神社「やめて!私の中で争わないで!(悲痛)」
4:48追記
4時頃から今にかけて、間違えて次話予約投稿分を差し替えてしまっていました
現在は対処済みです。失礼しました。
「退くぞ青樹、翠川」
今にも戦端が開かれそうな空気を、火野老人の声が制止した。いきなりの退却宣言に、向こう側の青樹さんと翠川はむろんのこと、こちら側のヴァール、モリガナさん、早瀬さんも驚きに身をたじろがせている。
かくいう俺も思わず、マリーさんと顔を見合わせていた。そして老翁を見る。モリガナさんの存在に著しく昂ぶっていた姿もどこへやら、彼はすっかり冷静さを取り戻していた。
「青樹はそこな山形公平と交渉しにここへ来た。儂と翠川はそんな青樹を引き戻しに来ただけ。この状況を承知の上で来たのでは断じてない……想定外の事態じゃ。となれば逃げの一手を打つのみ」
「ちょっとくらい手傷を負わせてからでもいいんじゃねえか? それともそれさえできねえってのか、俺らにゃ」
「山形公平のみならばそれこそ、足腕の一本程度は折れたろうがな。加勢が来よった時点でもう無理じゃ、諦めい」
不服として言い募る翠川をバッサリと論破し、やはり退却を命じる火野。冷静だな……想定外が起きた時点で逃げを打つか。
青樹さんも相当不満そうにしているが、表情は大分険しいので、置かれた状況の拙さは分かっているのだろう。つまるところ翠川がこの場において一番、現状把握ができていないことになる。
実力的には火野と青樹さんが一枚上手で、翠川はさほどでもないのか?
やり取りから伺える微かな情報を頼りに、敵の分析を進める俺。そんな時、隣のマリーさんが小声で話しかけてきた。
「雁首揃えて節穴さねぇ、あの3人。公平ちゃん一人なら? 足腕の一本でも? ファファファ、老いぼれには笑い死にもののジョークさね。だろう、公平ちゃん」
「え……と。向こうの実力が不明ですから。俺としては危ない目に遭わなくて済みそうで助かりますけど」
「何言ってんだか、邪悪なる思念を倒しきった子が。大体あんた、私らが間に合わなかった場合一人であいつらを制圧するつもりだったんじゃないかえ? あんな物騒な連中、まんまと逃がす公平ちゃんじゃないからねえ。ファファファファ!」
うーん、見抜かれてる。
マリーさんの言うように、仮にこの人たちが来てくれないままだったらたぶん、俺は前科持ちになることを覚悟で青樹さんたち3人を捕縛するつもりでいた。
スキル保持者同士で戦うとなれば確実に、正当防衛で済まない規模になっちゃうだろうしね。おそらく神社が半壊くらいはすると思う。
仔細のしれない青樹さんの"ズレ"とか、火野か翠川どちらかが持つ空間転移系スキルとかを加味すると、場合によっては一人くらいは取り逃がしていたかもだけど……ぶっちゃけ一人で来られても三人がかりで来られても問題なく圧倒はできただろう。
ただまあ、本職の能力者犯罪捜査官さんたちが来たなら俺の出る幕ってないからね。資格もないのに、安易に他者に力を振るっていいような職業ではないのだ、探査者ってのもさ。
あと単純に、あからさまに俺に危害を加えようとしてくる人たちを相手にするのが精神的に嫌だなぁーって思いも正直に言えばあった。
何が悲しくてこんな連中に関わらなきゃいけないんだ。青樹さんももう、今の時点では俺の言うことには耳を貸してくれないだろうし。
彼女への説得も次、チャンスがあればと言うことで俺はこうして、観察させてもらっているわけだね。
「100年以上は生きとるじゃろう化物チェーホワ。かつてと同じかそれ以上に力をつけておる様子の我が怨敵エリス・モリガナ。挙げ句、後詰めにフランソワまでおる……ええから退くぞ若造ども! 長居すればするだけ危険度が高まっとるんじゃ、分からぬか馬鹿者!」
「チッ、ああそうかい! 分かったよクソ、クソ!」
マリーさんまで加味して、今が危機的状況だと一喝する火野。
地味に物の数に入っていない早瀬さんがアレだけど、要するにこの老人、昔に何かやらかしてヴァールなりモリガナさんなりの世代の探査者たちにボコスカやられたんだろうな。そんな気がする。
喝を受け、さすがに状況を理解したのだろう。悪態をつく翠川からは一気に戦意が抜け落ちる。完全に逃げの態勢だ……空間転移を使って逃げるつもりか!
咄嗟に鳥居の上を見る。モリガナさんはすでに、弟子の早瀬さんとともに行動を起こしていた。
「葵」
「はいさほいさ、仕掛けまーす!」
三叉槍に莫大なエネルギーを注ぎ込んだ、早瀬さんが即座に空高くジャンプする! 《雷魔導》を武器に纏わせての跳躍、凄まじい勢いだ!
加えて火野たちの背後には、モリガナさんが地味に《念動力》で潜ませている針が三本。早瀬さんの一撃とともにバックスタブをしかけるつもりのようだ。
俺から見てもとんでもないコンビネーションを、まさしく阿吽の呼吸で行って見せる師弟。やはりというべきか、モリガナさんはもちろんのこと早瀬さんもすごい実力者なのがわかる。
このままうまく行けば一網打尽にできるが、さて?
「──ククク。派手な攻撃で目を惹く間に後ろからの奇襲。やはり78年ぶりじゃな、エリス・モリガナ」
「……む。ヤバいかな、これは。なんか逃げられそう」
必死の場面においてなお、嗤う老翁──背後の針まで含め、見抜いている。
どうやら78年前にも同じものを見たらしいが、よく覚えていられるもんだ。それだけ昔日が、モリガナさんが印象に残ったということなのかもしれないが。
そしてそんな火野の姿に、眉をしかめてつぶやくモリガナさん。嫌な予感がしたのだろう。さっきまでの俺と同じだ。
かつてやられた策に対して笑みを浮かべる。ということは、なんらかの打開策があると見るべきだろう。前面の早瀬さん、後面のモリガナさんを凌ぎ逃げ切ることすらできる、絶対の策が。
「逃げ出す前に、突き抜ける! 雷槍技──プラズマチャージ・アクセルライトニング!」
天高いところから、青樹さんたちめがけて一気に突撃していく早瀬さん。その勢いはまさしく稲妻、加速した雷。
アクセルライトニングと名付けられた技にふさわしい威力とスピードを誇る!
──しかし。火野老人はそれにも一切構うことなく、したり顔でニヤリと笑い、告げるのだった。
「今も鮮明に覚えておる。そして対策も準備済みじゃ──《玄武結界》」
なんかヤバそう、と思った瞬間。
老翁はなんらかのスキルを発動し、そして視界一面に光が広がった。
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