲み込むことなく、ただ穴として存在している。資料では2階層、10部屋構成とのことだ。おそらく探査者たちは最奥にまで逃げ込んでいるだろう。急いで進まなければ。
「サポート……必要ないかもしれませんが。と、生きていた場合の探査者たちの保護と誘導は私が行います。公平くんは思う存分、その力を発揮してください」
「ありがとうございます、香苗さん」
俺の、ソロ戦闘専用スキルを考慮して完全なるサポート体制に移ってくれる香苗さんへ、俺は感謝の念を伝える。
本当にありがたい話だ。こちらの事情を把握して、なおかつ協力を惜しみなくしてくれる。この上なく最高のサポーターだ、この人は。
「ですが約束してください、無理だけはしないと。目的は探査者たちの保護なのです。彼らがもし、残念ながら既に手遅れだった場合、即座に離脱します。保護どころかこちらが危ないと判断しても同様です。冷酷ですが、見捨てます」
「当然の判断です。情報を持ち帰ること、それも俺たちの役目ですから」
「……よろしい。それでは行きましょう」
あえて冷たい物言いすらして、俺の無理を諌めてくれる。
そんな彼女に誠心誠意、頷きながらも俺たちは地下へと潜っていった。
さすがに今回ばかりはスマホ片手ではない。彼女にとっても、それだけ危険な探査だということだ。
湖岸ダンジョン、とでも呼称しようか。湖近くにできていることからかそのダンジョンは、通常のそれとは少し異なり、床、壁の土が湿り気を帯びていた。
半ば泥みたいなものだ。指先で壁に触れると、ぬちゃりとした感触と共にいくらか土が付着する。足元も同様だ。
これで足場がどうこうなることはないみたいだが、いつもと勝手が違う部分はあるかもしれない。用心しながら進もう。
一部屋目に入る。既にそこには、アンデッドモンスターが何体かいた。
「かたかたかたかたかたかたかたかた」
「邪魔ァ!!」
骨組みだけの人型がこっちへ来るのを、矢継ぎ早に拳で殴る。あばら、肩、頭。打てばその度砕けていく骨。脆い。
E級モンスター、スケルトンだ。
難なく打破し、次の部屋へ。そこにもスケルトン。さらに次の部屋にもスケルトンがいて、そのすべてを俺は拳一つで粉砕していった。
「スケルトンばかり……」
「おそらくは亡命先がE級だったからでしょうね。手駒を揃えるにも、グールやゾンビは生み出せなかったと」
「手勢どもは弱いってことですね。不幸中の幸いです」
運悪くも襲撃にあった探査者たちも、ここに潜ったからにはE級以上の探査者だろう。であれば、スケルトンなだけまだ生存の目はあるのかもしれない。
兎にも角にも先へと進む。階層を下り地下二階、4部屋目だ。
そこで俺の称号効果、気配感知──人間相手のそれが効果を発揮した。1km圏内に入ったのだろう、人の気配を察知したのだ。
全部でひい、ふう、みい……6名。6つの人間の気配がある。
「……6つだって?」
「公平くん、どうしました?」
「探査者たちの気配を感知しました。6人います……広瀬さんの話だとたしか、5人でしたよね。パーティ」
俺の言葉に、香苗さんは奇妙さを察して考え込んだ。
広瀬さん、というか組合の情報が間違っているとは思わない。ダンジョン探査の際には必ず何人で、どこのダンジョンに潜るかを事前、事後両方で報告するのだ。齟齬が生じるとも思えない。
だけど、じゃあ、この一人余ってるのは誰だ?
気配は一つに固まっている。モンスターの気配も近くにあることから、既に戦闘に入っているのだろう。
……今は悩む暇はない、進まなくては!
「詳しくは合流してからにします! 彼らは既に戦っています、行きましょう!」
「了解です!」
まずは辿り着くこと、そこから考える!
怒涛の勢いで最深部を目指す。5部屋目、6部屋目、7部屋目、8部屋目……進めば進むほどにスケルトンの数が多くなっていくが、俺は衝撃波で軒並み吹き飛ばしていく。
9部屋目──見えてきた、探査者たち!
俺は渾身の力を込めて、正拳を連打した。放たれる衝撃波が波うねるようなスケルトンの群れを打ち砕き、道を拓く。
繋がった! 香苗さんと共に全力疾走し、ついに探査者たちの元へとたどり着いた。
「助けに来ました! 無事ですか!」
「来てくれたぁ!! 助かりまぁす!!」
リーダーらしい、若い男の人が涙ながらに叫んだ。他のメンバーと共にスケルトンたちをどうにか押し留めていたのを、俺の衝撃波で軍勢が減り、何とか態勢を整えている。
これは……だいぶギリギリだったな。他の探査者たちも疲労困憊しており、顔色が悪い。
にしても女の人ばかりだ、リーダーの趣味か? 俺より年下っぽいのまでいるじゃないか。
「…………って、逢坂さん!?」
「ぁ……え、え。こ、公平さん?!」
まさか、まさかのところで。
こないだしょんぼりして帰っていったF級探査者、逢坂美晴さんがそこにいたのだ。
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