不老×戦いの日々×約80年=エリスパワーキンジラレタチカラ
話が倶楽部のほうに寄っていったので、ここからはエリスさんによる、これまでの経緯についての説明を聞く運びとなった。
驚くべきことに彼女は78年前、第二次モンスターハザードを解決して以来ずっと、表舞台に出ることはせずに世界各地を巡り、能力者犯罪組織を潰して回っていたらしい。
「いいのか悪いのか、《不老》なんてスキルを獲得してしまったからね。WSOの統括理事としていろいろ忙しいソフィアさんとヴァールさんに代わり、世界の裏で潜む悪どもを人知れず、成敗してきたんだよ」
「《不老》とはまた、なんとも……そのようなスキルがあるのですか? 公平くん」
「バグスキルですけどね、確実に。本来あるべき現象じゃないですから」
「獲得した時、なんか特殊な条件を満たしたとかなんとかアナウンスされた記憶はあるね。ヴァールさんにもバグがどうの言われたよ」
大ダンジョン時代のほとんどの時を、老いることなく戦い続けてきたその来歴もさることながら、やはりここで一番気になるのはスキル《不老》だろう。
これに関しては間違いなくバグスキルだ。かつてエリスさんはなんらかの行動の末、本来この世界にあるはずのない異常な挙動を起こしてしまったのだろう。それがスキルという枠組みに落とし込まれ、彼女は年を取らなくなった。
こういう、肉体年齢を停止させる系のバグってのはそれこそ500年前以前からチラホラあったからなあ。
あらゆる命に関わる部分の仕組みだから、割といろんな手段で仕様外の挙動を引き起こされがちなんだよね。
スキルとかなかった頃には、そういうふうになっちゃった者たちってのは概念領域に連れて行かれ、いわゆる仙人だとか道士だとか超人みたいな、概念存在のお仲間みたいな形として扱われて現世を去ることで措置がなされたわけだけど……
大ダンジョン時代にあってはスキルの形で落とし込むことで、前よりかはマイルドな措置にしても問題ないようだ。
「あ、これちなみに私の最新のステータスね。《不老》だけは表沙汰にできないから記載してないけど、他はありのままのエリス・モリガナさんだよ。どうぞー」
「せっかくなんで名刺がわりに、私のステータスもドゾー」
まあ《不老》について公にできないのは当たり前だよな。そういうのに興味がある人たちに、何をされるかしれたもんじゃないし。表舞台に出てこないのも、その辺が関係しているのは容易に想像がつくことだ。
エリスさんの不老体質に思いを馳せつつも、俺と香苗さんは彼女と、あとついでとばかりに提示された葵さんの探査者証明書を拝見した。
名前 エリス・モリガナ レベル1692 S級
称号 元聖女
スキル
名称 念動力
名称 気配感知
名称 環境適応
名前 早瀬葵 レベル541 A級
称号 韋駄天
スキル
名称 雷魔導
名称 気配感知
名称 槍術
名称 俊足
「シンプルだろう? でもね人間なんて、こんなもんくらいがちょうどいいんだなあーとかなんとか言っちゃったりなんかしちゃったりして。ハッハッハー」
「実質《念動力》だけなのに信じられないくらい強いんですよ、うちの師匠は。さすがですよねはっはっはー!」
本人が言うように、恐ろしくシンプルな構成のステータスだ。最低限度のものしか揃っていないけど、葵さんが言うにはそれでもとてつもない強さだとか。
まあ、80年も戦い続けてきたその実力はレベルにも現れている。あのマリーさんさえ超えるんだから、まさにS級探査者のなかでもトップ層の実力を誇るのだろう。
自慢気に師を語る葵さんのほうも、これまた素晴らしい強さだ。レベル自体はA級の中でも中位から上位の間というくらいだが《雷魔導》を中心に、武器の三叉槍を活かせるような《槍術》、《俊足》も併せて纏まった印象のステータスとなっている。
さすが師匠が師匠なだけはある、ということだろう。感心しつつもお二人の探査者証明書を見ていると、香苗さんが同じS級ゆえだろう、エリスさんへと疑問を呈した。
「すさまじいですね……しかしこれほどの実力を持つS級探査者の名を、これまで一度も聞いたことがないというのは不思議な話に思えてきます」
「ん、ああ。まーそこはね、表舞台には出ないからさ。探査者名鑑とかの記録にも名前を載せないよう、WSO側に取り計らってもらってるし。そもそもS級になったのもまだ、30年くらい前の話だからねえ。それなりな立場が入用になったからってヴァールさんに与えられちゃった」
「30年前でまだ、ですかぁ……」
不老長寿者にありがちな時間感覚の緩さというか、認識がマクロな感じがして興味深いな、エリスさん。
そしてS級という立ち位置も、必要に迫られて獲得したものなのでそこまで頓着していないのも、いかにも現世社会の物差しでは計れない感じがする人だね。
「とまあ、そんな感じで不老な私は、さっきも言ったとおり世界各地で暗躍してきたいろんな犯罪探査者たちを取り締まってきたんだけど……倶楽部は今、私が受け持っている最新の組織になる」
そんなエリスさんのお力と簡単な来歴はそこそこにして、いよいよ彼女は本題に触れ始めた。
なんでそんな話から始めたのかというと、倶楽部ってのが彼女のそうした経歴と、ある種繋がりがあるからだという。
「倶楽部の成立自体は最近のこと、なんだけどね……前身となった組織があってさ。これまでにも度々、モンスターハザードを引き起こしてきた組織の下位組織って形になるんだよね、実は」
「それって、前にヴァールから聞いたことがあります。たしか……委員会、でしたっけ」
俺の言葉に、エリスさんは無言のまま頷いて肯定した。
委員会。過去に幾度となくモンスターハザードを引き起こしたとされる、大ダンジョン時代の闇を象徴するかのような組織。
青樹さんの所属する倶楽部は、その組織の傘下に位置するというのか。
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