食レポ聖女の独り言は多い
ひとまずの危機も脱したし、何より心強い仲間が増えた。エリスさんと葵さんという、揃って能力者犯罪捜査官であり対犯罪能力者に関するエキスパートのお二人だ。
倶楽部に目をつけられることとなってしまった俺や香苗さんを、その周囲も含めこのお二方が警護してくださるのだから、ヴァールやマリーさんともども頼もしいったらないよね。
「ま、それはさておいてそろそろ祭に戻ろうかえ、みんな。もうちょいしたら、花火も打ち上がる頃だろうからねえ」
弛緩した空気の中、マリーさんが口火を切った。
言われてスマホで時計を確認するともう、19時前。たしか19時半には花火が打ち上がり始めるって話だし、たしかにもうちょいと言えばもうちょいだ。
なんだかとんでもない目に遭ったと、今更ながらゲッソリした気持ちになるけど。まあ、今日のところは気分よく花火を見られそうで何よりってところかな。
「それじゃあ公園に戻りますか。俺はクラスのみんなのところに戻りますけど、マリーさんたちはリーベたちのところに?」
「まあね。嬢ちゃんらに合流する前に、久しぶりにエリス先輩のツラでも拝んどこうかと思って4人集まった矢先、先輩が青樹の存在を感知したからねえ」
「え……存在を感知、ですか?」
目を丸くする俺に、マリーさんはにこやかに頷く。
青樹さんの気配なりなんなりを感知したと言うなら、スキルだろうか? いやでも、さっきまでこの神社には《遮断結界》らしき、認識を阻害するタイプの結界が張られていた。
アレもおそらくはスキルなんだろうけど、それを無効化して青樹さんの気配を感じ取ったということなのかな。
エリスさんを見る。クールというか若干、ぼけーっとしてる様子の彼女はけれど、苦笑いして両手をぷらぷらと振って答えてくれた。
「大仰だなあ、マリー……《遮断結界》はそもそも希少な結界系スキルだし、加えて青樹の十八番のスキルだって捜査資料にも挙がってたからね。あいつを捕まえにここまで来た時点で、それなりに意識はしていたから気づくのは容易だったわけ」
「なるほど……スキルから逆算したんですね」
「そゆことー。普通の探査者ならまず、結界の存在そのものに感づくこともできないだろうけど、ここにいるのは葵含めて凄腕ばかりだからね。こればかりは青樹たちも大誤算だったろう、ハッハッハー」
笑いつつの軽妙な言動とは裏腹に結構、鋭い勘とある程度の理屈で助けに入ってくれたんだな、エリスさんたち。
《遮断結界》が青樹さんの十八番のスキルだってのは知らなかったけど、そういうことなら納得もいく。
あのスキル、結界系スキルの中でもさらに相当なレアものだからね。そんな結界が張られているとなればエリスさんの立場上、まず彼女がそこにいるんじゃないかという可能性を抱くよなあ。
青樹さんを直接感知したのでなく、彼女が持つ希少なスキルが展開されていたので存在を予測した、と。納得の理屈だ。
もっと言えば、この場にいるメンツ全員があの結界の違和感に気づけたってのが、さすがすぎてそこも感心するのだけれど……とりわけ葵さんが、やたらめったらと有頂天になって三叉槍を振り回していた。
「師匠に褒められたー嬉しー! はっはっはー!」
「そ、そうなんですね……」
「相変わらずトンチキなノリの師弟だねえ」
「エリスに影響されすぎだ、葵……さて、こうしていても仕方あるまい。とりあえず各々、移動するか」
見た目、エリスさんより歳上だけどはしゃぐ姿はむしろ年下にすら見える。そんな葵さんにそれぞれ苦笑しながらも、俺たちは夜祭に戻ることにした。
元々参加していないエリスさんと葵さんはここでお別れだ。そもそも完全武装だからね、この人たち。特に葵さんの巨大三叉槍の目立つことといったらこの上ない。
人でごった返す中をそんなもの背負って歩いてると、下手すると怪我人が出るということもあり、お二人は拠点に戻るとのことだった。
俺と連絡先を交換しつつもエリスさんが言った。
「今日のところは引き上げるけど、明日から早速、私と葵が山形さんと御堂さんの護衛に回るよ。細かい話はヴァールさんなりソフィアさんなりから聞くといいかな」
「いやー今をときめく救世主と伝道師コンビに密着できるなんて光栄です! よろしくおねがいしますね、山形くん!」
「ははは……こ、こちらこそよろしくおねがいします」
師弟揃っての護衛。何もなければいいんだけど、何か起きそうな気配もある以上、お二人のお力添えは非常にありがたい。
互いによろしくと言い合って、いよいよ解散となるわけだけど……その前に俺から、ごく個人的なことだけどエリスさんに対して言いたいことがあった。
彼女を呼び止める。
「あ、そうだ。すみませんエリスさん。今日のお昼、湖岸沿いの定食屋でカツ丼食べてました? もしかして」
「…………えっ。えっ? え、なんで知ってるの、ストーカー?」
「まさか! あそこの近くのダンジョンに潜る前に寄ったらあなたがいたんですよ。まさかこんな形で知り合うなんて思いませんでした」
「そ、そう……それは、どうも……」
俺の言葉に、エリスさんはすっかり顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。というか、周りの人に気づかないくらい食レポに没頭してたのか。さすがだなあ。
彼女の食レポのおかげで俺は、今日の昼食を大変満足して過ごせたのだ。食べ盛り山形くんとしては、機会があったらあの食レポさんに感謝を告げたいところだったんだよ。
そんな折にまさかのこの展開だ。俺の言うことじゃないけど、運命ってあるんだなあ。
感動しながらも俺は続けた。
「見事な食レポに思わず俺もカツ丼頼みましたよ。美味しかったです、ありがとうございました」
「食レポ……き、聞かれてたのか、あの独り言」
「またやったんですか師匠? 相変わらず独り言の多い人ですねえ」
「と、歳を取ると独り言がしたくなるものなんだよ。ヴァールさんなら分かりますよね?」
「分からん」
にべもない言葉に、その場に崩れ落ちて両手で顔を覆うエリスさん。いつもやってるんだな、食レポ……基本、独り言の多い人らしい。
弟子に呆れられる彼女に、俺はそんな感想を抱いた。
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