わざわざ鳥居の上に乗って登場する意味とは……うごごごごご
陽も落ちかけの境内の空、鳥居の上に人が4人。
よく知る2人と、知らない2人と……いずれも臨戦態勢で、青樹さんたちを見下ろして警戒している。
なぜここに? という、俺の脳裏に浮かんだ疑問に答えるかのようにマリーさんが一人、鳥居から降下し着地する。
引退してなお見事な身のこなしを見せる彼女は、そのまま俺の元に近づき、そしていつもの笑い声を上げていた。
「ファファファ! 古い知り合いと再会してたら、何やら神社周りが異様な空気になっとるじゃないかえ。気になって突っ込んでみたらこの有様だ。公平ちゃん、災難だったねえ」
肩を叩いて労ってくださるマリーさん。最初に感じたとおり、やはり今のこの神社一帯は何かしらの結界で、人払いがされているみたいだ。
その違和感に気づいたのもさすがだけど、普通に結界をくぐり抜けられたのもすごい。まあマリーさんとヴァールならそのくらいなんでもないことなんだろうけど、改めて感心するよ。
「オイオイオイ! マリアベール・フランソワにソフィア・チェーホワまでご登場かよ! どうなってんだ爺、青樹の結界すら思いきり見破られてんじゃねえか!」
「来日して、この近辺に滞在しているとは聞いていたが……山形公平め、奴らまでも掌中に収めていたのか!!」
完全に予想外の事態に、慌てる翠川。どうやら青樹さんによる結界のようだけど、当てが外れたみたいで何よりだ。
それより青樹さんのほうがマズい。さらに俺への誤解が深まっている気がする。なんかマリーさんやヴァールまで洗脳してるみたいに思われてないか、これ? どんどん話が拗れていくけど、大丈夫なんだろうかこれ?
「おお、おおお……!!」
一方でやたら震えて、愕然と鳥居の上、ヴァールたちを見るのが火野だ。感極まった様子で、血走っている目をカッと広げて息を荒げている。
怖ぁ……え、何? なんかあんのヴァールか、あるいはマリーさんと? もしかして因縁の相手とかだろうか。
老翁はそして、同じく震える声でつぶやき始めた。
「同じじゃ……同じじゃ、あの時と。78年前と」
「火野老人……?」
「なんということじゃ! 変わらぬ美しさでなおそこにおるのか、聖女よ! 時に見放された我らが怨敵よ、未だ忘れ得ぬ美しき女よ!」
青樹さんが怪訝に名を呼ぶのも構わず、段々とヒートアップしていく。火野の眼差しは、今ではないいつか、遠い過去に向けられているようにも思えた。
聖女、って称号の話だろうか? ダンジョン聖教の象徴的存在、称号そのものを継承する効果を持つ、極めて特殊なタイプの称号を持つ存在。
てっきりヴァール相手への呼びかけかと思ったんだけど、違うのか? あいつが聖女だったとは考えにくいし。
となると、残るはヴァールとマリーさんに同行している、武装した探査者2人だけど……彼女らについても、見たことがある顔だ。ていうか今朝方と昼にそれぞれ見かけた。
彼女らのどちらか、あるいは両方が火野と関わりがあったのだろうか。老人の情念が篭った叫びは、なおも続く。
「儂を覚えておるか!? かつて貴様に辛酸を舐めさせられた者、火野源一じゃ!! 覚えておろう聖女! 貴様もそのザマであるならば、覚えておらぬわけがあるまい!」
「…………」
「答えろ! 答えてくれ、エリス・モリガナ!!」
両手を伸ばし、哀願するかのように声を荒げる。火野源一。それがこの老人のフルネームというわけか。
鳥居の上の、ヴァールの隣の美女2人を見る。今の話を考えると、どちらか片方が今、呼びかけられたエリス・モリガナという人物になるわけだけど……片割れはもう俺、名前知ってるしな。
となると必然的にどちらがその、モリガナさんかってのはわかる話だ。
「はっはっはー! ご指名ですよ師匠。いやー長生きするとモテモテですね、羨ましくないでーす」
「ハッハッハー、羨ましがられても嬉しくもなんともないから、私としてもどうでもいいかな。というか正直嫌な気分だよ? かつての敵が80年経ってもまーだ懲りずに悪さしているって」
知っているほうの女性──黒髪のボブヘア、どこか達観したような瞳が印象的な──今朝にもお会いした、早瀬さんがおもむろに口を開く。
関口くんと一緒におかし三人娘の指導員をしていた人だ。なんでも師匠と一緒に世界各地を巡っているらしい。小柄な身で、超巨大で機械チックな三叉槍を担いでいるけど、あれもしかして武器なんだろうか? 見たことないタイプだな。
そしてそんな早瀬さんに話しかけられたのは、昼、お寺前の定食屋で一人ブツブツ言いながらカツ丼を食べていたあの人だ。探査者だったのは探査者だったけど、まさか早瀬さんのお師匠さんだなんて。
水色の髪が肩口で切り揃えられた、早瀬さんよりもいくらか幼気な顔立ちの女性。あるいは未成年にも見えるようなそんな彼女が、78年前にあの老人と関わりがあったというのか。
「もう100歳にも近いだろうに、一体何をしてるんだかと私は嘆きたいよ。こんな思いをするんだからまったく、長生きなんてするものじゃないよねやっぱり」
「モリガナ! 答えてくれぬか、モリガナァァァ!!」
「うるさいなあ。いかにも、私が初代聖女のエリス・モリガナさんだよ……久しぶりだねご老人。ずいぶんと成れの果て感をお出しになっていらっしゃるようで何よりだ」
もう前後不覚ってくらいの金切り声で叫ぶ御老体に、うるさげに指を耳に突っ込んで栓をしつつも答えるその女性……エリス・モリガナ。
どうやら本当に、見た目20歳もいってない彼女が火野の言う、78年前の怨敵本人であるらしかった。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
書籍1巻発売中です。電子書籍も併せてよろしくおねがいします。
Twitterではただいま #スキルがポエミー で感想ツイート募集中だったりします。気が向かれましたらよろしくおねがいします




